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じょじたん~商社マン、異世界で姫になる~  作者: K島あるふ
第四章 大領セルテ編

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299打算

 季節は冬の入り口。

 冷たいそよ風が身体の熱をさまそうとやって来るが、高揚した蒸気を晴らすほどではない。


 今、セルテ領都の門外に布陣した兵はおよそ二〇〇。

 南東方面ギリア男爵国との国境砦に詰めていた兵たちだ。

 率いるのはマケーレ将軍。まだ三十代前半の洒落男である。


 もっとも、そのイケメンぶりはスプレンド将軍と比べるべくもない。

 例えるなら「隙の多そうな残念イケメン」と言ったところだろうか。


 マケーレは将軍府へと出した遣いが戻って来るのを今か今かと待ちながら、領都の関門を眺めていた。

「閣下」

「うん……おお、モルガンか。どうした?」

 そんな将軍の馬に寄って話しかけるのは、彼の副官である中年の男だ。

 機嫌よく振り返ったマケーレ将軍が見たのは、不機嫌そうに眉を寄せる中年副官モルガンの顔だった。


「てっきりこのまま領都入りして新領主様の元へ参じると思ったのですが。

 閣下はなぜこのようなことを?」

 そう、今回のマケーレによる宣戦布告とも挙兵とも呼べぬ半端な挑戦状。

 これは急に知らされたことであり、配下の者たちも全く聞かされていなかった。

「兵たちも動揺しております。

 出来れば説明と……その、従うに足る理を示していただきたく」


「動揺か。うん、まぁビックリはしただろうな。急な思い付きだし」

 思い付きなのかよ。と、うんざりとした顔を隠そうとしない副官であった。


 そもマケーレという将軍は、将軍格の中でも下から数えた方が早い程度の序列であった。

 思慮に浅く、こうして思い付きで何かをやらかすことも多い人物。

 ではなぜそんな男が将軍たりえたのか。

 それはひとえにその思い付きからの思い切りの良さが、これまで良い方向に働くことが多かったからに他ならない。


 もちろん、家柄の良さなどもそこを助け、気づけば小さいながらに国境を守る将軍様であった。


 さて、思い付きにしてもさすがに何の考えもなく、まかりなりにも領主に対して兵を挙げるなど許されることではない。

 勝てればよいが、敗ければ反逆罪である。


 そして噂に聞く新領主、鉄血姫は厳正にして苛烈。

 ジズ公国に攻め入ったハイラス伯国を瞬く間に追い返し、返す刀でバッサリと伯国を切り取ってしまった人物であり、今や知らずのうちにセルテ侯国すらその手中に収めてしまっている。


 そう、知らずのうちだ。

 実のところ、旧セルテ候エドゴルが決めて(おこな)ったハイラス討征は各砦将には知らされていない。

 ゆえに、彼らからすれば「なんだかわからないうちに禅譲が行われて侯爵が代替わりした」ということになる。


 当然、エドゴルの嗣子が次の侯爵になると思っていた者も多く、中にはその嗣子に忠誠心を捧げていた者も少なくない。


 もしかするとマケーレ将軍もその一人か?

 と副官氏は多少好意的にとらえつつ、当の閣下の返事を待った。


「遣いに渡した信にも書いたが別に新しい陛下の元に仕えることは異存ない」

「でしたらなぜ……」

 やっていることがあべこべである。


「いやな。ほら、俺っていまいち評価されてないだろ?」

 評価されるところが無いからである。

 とは言えず、副官氏はグッと口をつぐむ。

「だからここはひとつ、こうして派手な立ち回りをしてから降ることで評価を上げようかなと」


 要するにパフォーマンスだ。

 降ることは決まっているが、ただ諾々と降るのではなく、軍を率いて良いとこ見せてからにしよう。という魂胆だ。


 うわさに聞く鉄血姫がその噂通りの人物なら、そんな上手くいくわけないだろ。

 副官氏は頭痛がする思いで頭を抱えた。



「……などということを考えているのではないか、と言うのがホーテンの言です」

 場所を将軍府の会議室に移し、エルシィはスプレンド卿からそう説明を受けた。

「えぇ……」

 訳が分からない、という顔で引くエルシィを苦笑いで見つつ、スプレンド卿は困った顔で隣で腕組んでニヤついているホーテン卿に言を促した。

 そう「アイツらそもそもやる気があるように見えん」などと言い出したのはホーテン卿なのだ。


 促され、ホーテン卿は自信満々に口を開く。

「兵は動揺しておるように見えるし、将からも戦う者の気が見えん」

「気、でしたか……」

 何を言っているのかわからない、という風で首を傾げるエルシィだった。


「うむ。そうですな。わかりやすく言えば、その気というやつですかな。

 マケーレ、と言ったか? あの将には戦人らしいオーラはない。

 もっと下卑た、打算のような何かだろうな」

「オーラ……でしたか」

 さらにわからない、と言いう顔のエルシィに、ホーテンもちょっと困った顔だった。


 見かねてスプレンド卿が口を挟む。

「ホーテンが言うのも理解できます。

 何というか、戦場特有の空気や緊張が感じられないというか。

 打算を卑下するつもりはないですが……ともかく本気で戦う気はないのでしょう」

 そう補われてようやくエルシィも薄々だが納得できた。


 つまり、武官にしかわからない空気なのだろう。

続きは来週の火曜に

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