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じょじたん~商社マン、異世界で姫になる~  作者: K島あるふ
第四章 大領セルテ編

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305/473

305仕置き終了

 そうこうしている瞬く間に、掛かった歩兵のおよそ半数が地に転げた。

 彼らは受け身取れた者もいればそうでない者もいる。

 前者は立ち上がり再び掛かることもできるが、ああも簡単にいなされたことで強い警戒心を植え付けられているし、後者は強く背中や腹を打ってのたうち回っている。


「……そろそろだな」

 頃合いだ、と見たホーテン卿はわざと大仰にグレイブを振って掛かって来た兵たちを下がらせると、愛馬を口笛で呼ぶ。

 賢くも戦場から少し避けていた馬は嬉しそうにヒヒンといなないて主の元へと駆け寄った。


「よし、仕上げとくか」

 ホーテン卿はひらりと愛馬にまたがり、そして警戒して道を開ける兵たちを睥睨しながら、そこにできたまっすぐな道を駆けてゆく。

 道の行き先は、当然マケーレ将軍だ。


「来ましたぞ。さぁ、将としてキッチリ締めていただきたく」

「あ? ……俺か!」

 副官モルガンから言われ、ハッとしたマケーレは傍らにいる従者から自らの武器を受け取る。

 グレイブにも似ているが、それよりも刃の長さが大きい。

 ポールウェポンに属するのだろうが、その三分の一は湾曲した巨大な刃である。

 日本で言うなら長巻の太刀であろうか。

 これを扱える彼もまた、凡夫ではありえない。


「我こそは南東将軍マケーレである!

 鬼騎士と名高きホーテンにあっては、尋常に一騎打ちいたそうではないか!」


 名乗りを上げたるマケーレ将軍。

 だが「南東将軍」という職名はなく、それはあくまで彼の自称であった。

 彼の任地であるギリア男爵国境砦の場所が、セルテ領都より南東にあることを根拠としている。

 ぶっちゃけ、「砦将というよりこっちの方がカッコいいだろ?」と言うのが彼の語ったところだ。


 さて、これを聞いたホーテン卿はくははと小さく笑う。

「二〇〇の兵で爺一人を囲んでおいて今更一騎打ちを所望とは笑わせてくれる。

 だが、あえて受けてやろう。構えろ!」

 言い放ち、馬に足を入れ、駆歩から襲歩へと移行させた。


「受けてみろ俺の必殺のいちげ……」

「甘いわ!」

 マケーレが言いかけ、彼が振り下ろした得物をホーテンがカツンと軽くいなす。

 するとどうだ、マケーレ将軍はこれまでの騎兵や歩兵たちがそうしていたように、あっという間に落馬した。


「は?」

 一瞬の出来事で何が起こったかわからないという顔だったマケーレ。

「さて、お仕置きだ」

 と、まだ状況の判別がつくかつかぬかのうちに、そのころげたマケーレの腹にホーテンのグレイブの石突が叩き下ろされた。

 マケーレ将軍は口からキラキラと汚物をまき散らし、のたうち回った。



「姫様。大バカの負け犬将軍をお連れ致しましたぞ」

「……マケーレだ。負け犬と、呼ぶな……」

 戦闘終結からしばらくして、ホーテン卿が件のマケーレ将軍を連れて将軍府会議室にやって来た。

 ホーテン卿に肩を貸されて、半ば引きずられるように連れてこられたマケーレは、まだ蒼い顔をしているがそれでも口を挟むだけの元気はあるようだ。


「初めましてマケーレさん。わたくしがセルテ侯爵位を継ぎましたエルシィです」

 本来であれば下の者から名乗り挨拶をすべきだろうが、マケーレにその余裕はなさそうだと見たエルシィは自ら名乗った。

 こういうのには侍女頭のキャリナがいい顔をしないが、まぁ時間がもったいないし。


「はっ……は? 本当に子供じゃないか……」

 一瞬、こわばった顔で鯱張ったマケーレだったが、そのエルシィの姿を見て呆然と呟いた。

 その直後、ホーテン卿のゲンコツが彼の後頭部を襲う。

「いてぇ!」

「バカ者。貴様などが許しもなく直答して良い身分のお方ではないぞ」

 普段自分も大して敬った態度しないくせに。

 と、ホーテンという男をよく知る側仕え衆は苦笑いをこぼした。


「まぁいいでしょう。マケーレさんもどうぞ席に付いてください。

 あなたの沙汰もあわせて、これより将軍府の改革についてお話しします」

「は、はぁ……」

 何とも貴顕らしくない実務優先の雰囲気にわずかな庶民的な親しみ憶えつつも、後頭部をさすりさすりマケーレは席に付こうとする。


 その付こうとした席がエルシィにほど近い場所であったから、またホーテン卿に小突かれた。

 仕方なく少し下がった席に付こうとして今度はスプレンド卿に、そして順にサイード将軍、デニス将軍、終いには格下のシモン副将にすら小突かれて、マケーレはエルシィから最も遠い最下の座へとやっと着くことができた。

 まぁ、エルシィに逆らって兵を挙げた形ではあるのでこれも仕方ない。

 というか首が繋がっているだけマシと言えるだろう。


 どうも、こやつはそのあたりの認識がまだ甘いようだ。

 ホーテンをはじめとした諸将は、そうため息をついて首を振った。


 そうして諸将が席に付いたところで、エルシィはホッとした顔を見せた。

 この顔がなんなのか諸将は判らなかったが、彼女にとってはまぁこれがいい機会だったのだ。


 今回の集まりはマケーレの挙兵……ぶっちゃけ反乱ではなく条件闘争の類だったわけだが、それがきっかけではあった。

 が、エルシィの頭には将軍府、ひいては軍部の組織更新も頭にあり、そろそろ手を付けたいと思っていたのだ。

 ただ日々やることが多すぎて、ちょっと後回しにしてしまっていた面があるのは否めない。

 というかそんな仕事はたくさんあるわけだが。


 ともかく、エルシィは皆が席に付いて聞く体制が出来たところで彼女の頭にあった素案を口にすることにした。

「まず新たな枠組みを作るうえで、サイードさん、デニスさん、マケーレさんの将軍としての任を解きます。

 将軍という職は今後、将軍府の長であるスプレンド卿のみに使うこととします」


 名前を呼ばれた諸将は「やっぱりか」という顔をしつつも、将という称号を失ったことにしょんぼりと項垂れた。

続きは来週の火曜日に

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