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じょじたん~商社マン、異世界で姫になる~  作者: K島あるふ
第三章 大国の動向編

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271傭兵団国と勇者

 オーグル傭兵団国はエルシィたちのいるセルテ候領からすると、東に二つほど国を挟んだ向こうにある国である。

 ゆえに、会議に臨席した面々の半数は名前すら知らず、名前を知っている者でもそれ以上というと皆が口を閉じて目を泳がせる。


 この会議室の中でかの傭兵団国に付いて一番詳しいのが旧セルテ候エドゴルということになる。

「とはいえ、俺だってそんなに詳しいことを知っているわけじゃないぞ。

 なにせ国交もないからな。

 件のメコニームについて調べた時に、少しだけ国内情勢を知ったくらいだ」

「それでもここにいる誰より詳しいわけでして。

 お話ししてください」


 エルシィからそう言われると、どうにも孫娘から童話の読み聞かせでもせがまれているような気分になり調子狂うのだが。

 などと思いつつ、エドゴルは彼の知っているオーグル傭兵団国について語った。


 曰く。

 オーグル傭兵団国はつい一〇年前まではオーグル王国と言った。

 オーグル王国は北から度々侵入してくるバルフート帝国との戦いに疲弊し、ついには傭兵に国を乗っ取られたという。


「そんなことがあるのか……?」

 怪訝そうに眉をしかめ、誰に問うでもなく呟いたエルシィの近衛頭であるヘイナルだが、彼の言には多くの者が同意とばかりに頷き合った。

「普通ではありえないだろう。

 そもそも傭兵と言うのはならず者集団で、団と言ってもまとまりは無い。

 国を乗っ取る程の規模の傭兵団など聞いたこともない」

 そしてその疑問を推す様に、軍事関連に最も明るいであろうスプレンド卿がそう言った。


 ゆえに皆が答えを求めてエドゴルへと再び視線を集めた。

「うむ。普通であればそうなのだ。普通であればな」

「普通ではなかった、と言う訳か」

 そこへエドゴルがそのように答えたので関心はより高まった。

 思わず口を挟んでニヤリとするホーテン卿である。

 彼の嗅覚が、今の話から強者の気配を感じ取ったのだろう。


 エドゴルはそんな戦闘狂へと少し嫌そうな顔を向けてから、その名を口にした。

「その、今は一つのオーグル傭兵団などと名乗っているが、そもそもはほんの小さな傭兵団の集まりだ。

 その中核にいるのが、勇者エドアルト」

「勇者……」

「勇者?」

「勇者ってなんだ」

 皆が困惑気に顔を見合わせる。


 勇者とはなんであるか。

 我々にとって勇者とは、ゲーム文化のおかげで物語の中には何やらそういう職業の人がいる、ということになっている。

 が、本来はその文字の通り「勇気ある行いを成し遂げた者」に与えられる二つ名やあだ名、称号である。

 エドゴルもまたそれが判っているからこそ、皆の困惑の表情に納得気味に頷いた。


「解るぞ。

 俺も初めて聞いた時、正気を疑った。

 が、まぁそう呼ばれておるのだ。仕方あるまい」

 なるほど。と、聞いている者たちはとりあえず困惑や疑問を飲み込んだ。

 まぁ、周りの人たちからそう呼ばれているなら仕方がない。

 なぜ呼ばれているかについては判らないが、きっと何か勇気ある行動を行った末に今の地位を得たのだろう。


 当然、神から「お前は勇者だ」などと言われたとは誰も考えもしないのである。


「ともかく、傭兵団に乗っ取られたオーグルは、そのあと帝国の属国にでもなると近隣国からは思われたらしい。

 が、その思惑とは裏腹に、未だ帝国との戦いを続けているのだ」


 なるほど、勇ましい国であることは確かのようだ。

 しかし、その国からかの麻薬、メコニームが流れて来るのでは、セルテ候領としては素直に褒め称えるわけにもいかない。


「ふむー……傭兵団国のことは少しわかりましたけど、とは言え遠国ですからねぇ。

 国交もないのでは苦情も言えませんし」


 エルシィがエドゴルからの話を受けて、困ったように腕を組みのけぞった。

 その拍子に椅子の前足が床から浮くが、足をプラプラさせて上手くバランスを取っている。

 初めハラハラして見ていた侍女キャリナだったが、さすがに行儀悪いと思ってすぐ椅子の背もたれを押して着地させた。


 それがきっかけになった。

 訳ではないが、エルシィは一つ思いついてにへっと笑う。

 ちょっと普段見ない意地の悪そうな笑いだったので、信望者であるフレヤでさえ少し引いた。


「コズールさん」

「あ? ……いや、はい。何かご下命が?

 かの傭兵団国でまた不満分子でも煽って来ますか?」

 まさか自分に話が来るとは思っていなかった元不正警士のコズールだが、自分に指令が降るなら、と先回りして言った。


 エルシィは満足そうに頷いてから小さく首を振る。

「いえいえ、今回は遠国のことですしそれほど危ない橋は渡らせませんよ」

 その顔はさっきの意地悪そうな表情とは違い、いつも通りの屈託の無さそうな笑顔である。

 逆にコズールには極悪そうに見えるのだから不思議だった。


「コズールさんには商材ネタと資金を提供しますので、オーグル傭兵団国で商いをして来てもらおうかと思います。

 もちろん後で出した資金は返してもらいますが、儲け分は懐に入れていただいて結構です。

 そしてこれは公的事業ではなく、コズールさんに商会を作ってもらって、個人の裁量で行ってもらいます」


 資本金はエルシィ持ちで商売ができる。

 何やら良い話のようにも聞こえるが、それだけの訳がない。

 だが、コズールは脳内で損得勘定を大急ぎをしてから大仰に跪いて見せた。


「はは、エルシィ様の仰せのようにいたします。

 それで、何を売ってきたらよろしいので?」

次回は来週の火曜を予定しておりますが、仕事で出張中なので予約投稿になると思います

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