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じょじたん~商社マン、異世界で姫になる~  作者: K島あるふ
第三章 大国の動向編

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265クレタ先生の促成校

「それにしたってハイラス領の人手不足は深刻でしょう?

 もっと有能な方々に手伝ってほしいのですが?」

 ひとまず騎士府の人事はフェドートに、暫定的にだが決まった。

 府君と決まったクーネルにとっては知らない顔でもないのでこの際はいいだろう。

 ただ、ハイラス領の人材の歯抜けはまだまだ解消しきったとは言えないのだ。


 なぜか。

 それはおよそ数か月前にエルシィがハイラス領を治めることになった時、割と無視できない数の司府要人や官吏役人が彼女を恐れて逃散したからだ。

 逃げたのはいずれも大なり小なり不正を行っていた自覚のある者たちであり、彼らはエルシィのそれまでの行いに付いて噂を聞き、自分が罰せられるより先にと姿をくらませたわけだ。


 ちなみに探せばおそらくセルテ領内にも彼らはいるだろう。

 ただまぁ、足の速い者はやはりエルシィが来たことを知ったところで逃げおおせていたりする。


 という訳でハイラス領はエルシィが治めるようになってからこっち、ともかく人手不足だった。


「それについてですが」

 と、かのクーネル府君の不満に応えるのは、エルシィの元教育係であるフワフワ髪の老女史、クレタ先生だ。

 彼女もハイラス領の頃からエルシィの家臣であり、文司に出向してエルシィの政策の為に働いていた。


 そのクレタ先生は言う。

「エルシィ様がハイラス鎮守府総督に着いてすぐのころから官僚を育てる為の促成校を開いておりましたが、その一期生がそろそろ修了して出てくる頃です」

 促成校の開設。

 もちろんこれはエルシィの指示である。


 人手不足解消のためにエルシィが行ったのは、在野の人材を公募することだった。

 とは言え、来たものを拒まず受け入れる、という訳にはいかないので、一定の能力や思想を確認するための試験を課した。


 これに合格した者はわずかな研修の後に即採用という形になったが、惜しいところで不合格だった者も多数いた。

 この者たちに「今後の活躍を期待しています」とお祈り通知をするのではなく、数か月の教育で合格水準に引き上げよう、というのが促成校の目的である。


 この促成校は基本的に授業料無料なので、声掛りがあった者はほとんどが入校した。

 それはそうだ。

 そもそも最初の官僚採用試験に応募した者は、官僚になりたかったのだから。

 ただ、もしこの促成校終了後に任官拒否してまた野に下る場合は、一括で授業料の返還を求められることになっている。


「その人員全部こっち貰えるんですよね!?

 幹部クラスが足りないのは解消しませんけど、まぁ少しはマシですかね」

 クーネルは少しだけホッとした顔で肩から力を抜いた。


「こっちにも欲しいところではありますけど、ハイラス領で採用した方々ですからね。

 いきなりセルテ領へ来てくれ、と言ってもなかなか」

 実のところセルテ領でも同じように不正官僚の逃散は起きているので、ハイラス領ほどではないにしろ人手不足である。

 ゆえにエルシィは肩をすくめながら、そうぼやきもした。

「セルテ領でも急ぎ採用公募を行い、促成校も整えましょう」

 と、クレタ先生はなだめる様に言う。

「そうですね。そうしましょう。

 ハイラス領の人事については、後はもうクーネルさんのお好きになさって結構です。

 コネ人事上等ってことで、お知り合いの有能な方をどんどん引き上げてください」

「なるほど。承知しました。

 ならフリアンを内司府長に呼ぶか……」


 フリアンはクーネルの年下の昔馴染みで、現在はカタロナ市府太守を任されている。

 とは言え、これはクーネル以上の大抜擢の結果だったので、さらに内司府長ともなると、歴史に名を残すような偉業とされる可能性もあるだろう。

 もっとも、フリアン氏がこれを受けるとも限らないが。


 ともかくそうしてクーネルは人事について皮算用を始めたので、この件についてはこれにて落着となった。


 と、話に段落が付いたところでライネリオがスッと静かに手を挙げた。

「どうしましたか? まだ何か人事に問題が……」

「いえ、まぁないことは無いですし、これも人事の話ではあるのですけど」

 エルシィが発言を促すと、何やら奥歯にものが挟まった様な返事が返って来る。

 なんだろー、と首を傾げつつもエルシィは先を続けるようにと頷いた。


「エルシィ様が先日拾われたクーシーの親子はどうしますか?」

「くー……しー?」

山の妖精族(クーシー)にゃ、エルシィ様」

 呆れたように耳元でささやいてくれるのは、草原の妖精族(ケットシー)のカエデである。

 その言葉でエルシィもすぐに思い出した。

「ああ、あの村にいた違法奴隷のいぬ耳親子」


 そう、人間に近い容姿ながらけものの、特にこの場合は犬のような特徴をも併せ持つ種族。

 それが山の妖精族(クーシー)だった。

 そして先日水利権で争っていてエルシィたちが介入したあの村にいた違法奴隷にして、エルシィが一時的に家臣化して保護していたあの親子である。


「そう言えばすっかり忘れておりました。

 元気にやってますか?」

「ええ、それは問題ありません。

 それよりこのまま家臣として留め置くのでしたら、何か役目を与えてはいかがでしょうか」

 ライネリオの言葉を「もっともだ」という顔で受け止め、エルシィは考えるのだった。

続きは来週の火曜日です

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