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じょじたん~商社マン、異世界で姫になる~  作者: K島あるふ
第四章 大領セルテ編

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291母子をお迎えに

 山の妖精族(クーシー)親子との話し合いも済んで三日後の朝。

 異動の支度が済んだ母ベラと子レオを迎えに行こうと、エルシィがハイラス主城にいるクーネルへと虚空モニター(回線)を開く。


「おはようございますクーネルさん。

 お約束の日ですので、ベラさんたちを今から迎えに行きますね?」

「……えーとですね」

 ところが、ハイラス府君クーネルは眉間のシワを揉み解しながら、どうにも曖昧な表情だ。


「どうかしたんですか?

 っは! もしや何か悪い事でも……」

 主君が迎えに来るというのに、当の本人たちを出せない、となればよもや事故や病気ということも考えられる。

 まぁ、どうモニターからクーネルの顔色を覗いていたキャリナからすれば、そう深刻な様子ではなさそうだと思われたが。


 クーネルはため息を吐きながら、諦めた様にその理由を述べる。

「それがですね、あの母子。もう出発しました」

 たっぷり数秒使ってその一言をかみ砕き、エルシィは大きく首を傾げた。

「……はい?」


 話を聞くと、どうやら「そこまで主君の手を煩わせるわけにはいきません」などと言って、話し合いの日の晩には荷物をまとめて首都を発ったらしい。

「え、じゃぁ今頃、どこか街道の途中ってことですか!?」

 エルシィが困惑と驚きをまぜこぜにした表情でそんなことを言うと、クーネルは首を振って指折り数えた。

「まぁ街道と言えば街道ですが、そろそろナバラ街道砦に着くころでしょう」

「まだ三日しか経ってませんが!?」


 ナバラ街道砦とは、晩秋にあった旧セルテ侯国襲撃を防ぐために急遽建てられたあの砦だ。

 ハイラス領とセルテ領がすでにエルシィの手に堕ちた今となってはすでに不要な軍事施設なわけだが、現在は少数の警士を置いて現状維持されているところだ。

 ぶっちゃけ、解体するにもそんな余裕が無いのである。


 そのナバラ砦まで精鋭の騎士隊が駆けた場合、おおよそ五日の旅程となる。

 山の妖精族(クーシー)親子は人間より早いとはいえ徒歩なので、もう少し時間がかかるだろう。

 エルシィはそんなことを考えながらクーネルの言に驚いたのだ。


「エルシィ様は山の妖精族(クーシー)の能力を低く見積もり過ぎですにゃ。

 あいつら走らせたら人を乗せた馬なんかより、よっぽど早いにゃ」

 と、あきれ顔でそう口を指すのはエルシィの後ろで控えていた草原の妖精族(ケットシー)のカエデだった。


 そういうモノなのか。と、いたく感心した様子でエルシィは「ほへー」と口を開けてしばし天井を眺めながら、四つ足で大地を駆ける母子を思い浮かべた。

 たぶんこれは違うだろう、と心で注釈を付けながら。



 ともかく、そういうことらしいのでクーネルとの虚空モニターを閉じ、続いてベラの元へと開く。

「初めからそうしておけばよかったですね」

「たはは、まったくですね」

 開きながら、やはり側でエルシィの補佐仕事を進めているライネリオとそんな他愛もない軽口を交わした。


 さて、当の母子はと言うと虚空モニターを開いた時には、ちょうど砦から出発しようと大きなリュックを「よいしょ」と背負うところだった。

「わふ! おはようございますエルシィ様!」

「おはようございわふ!」

 スン、と鼻を鳴らした二人はすぐに気づいたようで、視線より少し高いところに浮かんだ虚空モニターに向かってあいさつした。


 もしや虚空モニターって映像だけじゃなくて匂いも届いているのかな?

 などと少々外れたことを考えつつ、エルシィは「おはようございます」と返した。


 その後は遠慮と勧めの言葉を応酬し、しばしの時をかけてようやく二人を元帥杖の権能によってセルテ領主城へとお迎えできた。


「わふ、お手数をかけました」

「かけました!」

 ベラは恥じ入るように深々とお辞儀をするが、レオは言葉をなぞりつつも興味津々という風で侯爵執務室をきょろきょろと見回していた。

 ふと、エルシィにしか見えないはずのイナバ翁に目を止めて「わふ?」と首を傾げる一幕もあったが、やはり見えてはいないらしい。


「いえいえ、早く新しい宿舎とお仕事に慣れていただきたいですからね。

 その方がわたくしにとってもいいのです」

 そうエルシィは返し、続けて今後のことを話す。

「数日は新しい生活を整えてください。

 お金も幾らか用意してありますので、必要なモノを買うと良いでしょう。

 案内が必要なら、わたくしかアベルに声をかけてください」


 と、執務室内でエルシィの警護の任についていたアベルを呼ぶ。

「アベル、お手数かけますが二人を親子用の官舎に案内して、数日は気にかけてあげてくださいね」

「ああ、わかった。

 二人とも、こっちだ」

 アベルは一見憮然とした表情ではあったが、素直に頷いて山の妖精族(クーシー)の母子を手招きする。


「よろしくお願いします」

 ベラはすぐに向き直って年端も行かぬ子供であるアベルにもまた深々と頭を下げた。

「いや、あんたたちも俺と同じくエルシィの家臣だ。

 言ってみれば家中にあって家族みたいなもんだから遠慮はいらない」

「そういうモノですか」

「そういうもんだ……で、いいよなエルシィ」

「ですです。みんな仲良し。大歓迎です」

 と、エルシィも頭上に両腕で大きくマルを描いて答えた。


 それらをキョロキョロと見ていたレオは、尻尾をパタパタと振りつつアベルの傍らまでタっと駆け寄ると、彼の手をぎゅっと掴んで「えへへー」と笑った。

おかしい、話が遅々として進まない(いつも)


次は来週の火曜です

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― 新着の感想 ―
[一言] このショタわんこあざと過ぎる!ちょっと悔しいけどかわいいですねこれは
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