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じょじたん~商社マン、異世界で姫になる~  作者: K島あるふ
第三章 大国の動向編

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276空からの声

 国境砦の上空に現れた巨大なエルシィの上半身。

 これは当然ながら元帥杖による権能の一つ、虚空モニターである。

 虚空モニターは大きさを自由に変えることができるのでとにかく大きく、遠くからでもわかるようにと、野球場のオーロラビジョン並サイズにしてみた。

 さすがにこのサイズはそこそこの練習を要したが、まぁそれでもできないことはなかった。


「ああ、向こう側から見られないのが残念でなりません」

 これから砦への勧告を行おうと画角外で待機しているエルシィを手伝いながら、近衛の少女フレヤは幾らか悔しそうに、しかしながらとても楽しそうにそうのたまった。


 現在、セルテ主城の侯爵執務室では簡単に放送の準備をしているところだ。

 どんな準備かと言えば、虚空モニターに映し出される画角のバックに空色の布を用意している。

 これによって砦上空側からするとエルシィだけがぽっかり浮かんでいるように見えるという寸法なのである。


 さて、準備が整ったところで、エルシィがいよいよ画角に入り、そして砦側の見張りからは突然空に彼女が現れた様に見えた。

「あー……、こほんこほん。

 初めまして砦の皆様。

 わたくしは先日侯爵位を譲り受けましたジズ大公が娘、エルシィです」


 初めそれを見た砦の見張り番はあまりの驚きにポカンと口を開けて眺めるだけで、それ以上の行動をとることができなかった。

 それはそうだ。

 空は鳥や、伝説に聞く空飛ぶ魔獣の領域であり、人間が到達できる場所ではない。

 そこに大写しになった幼くも(たっと)き少女の姿。

 これをどう見ていいかなど、さすがにそんな教育も受けていないし、想像力もない。

 数人一組の見張り兵の中には、膝をついて祈り出す者すらいた。


「あー……聞こえてますか?

 将軍さんなどがこの言葉を聞けるよう呼んできてくださいませ」

 当然、その状況はエルシィからも見えているので、砦の兵の反応に少し困惑しつつそんなことを言った。

 言われ、見張り兵の数人が慌てて駆け出す。

 これで砦の幹部もすぐ出て来るだろう。と、エルシィはひと時ホッとした。


 そのまましばし待つこと一〇分程度だろうか。

 砦の屋上スペースには将軍らしい厳つい男や、どこかの高官らしい風体の者まで出て来た。

「エルシィ様、あれがデーン男爵国の外交官ですにゃ」

「さっき言ってたアレですね。なるほどなるほど」


 画角外からそう声をかけられ、小声で頷く。

 先に砦へと送り込んでいた侍女見習いカエデからの報告である。

 アントール忍衆の一員でもある彼女はあの会議の日から数日、砦へと潜伏して今回の挙兵挙国について探っていたのだ。


 当然、その行き来往復はエルシィの元帥杖によるものなので、交通費も時間もひとっとびである。


 エルシィは改めて砦の人々に向けて声をかける。

「初めまして砦の皆様。

 わたくしは先日侯爵位を譲り受けましたジズ大公が娘、エルシィです」

 物見兵の呼びかけで出て来た者たちからどよめきが起こる。

 人を驚かすのは割と楽しい部類なので、エルシィはちょっとだけテンションが上がった。

 ともかく、言葉を続ける

「これは最初にして最後の勧告となります。

 すぐさま独立などという宣言を撤回し恭順なさいませ」



 初め唖然としていた砦将ダプラだったが、その勧告を聞いてカッとなった。

 武力に自信のある彼からすれば、こうした一方的な降伏勧告など腹立たしいことこの上ない。

 だが、それだけでもない。

 今、上空に現れた幼き少女、姫侯爵の姿に恐怖し、無意識的にその恐怖から逃れようという行動でもあった。

「ふざけるな! 戦わずして降伏など、あり得んわ」

「……そうですか」


 即座に上空から返事があったのでギョッとした。

 なぜかこれは一方的な呼びかけに過ぎない、と思い込んでいたからだ。

 だがどうやら会話できるということはあれは幻覚でも何でもないのだろう。

 幻覚でないのなら、とダプラ将軍はすぐに配下を振り返る。

「ええい、弓兵は何をしている、矢を射掛けよ」

「し、しかし、あのようなモノ……いや御方に射掛けるなど」

「御方だと? アレが何だというのだ。あんなものは妖かしだ! 成敗せよ」


 兵の言いたいことも解る。

 あんなことは神の所業ではないか。

 ダプラの脳裏にもそうよぎったのだから。

 だが認めるわけにはいかないのだ。

 認めてしまえば、その瞬間に自分は神に唾した愚か者に成り下がる。

 であれば、アレを亡き者にして勝者となるしかないのだ。


 だが、そうしてまごまごしているうちにエルシィは次の行動に移る。

「あちらをご覧くださいませ」

 エルシィが手の平で指し示す方を一斉に見る。

 そこは砦から少し離れたところにある丘というか低山というか、とにかく草木があまり生えていない隆起場所だった。

 そしてその丘の上には目印になるような大きな岩が鎮座している。


 砦とその周辺にいる皆がそれを視界にいれ、そして不思議そうに首を傾げた。

 その風景は土地の者にとってはすでに馴染あるモノであり、なぜそれを上空におわす御方が指示したのか解らなかった。


 が、どこかから「ヒュー」という風切り音がしたかと思うと、その岩が轟音とともに消し飛んだ。

 種明かしをすれば、それは神孫の双子、姉の方。バレッタによる「覚醒スキルおーぷん・ざ(全砲門)・ふぁいやぁ(開け)」である。


「恭順しないというのであれば、砦から打って出ることをお勧めします。

 私の忠実なる臣が、あなたたちを打ち砕くでしょう」


 言われ、また彼女の指し示す方……今度はその消し飛んだ岩の反対側の平原を見れば、そこにはいつのまにか現れた武装集団がいた。

 これまた元帥杖によって移動してきたスプレンド卿率いる五〇〇からなる群勢だった。

続きは金曜日に

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