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じょじたん~商社マン、異世界で姫になる~  作者: K島あるふ
第四章 大領セルテ編

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297郵便庁の発足

 一人、室内で憮然としてたのは草原の妖精族(ケットシー)のカエデだ。

 草原の妖精族(ケットシー)は伝統的かつ一方的にレオたち山の妖精族(クーシー)を天敵扱いしているのでそういう表情になる。

 まぁ個人的に思うところがあるわけではない。

 お互いの性質の問題である。


 そのカエデに、エルシィはひとつ指示を出した。

「カエデ、アオハダさんを呼んでください」

「承知したにゃ」


 アオハダはカエデの所属する忍衆の頭領である。

 郵便庁の長官人事について、エルシィはかの忍衆から一人出してもらおうと考えていた。

 だがここで浮上する草原の妖精族(ケットシー)山の妖精族(クーシー)の相性問題。

 エルシィはその辺についてどれほど深刻なのかいまいち把握していなかったので、それを含めて相談がしたかった。



 さて、エルシィの命を受けたカエデが執務室の窓まで行き、外に向かってなにがしかの合図を送り、それから一〇分もしないうちに件のアオハダはやって来た。

 エルシィ直下において情報収集や様々な工作に従事するアントール忍衆(しのびしゅう)棟梁である。


 草原の妖精族(ケットシー)にしては大柄なアオハダは跪く。

「アオハダ、お呼びにより参上いたしましたにゃ」

「はい、ご苦労様です」

 ひととおり主従の挨拶を交わし、さっそくエルシィが口を開く。

「アオハダさん。レオくんはご存じですね?」

「……ええ存じておりますにゃ。

 エルシィ様より庇護を頂いた幸運な山の妖精族(クーシー)の子」


 アオハダはその顔に感情を読みにくい無表情を張り付けて答える。

 思うところはあるのだろうが、カエデのように表に出すほどではない。

 あるいはカエデがまだまだ修行不足というところだろうか。


 ともかく、エルシィは相談事を続ける。

「今は文司(ふみのつかさ)が担っているお手紙業務を独立させて郵便庁を開こうと思うのですけど、その長官としてふさわしい方に心当たりないでしょうか。

 ちなみにレオくんはそこの職員第一号となる予定です」


 文司は内司府において古文書等の図書管理、歴の作成、訴訟裁判などを取り扱う部署である。

 公的な郵便業務もまた彼らの領分だった。

 とはいえ、それはやはり片手間業務であり、届く速度はお察しというところである。


 エルシィは官僚たちが忙しすぎる現状をもまた何とかしたいと常々考えており、各司府が持つ職域をもっと細かく分業していくつもりであった。

 郵便庁設立はその第一歩でもあった。


 アオハダは思案する。

 なぜ忍衆である自分にこれを相談するのか。

 これはエルシィがアントール衆から適任者を出してはどうか、という誘いでもあるからだ。


 郵便とは、つまり伝令であり情報の伝達がその職域となる。

 それは確かに彼ら忍衆が扱うにふさわしい仕事と思えた。

 とは言え、現状では忍衆も何かと忙しい。


 エルシィの下に着いてから、実入りや身分という意味での待遇は大幅に改善された。

 が、やるべきこともまた大いに増えた。

 なにせエルシィが望むのは国内、そして近隣諸国のあらゆる情報なのだ。

 もともと山脈に住むだけの少数編成だっただけに人手不足の感も否めない。


 そして問題となるのがもう一つ。

 郵便庁の職員と働くのは山の妖精族(クーシー)の子だという。

 ということは、おそらく主戦力は街に蔓延る野良犬たちになろう。

 ここはエルシィが懸念した通り、二種族間の相性問題が俎上に出て来るわけだ。


 それでも、大恩ある主君より頼られたからには否とは言いたくないのが人情である。

 はてさて、山の妖精族(クーシー)に苦手意識を持たない変わり者など忍衆にいたか……。

「む! ではブンカンカを推しましょう」

 と、脳内名簿を繰りつつ各々の顔を思い浮かべれば、一人の老いたシノビが浮かび上がった。


文官か(ブンカンカ)さん、ですか。

 いかにも官僚向きのお名前ですね。まだわたくしは会ったことありませんね?」

 名を聞き、エルシィは少し上の虚空を眺めつつ、指先でアゴをトントンする。


 彼女はこれまでに会ってそれなりに会話した人であればおおよそ記憶している。

 だがすでに家臣化登録を済ませているはずのアントール衆において、その名は初めて聞くものであった。


「うちのじいじにゃ。

 隠居にゃから、お目通り(家臣化)はしていないにゃ」

 と、横からお茶のお代わりを差し出しながら言うのは、メイドスタイルのねこ耳少女カエデだった。

「ご隠居さんでしたか。

 とはいえ、アオハダさんのご推挙ですから任には問題ありませんね?」

「はいにゃ。うち(山衆)の先代、ホンモチと同期ゆえ、まだまだお役に立つはずですにゃ」


「なるほど、ホンモチさん……」

 エルシィは現在罪人としてハイラス領にて労働刑に従事しているホンモチ老を思い出す。

 府君に就任したクーネルからも「なかなか使えるので少し引き上げます」と報告を受けていた。

 彼と同期ならまだ老け込む齢ではないだろう。


「ではブンカンカさんとお話をし、承諾していただければその彼を長官として郵便庁を発足します。

 お手数ですがアオハダさんはブンカンカさんと会う段取りをお願いします」

「承知にゃ」


「そしてレオくん」

「わふ?」

 これまでの話をエルシィの膝の上でウトウトしながら聞いていたレオは、眠そうな目で首を傾げる。


「レオくんは郵便庁職員第一号です。

 やっていただくのは今日と同じでお手紙を届けるお仕事。

 お友達(のらいぬたち)も一緒に職員に採用しますので、お誘いしといてくださいね」

「わふ! ぼく今から行ってくる!」


 レオの眠気は一気に消え、まるで飛ぶような速さでレオはピュンと音を立てて執務室から出て行った。

「レオくーん、天守内でそよ風のように(ブリーズダッシュ)しちゃだめですよー……」

 当然、そんな声は耳に入っていない。

 なぜなら彼はすでに天守から出て城外へ向けて走っていたからだ。


「……とりあえず首輪を用意しなくちゃですね。アベル、犬さんたちは何人でしたか?

「あー……スマン、一緒に行って数えて来るわ」

 その後、アベルも執務室から駆け足で出て行った。

続きは来週の火曜に

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