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じょじたん~商社マン、異世界で姫になる~  作者: K島あるふ
第三章 大国の動向編

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275/473

275国境砦の様子

地理については260話のあとがきにある地図をご参照ください

 この度、ジズ公国セルテ領から離脱し独立を宣言したのは、デーン男爵国との国境と定められた付近にある砦である。

 これはセルテ領都からすると北東方面に位置し、そのすぐ近くにはアスタという港街がある。

 この港町はハイラス領から出た西回りの交易船がグリテン半島を越えてやってくる終着点だ。

 ちなみにここより東の先となると冬季には氷河の覆われるため、期間限定の交易しかできなくなる。


 つまり、すぐ隣にあるデーン男爵国は国土の多くを海に面している割に、その恩恵を十全に受けることができぬ国であり、かの国にとってセルテ領港街アスタは是が非でも欲しい場所ということになる。



 そんな街にほど近い砦を拠点としたダプラ将軍は、当然ながらこの港街アスタをすぐさま盗るつもりである。

 だが、その為の占領作戦を開始するのに少々手間取っているのも確かであった。


「ダプラ将軍殿。いつになったらアスタを盗りに出るのですかな?」

 対デーン国境砦の将軍居室にて当のダプラ将軍にそう問うのは、いかにも外交文官風の中年男だった。

 その男は幾らか神経質そうにイラつきながら、ウロウロとしている。

 ダプラ将軍もまた彼の態度にイラつきつつも、その感情を抑えてため息をつく。

「砦内の粛清に手間取ったが、それもやっと終わった。

 一両日中にやる。

 あんたはもう少し落ち着いて、黙って見ていればいい」


 そう、なぜ手間取っていたかと言えば、彼の下に配された兵のうち何割かはこの度の独立に異を唱えていたからだ。

 そもそも彼らの多くは侯国への忠誠心はあってダプラ将軍へ従っているのだ。


「黙っていろですと!?

 ダプラ将軍、あなたを支援しているのがいったい誰なのか、お忘れではないでしょうな?

 それに独立の宣誓書をセルテ領都に送ってからもう二週間。あの姫侯爵がいつやってくることか……」

「ちっ」


 ダプラは忌々しそうに舌打ちをする。

 この外交文官は偉そうにするだけはあり政府の高官である。

 ただし、それはセルテ侯国のではなく、隣国、デーン男爵国の外交官だ。


 ただ外交官とはいえ所詮は小国の文官であり、セルテ侯国の広さを実感的に解かっていないと見える。

「解っていないようだから教えてやるが、宣誓書は今頃やっと領都に届いたころだ。

 そこからもし討伐軍を整えて出立したとて、ここに到達するのは最低でも一ヵ月はかかる。

 だがセルテ侯国は新たな侯爵の元、ジズ公国に編入されたばかりだ。

 新体制の元にすぐ軍の編成など、簡単ではない。

 であれば……」

「……あれば?」

「奴らが進軍の準備を整える頃には、もうここは雪のちらつく冬だ。

 砦攻めなど満足にできんさ」

「なるほど……」


 そう聞いたデーン国の男は一応落ち着きを取り戻してウロウロするのをやめる。

 忌々しい足音が消え、ダプラ将軍の居室にやっと静寂が訪れた。


 つまりダプラ将軍の独立挙兵の裏には、デーン男爵国が付いていたのだった。

 デーン男爵国にとって、いつでも交易に使える港は喉から手が出るほど欲しかった。

 ゆえに此度の侯爵交代の混乱に乗じてダプラ将軍をそそのかして港を盗ることにしたのだ。


 もちろん、目論見が成功してもそこはダプラ将軍がトップに立つ新たな小国となるわけだが、そこは後見国として存分に介入させてもらう心づもりなのである。


 この陰謀の利点と言えば、もしダプラ将軍が失敗してもデーン男爵国はとっとと逃げてさえしまえばあとは知らんぷりできるということである。


「なるほどにゃぁ……」

 と、そんな二人のやり取りが一段落したところで、部屋のどこからか独特な訛りを含む声が聞こえた。

「だ、誰だ!?」

 慌てて声を上げたのはデーン国の外交文官であり、ダプラ将軍はさすがに落ち着いていた。

 落ち着きつつも鋭く目を配り、その声の正体を探る。


 将軍の居室、とは言えここは砦という軍事施設だ。それほど広くもない。

 なのに件の声の主は一向に見つからない。

「あの訛り……山の民(アンドラン)か?」

「知っているのかダプラ将軍」

「ああ……数度だが会ったことがある。獣の様な耳を持つすばしこい奴らだ。

 さては姫侯爵の送り込んだ密偵か?」

「さっきの話ではまだ一ヶ月は来ないということだったではないか!」

「いちいち大声を出すな! ……それは軍を率いてきた場合だ。

 早馬であればもっと早く……それにしたって密偵が来るのは早すぎるな」

「すでに疑われていたということか?」

「む、さすがにそれは……」


 と、言いかけたところで、居室の扉を叩く慌てた様子の音が響いた。

「入れ! 何事だ!」

「将軍閣下! 空に……鉄血姫が!」

「空に!? 何を言っておるのだ。ええいちゃんと報告せよ!」

「それどころではありません、とにかく、早く屋上へ!」


 訳が分からぬ。という思いをいだきつつも、ダプラと外交文官は急ぎ報告に来た兵の後について部屋を出た。

 向かうのは居室のある棟から出てすぐのところにある屋上空間だ。


 この砦は基本的には平べったい三階建ての箱型構造物である。

 外壁に当たる部分を分厚く強固に作り防壁ががわりとし、その内部は倉庫や兵たちの部屋となっている。

 この建造物に入るためには外側に据え付けられた階段を使って屋上へ出てから建物内へと入る必要がある。


 この屋上は平時には訓練場であり、戦時には弓隊投石隊などの仕事場となり、攻め込まれれば主戦場となる。

 そしてかの将軍の居室や物見台などにされる塔が、その屋上に建っている。


 ゆえに、将軍とデーン国高官はすぐにその屋上空間へと出ることができた。

 そして彼らは見た。

 砦上空に大きく映し出された薄金色の髪の幼き支配者の姿を。


 彼女は言う。

「初めまして砦の皆様。

 わたくしは先日侯爵位を譲り受けましたジズ大公が娘、エルシィです」


「なんだ……これは」

 二人は、いや、これを見上げている砦の兵も非戦闘員も、はたまた近くに畑を持つがために仕事していた農民たちも、たまげるばかりでそれ以上の声を失った。

続きは来週の火曜日に

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― 新着の感想 ―
[一言] 元帥杖なんてチートのある国で反乱起こすなんてどんな勝算が?と思いましたが単に情報が足りてないだけでしたかなるほど
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