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じょじたん~商社マン、異世界で姫になる~  作者: K島あるふ
第四章 大領セルテ編

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295レオの試験

 アベルがレオを連れて初めて街の案内(さんぽ)に出てから数日が経った。

 この何日かは続けて二人の散歩が続く。

 セルテ領都はジズ公国領都などに比べればその倍以上に広く、一日や二日くらいでは回り切れるものではないのだ。


 とは言え、アベルだってこの街をよく知るわけではないので、ともかく二人で色々と一緒になって見て憶えた。

 レオは毎日アベルが迎えに行くと楽しそうに文字通り尻尾を振ってついてきた。


 初日の野良犬ケンカ事件以降、大した事件は無かった。

 事件は無かったが、特筆すべきことが無かったわけではない。

 それの集約が案内(おさんぽ)最終日のありさまだった。


 その日も大過なく街の探索を勧め、もう夕方も近く城に帰ろうという時間。

 北町から南町へ通じる大橋に差し掛かろうという辺りでアベルは振り返った。

「わふ?」

 つられてレオも振り返る。


 その視線の先には、集まりに集まったこの街にいる野良犬たちがいた。

 野良犬たちは彼らの視線に気づくとポテポテと歩いていた脚を止め、お座りの姿勢になる。

「これは……改めてみると壮観だな」

「わふ、おともだちと散歩。楽しいね?」

 この野良犬たちは、二人の散歩が進むにつれその数を増やしていった。

 今や、街中の犬がここに集まったのではないか、という数である。


 驚き半分、呆れ交じりの顔で頬をかくアベルと、そんなアベルを不思議そうに見つつもニコニコなレオだった。

 この二人だけを見ていると微笑ましい光景だが、付いて回っている野良犬の群れを見ると、街の人たちも笑って過ごすわけにもいかない風であった。


 ただ、犬たちもケンカしたり威嚇したりという様子はなく、みな楽し気に尻尾を振っている。

 ゆえに、街の人たちもそれに気づけば眉をひそめることも吊り上げることもしなかった。


 彼らにとって、街に野良犬がいること自体はすでに日常なのだ。

 日常でないのは、その犬たちがこれだけ集団になっていることだけなのだ。


「レオ。彼らはお前の言うことを聞くのか?」

「わふ? みんなともだちだから、お願いなら聞いてくれるかも?」

「……うん、そうか。なる程」


 アベルは、そうしてレオを通して何言か犬たちとやり取りし、その日は解散してもらった。

 明日、いよいよレオの能力について確かめよう。

 そうアベルは思いながら、それぞれの縄張りに戻る野良犬たちの背を見送った。

 その晩、アベルはたくさんのお手紙をしたためた。



 あくる日、ここ数日の例の通りにアベルはレオを迎えに行き、そして街の南北を繋ぐ大橋へと向かった。

 するとすでに昨日別れた野良犬たちが道を開けるようにしながらも集まっていた。


 道行く人たちは何事かと驚きつつも、ビクビクしながら通り過ぎて行く。

 犬たちは気にも留めず、あくびをしたりじゃれ合ったりしている。

「レオ。これからするのはお前のテストだ」

「てすと?」


 犬たちを前にして、アベルはレオに真面目な風で語り掛ける。

 レオもそんなアベルの雰囲気を察して神妙な顔つきになる。

 その空気が伝搬したのか、犬たちもまたぴしっとしてアベルへと顔を向けた。

「いや、お前らがこっち見てもなぁ」

 どうせ言葉は通じてないだろ。と思いつつ、気を取りなおしてアベルは言う。


「レオ。お前の今日の任務はこの手紙を書いてある宛先に届けることだ。字は読めるな?」

「わふ! だいじょぶ。街を歩きながらにいちゃから教わった!」

 ここ数日で判ったがレオは想像以上に賢かった。

 アベルが一緒に歩きながら店や官庁の看板を指さして「アレが何を示すか」と教えてやればすぐ覚えるのだ。

 もっとも言語として覚えているというより、字面をそのまま図形として丸憶えしているような雰囲気ではあったが。


 ともかく、そう言いながらアベルは肩から掛けていたメッセンジャーバッグをレオに渡す。

 鞄の中には数十に及ぶ封書が入っている。

「わふ、にんむ! おてがみたくさん!」

 びっくりしつつも、何か楽しそうなレオだった。


「今日の夕方まで、何通届けられるか。それがテストだ。

 そして一人で届ける必要はない。

 友達に協力してもらっても構わないぞ」

 その言葉を聞き、レオはパッと犬たちに振り返る。

 その眼に、犬たちもまた期待を込めたような眼を返す。


「ここで役に立つことを示した犬たちは、レオと共にエルシィのお抱えになることもすでに話して決まっている。

 頑張って行ってこい」

「わふ! りょーかいであります!」

 レオ、犬たちが揃ってぴしっと気を付けの姿勢になった。

 いよいよテストの開始である。


 早速駆けだそうとするレオの背に、アベルは思い出したようにもう一度声をかけた。

「ああ、お昼には一度ここに戻って来いよ。ご飯は一緒に食べるぞ」

「わかった! いってきます!」

 そうして彼らはたちまち街中へと散っていった。


 ちなみにアベルの用意した手紙は封書に「至急開封されたし」の旨がが、そして内容にはレオのテストであることと、届いた証に一言でいいので返事を寄こす様にとのお願いがしたためられている。

 あて先は街中のあらゆる官庁舎や取引のある商会などである。

 そして一通だけ、街を出て近くの村宛てのモノを混ぜてあった。

 その村とは、レオたちを隠していたあの村だ。


「さて、エルシィの見込みがどれほどか。楽しみだな」

 呟き、アベルは橋から河原へと降りる。

 ここでレオたちの帰りを待つつもりなのだ。


 結果を言えば一度お昼に戻ったレオたちだが、その後、夕方になるより早くすべての手紙を配り終え、返事を持って戻って来た。

続きは来週の火曜に

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