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じょじたん~商社マン、異世界で姫になる~  作者: K島あるふ
第四章 大領セルテ編

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294アベルとレオのお散歩3

 アベルは北街を見回して、眉を寄せた。

 別に道行く人たちに否があるわけではない。

 あるのは我が物顔で闊歩している野良犬の多さだった。


 おおよそ人間一〇人に対し一匹くらいの割合で毛並みの悪い犬がウロウロしている。

 毛並みが悪いのは手入れする者がいない野良犬だからだろう。

 その割に飢えた獣の様な顔はしておらず、堂々とした様子である。


「レオ、ケンカはするなよ」

 野良犬同士がかち合えばケンカが始まることもよくある。

 そうなれば町民たちはそれやれ、とばかりに集まって野次馬になる。

 すでにそんな風景をこれまでに何度か見ていたアベルは、つい、隣を歩くいぬ耳男児にそう注意を飛ばした。

 が、当のレオはキョトンとした顔で首を傾げる。

「わふ、ケンカしないよ。みんなともだち」


 友達ときたか。

 レオは「この街来たの初めて」と言った。

 だというのに何を根拠に仲良くなれると言っているのか。

 まぁ、それでもアベルは「フッ」と微笑まし気にしてレオの頭を撫でた。


 と、ちょうどいく道の途中で件のケンカに遭遇した。

 例にもれず、その辺の町民たちが囲んで声援を送り始めている。

「わふ!」

 気づいたレオが尻尾を真後ろにピンと伸ばして駆け出した。


「言ったそばから!」

 慌ててアベルも後を追う。

 とは言え、駆け出したレオのスピードには易々追いつけるものではない。

 ゆえに、アベルはレオの背だけを見ることとなり、どんな表情でかの地へ向かっているのかわからなかった。


 そんなアベルの心配をよそに、レオは囲う民衆の足元をスルスルと抜けてその円の中へと入り込んだ。

 アベルは一歩遅れて、大人の尻をギュウギュウと押しのけながらなんとか前へ出る。

 そしてアベルが見たのは、キリッと眉を吊り上げて仁王立ちするレオの姿だった。


「ケンカはダメ! みんな仲良く!」

 レオがそう声を上げると、ガウガウとやり合っていた二匹の野良犬がピタとそのケンカを止めた。

 止めて、怪訝そうな顔でレオを見る。


 声援を送っていた町民たちも何事が起こったのかと判断着かず声をひそめ、様子をうかがう。

 少し、場を緊張感が満たされていく。


「ガウ!」

 二匹の痩せ犬が、今度は目標をレオに変えて飛び掛かる。

 見ている者は「あ!」と声を上げるが、それを止める間もなく見ているしかない。

 そもそも間に入って噛まれでもしたら、死に至る熱病にかかることだってあるのだ。

 そう、当然ながらこの世界でまだ狂犬病ワクチンなどというモノは流通していないのである。

 死ぬかもしれないのに他人を助けに入る勇敢な者もいない。


「レオ!」

 アベルは唯一助けに入りたかったが、ただ間に合わなかった。

 様子を見るだけは出来ていたが、未だ大人たちの屈強だったり豊満だったりする身体に挟まれたままだった。



 さて、皆が目を見開き、または凄惨な様子を想像してしまい目をつぶる中、レオと野良犬の両陣は激突した。

 二匹の成犬によって街の石畳に押し倒されるレオ。

 町民から悲鳴が上がる。


「わふー!」

 が、倒された当のレオから上がったのは、どちらかと言えば喜声であった。


 取り囲む町民の頭上に疑問符が浮かぶ。

 当然、心配で表情を歪めていたアベルもまた、大人たちに挟まったまま首を傾げた。

 見れば、レオは押し倒されたままに、べろべろとやりたい放題嘗め回されていた。

「わふー、ダメだってばー、もー」

 などと言いつつ、レオもなんだか楽しそうだ。


 どうやらケンカは終わり、後は犬たちがじゃれ合っているだけだ。

 そう理解した町人たちはホッとしつつも肩をすくめて解散していった。

 残されたのはまだじゃれ合いを続ける野良犬二匹と、いぬ耳を持つレオ少年。

 そしてホッとして腰を抜かしたかのようにへたり込んでそれを眺めるアベルだけとなった。


「なんだよもう、驚かすなよ」

「わふん」

「くぅん」

 アベルの少しだけ叱り付ける風を混ぜた気の抜けた声に、気づいた二匹と一匹は申し訳なさそうに、そう鳴いた。


 ひとしきりじゃれ合いに満足したのか、二匹と別れたレオはアベルの元にターっと駆けて帰って来た。

「あーあ……ドロドロじゃないか。こりゃ後で叱られるかもしれないな」

「わふぅ」

 アベルはそう言いながら、埃と涎まみれになったレオの服をパンパンと叩いてやる。

 砂埃はある程度落ちるが当然ながら涎は落ちない。

 アベルも普段着でホーテン卿にうっかりしごかれたりすると、後に洗濯をしてくれる城の下働きおばさんなどから小言をぶつけられることがあるのだ。


「にいちゃ……ごめんなさい」

 しょんぼりするレオに、アベルはしょうがないな、という態でため息をつきながら首を振った。

「いや、それは城のおばさんたちに、な。

 オレも一緒に謝ってやるから」

「……うん!」

 理解して、レオはしおれた尻尾をたちまち元気にブンブンと振った。



 あまりにレオが泥だらけになってしまったので、ちょっと早いが帰ることにした。

 まぁ、案内の続きはまた明日でもいい。

 と、その帰り道。アベルはふと、思案した。

 もしかすると、あれがレオの覚醒スキルだったのではないか。

 アベルが聞いていたレオの覚醒スキル。

 その名を「みんななかよく(ワンダフルカンパニー)」という。

ぷりきゅあは関係ないよ◝(⁰▿⁰)◜


続きは金曜日に

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[一言] みんななかよし!わんだふる!…エル・クリークはプリキュアだった?
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