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じょじたん~商社マン、異世界で姫になる~  作者: K島あるふ
第四章 大領セルテ編

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301/473

301マケーレ将軍の評価

 なるほど、気持ちはわかる。

 と、虚空モニターを前にしたエルシィは頷きかける。

 早い話、彼ら、というかマケーレ将軍は「自分はもっと評価されるべきだ」と思っているわけだ。

 これは我らの住む世界にいる多くの労働者が抱く思いだろう。

 だが、その思いが自らの実力と比して正当な主張である場合がどれだけあろうか。


 彼の演説は虚空モニターを通してこの将軍府会議室にいる各位に聞こえ渡った。

 それを踏まえてあちこちで上がる将軍たちのため息を見ても、マケーレの言い分は分相応とは言い難いようでる。


 さて、現在この将軍府会議室にいるのはエルシィとその供回りであるアベルやキャリナの他に五人の武官がいる。

 そのうち二人の武官はすでにお馴染みである将軍府長であるスプレンド将軍と、将軍府所属ではないが騎士府長のホーテン卿。


 そしてこれもすでに作中で名が出ている、ハイラス領征討将軍としてエルシィ陣営と矛を交えたサイード将軍とその副将シモン。

 彼らはそれぞれの理由で戦う意気などすっかりへし折られ、エルシィが侯爵位に着いた直後に恭順している。


 そしてもう一人が物静かな線の細い白銀の髪の中年将軍、デニスだった。


 この中でシモンだけが格落ちでありここにいる根拠がないのだが、彼は図々しくもなぜかここに紛れ込んでいる。

 エルシィも彼のキャラクター性をなぜか憎めないようで、無言のままにそれを許していた。


「それで、サイードさん、デニスさん、同僚としてのご意見はどうですか?」

 エルシィは演説をやり切ったマケーレ将軍について意見を募る。

 聞かれた両将軍は「ふむ……」と顔を見合わせて困った顔をした。


 これは同僚について悪く言いたくないが、良い情報もあまりない。

 そういう感じだろうか。


「アイツは将軍にしちゃまだまだだが、まぁなにかと兵には好かれるんだ。

 いいとこのお坊ちゃんだし、金回りも悪くねーからな」

 と、代わりに口を挟んだのがシモンだった。

「おぬしは訊かれていないでござろう……」

 一応上官であるサイードはこめかみをピクピクさせながら静かに言う。

 ちなみにもう一人の聞かれた将軍デニスは「お前が言うか」という表情なので、たぶんマケーレはシモンとあまり変わらない評価なのかもしれない。


 が、当のシモンは堪えた風でもなく、それどころか得意満面の顔で言を続けた。

「どうだい侯爵様! ここはひとつ、この俺に当たらせちゃくれないか」

 この言葉に、サイードとデニスの両将軍はすっかり頭を抱えてしまった。

 せめて、言葉遣いだけでも叩きなおしておくべきだった。と。



 そも、シモンとマケーレは言わば同期であった。

 武術の腕前もそして将としての器量も近い二人であり、ゆえに二人はライバル意識を持ち互いにバチバチやり合った。


 そんな中、先に将軍へと昇格したのはマケーレだった。

 シモンは「俺の方が相応しいのに」と、酒場などで舎弟たちに大いに愚痴った。


 そして今。

 ハイラス侵攻軍を編成したおかげで彼は副将へと昇格した。

 ここからさらに高みへ上がるには、手っ取り早いのは将軍を一人蹴落とすことだ。

 そういう打算こそが、この時の彼の思いだった。


 しかもエルシィの家臣として降ったことで、本来の実力にプラスアルファの加護も期待できる。

 これで負けるわけがない。

 そう思ってのことだ。


 ところが、それを聞いて大笑いを挙げる者もいた。

 そえはエルシィ傘下においては古参も良いところである鬼騎士、ホーテン卿だった。

「はっはっは、威勢のいい小僧よな」

「こ、小僧!?」


 反発心もあり、シモンはガタリと椅子を蹴るようにして立ち上がった。

 そしてその声の主を見る。

 するとそこには、獰猛な笑みを浮かべるホーテン卿がいた。


 大陸東部に広がる旧レビア王国文化圏において、最強かもしれないと言われる鬼の(つら)だ。

 シモンの反発心は一瞬で萎えた。

 が、そこはシモンにも意地があり、退きたいところをグッとこらえて口を開いた。


「最強だか知らねーが、あまり俺を舐めるなよ」

 脂汗をかきながらでも、そう啖呵を切れたことは褒めるところだろう。

 同セルテ将軍勢であるサイードやデニスは「ほう」と感嘆の声を漏らし、少しだけ彼を見直した。


「ホーテンが最強……とは、聞き捨てなりませんね」

 と、そこへ割って入るのはもう一人の最強説を担うスプレンド将軍だった。

 シモンは「やべ」という顔をして背中に冷たい汗を垂らした。


 ここで面白くなってしまったホーテン卿が破顔する。

「はっはっは、少々苛め過ぎたか。

 若者が威勢良いのは結構なことだ」

 緊張の糸が張り詰めた会議室が一気に弛緩し、方々でホッと安堵のため息が漏れる。


「とはいえ」

 ホーテン卿はそこで再びニヤリと口元を歪めた。

「ヤンチャな若者をたしなめるのもジジィの仕事よ。

 エルシィ様。ここはこのホーテンにお任せくだされ」

 この言に、もう誰も反論は挟めなかった。


「ジジィだなんて、自分でも思ってないくせに」

 エルシィはそう呟きながらも、ホーテン卿の出撃を許可した。

続きは来週の火曜に

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