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じょじたん~商社マン、異世界で姫になる~  作者: K島あるふ
第四章 大領セルテ編

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286外交官ヤニック

 いつもの書類仕事の途中。これまたいつもの通りにふと思いついた雑談が挟まる。

「エルシィ様。そう言えば、あれでよろしかったので?」

 その中でそう問いを発したのはライネリオだった。


「何がですか?」

 問われたことが判らなくて、エルシィとキャリナは揃って首を傾げる。

 これは言葉が足りなかった、とライネリオはすぐに継いで口を開いた。

「ほら、数週間前に謁見したデーン男爵国の外交官の男です」

「ああ!」

 やっと合点がいってポンと手を打つエルシィだった。


 デーン男爵国の外交官。

 つまりはダプラ将軍をそそのかして挙兵させた男である。

 アントール忍衆によって彼は捕縛され、エルシィと直接の謁見を果たし、事の経緯を聞き出し、そして釈放された。


「でも、そのまま留め置いても特に用はないでしょう?

 彼だって国元に家族がいるでしょうし。

 返してあげるのがうぃんうぃんというモノです」

「そうでしょうか……」

「……そうでしょう?」


 ライネリオは主君の瞳をじっと見て、どうやら本気でそう思っているな、と、納得しつつため息をついた。

 彼を抑えておけば、デーン男爵国から何らかの始末を引き出せるだろうに。


 しかしまぁ、かの国もまた然程豊かではない。

 その貧国から賠償を引き出すためのあれやこれやを考えると、確かにこれで良かったのかもしれない。

 ライネリオはそう思いなおし、「そうですね」とニコリと微笑みを返した。




「ようやく着いた……」

 一足早い冬を迎え雪がちらつくデーン男爵国。

 その領都に外交官ヤニックはなんとか帰国を果たした。


 そう、彼は先だって旧セルテ侯国の国境砦を守る将軍ダプラをそそのかして挙兵させた、デーン男爵国外司における対セルテ局の課長である。


 課長と言うと中間管理職であり、普段は上の局長と下の係長に挟まれ胃の痛い仕事に従事している。

 そのヤニック。

 今回の仕事を言い渡された時は言いようのない解放感に包まれた。


「だってねぇ……上も下もいない場所で単独の特務ってんだから、そりゃ浮かれましたよ」

 人によっては「部下もつけずに!」とプライドを刺激されて怒りだすような仕事ではあったが、まぁそこで「やったぜ」と思う人物だからこそ指名されたとも言える。


 ともかく、混乱する旧セルテ侯国の辺境にて、それなりに力ある将軍のバックについて独立させる。

 それだけの簡単なお仕事で、しかも成功すれば昇進レースで他の課長に差を付けられると来れば心浮き立つのも仕方ない。


 だが、彼はその任務に失敗した。

 いや彼を責めるのは酷というモノ。

 デーン男爵国首脳部の誰もが失敗するなどと思っていなかったのだ。

「簡単なお仕事、だと思ったのですけどね……」

 当のヤニック課長もそう大きなため息をつき、デーン領主城への道をトボトボと歩くのだった。

 この後には報告という仕事が待っている。

「うう、寒い。心も体も。……気が滅入るなぁ」



「なんだと!? 失敗……した?」

 デーン男爵国領主城執務室、そのど真ん中にある最も格式高い執務席にて驚愕の顔で立ち上がったのは、当然ながら国主デーン男爵陛下その人である。

 少々ふくよか、というかぽっちゃり気味のデーン男爵は、最初こそ驚き、そして次第に怒りに赤く顔を染め、たまたま手にしていた嘆願書を床にたたきつけた。


 傍ら後方に立っていたどこか司の係員が悲しそうな顔をしたので、きっと彼が持ってきた書類なのだろう。


 すまんなどこか司の。

 ヤニックはそう心で呟きながら身をすくめる。

 とはいえ、今は名も知らぬ係員を案じている場合ではない。

 というか、なぜ私はここにいるのだ。

 ヤニックは誰にも聞こえないような小声でぼやく。


 本来であれば彼が報告すべきなのは上長である対セルテ局の局長だ。

 だが、その局長の前に参上してみれば、彼は満面の笑みで迎えられ話もさせてもらえずそのままここへ連れてこられた。


「良い報告はお前の口から男爵陛下に差し上げろ。

 それがお前の評価につながる」

 局長はそう言っていた。

 いや、本心からそう言っているので良い上司なのだ。


 しかし今回ばかりはそれが仇となった。


 怒りにまみれたデーン男爵陛下。

 その傍らで苦虫を噛みしめたような顔をしているのが財司長と水司長。

 そしてその財司長と水司長を「ざまみろ」という顔で見てるのが築司長だ。


 どういう構図だこれ?

 と、ヤニックは下を向いたまま小首を傾げた。

ちょっと長くなったのでキリが悪いけどここで切ります

続きは金曜日に

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