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じょじたん~商社マン、異世界で姫になる~  作者: K島あるふ
第三章 大国の動向編

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262第二回新生セルテ領運営会議

「うわわーん、お母さま!

 このままではエルシィは過労死一直線ですよぅ」

「カローシが何なのか判りませんけど……しようの無い娘ですね」

 エルシィがひと時仕事の手を止め虚空モニター越しに会話しているのは、ここから人の脚であれば数週間はかかるであろうジズ公国本国のジズ大公ヨルディス陛下だ。


 エルシィの母であるヨルディスは「本当に困った子」という風な表情で自らの頬を抑えながらため息をつく。

「忙しいのは当たり前よ。

 私はジズ公国領を見ているだけですが、それでも毎日、大公館に戻ることもままならないくらい忙しかったのですから」

「そうでしたー」

 エルシィはくてーんと執務机に突っ伏して、つい半年と経っていない頃を思い出す。


 あの頃はまだジズ公国の城内だけがエルシィの出歩ける範囲で、しかもちょっと移動するとすぐ息切れして倒れそうになる始末だった。

 今と同じでキャリナやヘイナル、フレヤ、そして兄のカスペル殿下に囲まれて、この世界のあれこれを学んでいた。

 あの時、ヨルディスが背負っていたモノの何倍もの苦労を今、エルシィは背負っているのだ。


「どーしたらいいでしょうねー」

 状況に流された結果と言えなくもないが、ある意味自業自得で本貫地であるジズ公国の何倍もの領地を手にしてしまった我が娘を、ヨルディスは半ば呆れ、半ば困った顔で見つめる。

 多くの国民たちが今やエルシィを英雄のように讃えている。

 まぁ、今、執務机の上に半身預けてゴロゴロしている姿からは、とてもそんな英雄には見えなのだが。


 ヨルディスは自分の経験則ながらに、役に立つかどうかわからないアドバイスをすることにした。

「ハイラス、セルテとどちらも大領です。

 とてもじゃありませんがエルシィ一人で切り盛りするのは無理があるでしょう。

 ですから信頼できる誰かに任せておしまいなさい。

 行政が滞れば、困るのはあなただけではなく、そこに住まう民たちですよ」

「はっ!」

 果たして、この言葉でエルシィが感嘆符を上げたのは、どちらに対してだったか。


 すなわち、「誰かに任せよ」だったか。「民が困る」だったか。



 と、そんな会話がなされてからすでに二週間が過ぎていた。

 その二週間とは、ほぼエルシィがセルテ侯爵として活動している期間と同等の日数である。

 つまり、うっかりセルテ領を取ってしまった後に、山となった陳情書や決裁書を前にして、母にして上司たるジズ大公へ報告という名でうっぷんをぶちまけていたのだ。


 そう、ジズ大公はエルシィの上司に当たる。

 伯爵であり、侯爵でもあるエルシィの所属は、あくまでジズ公国大公家の娘にして、大公陛下より任命された鎮守府(出先機関)の長でしかないのだ。


 もっとも、そのエルシィが治めなければならない範囲は、すっかり本国の何倍にも膨れ上がっているわけだが。

 こうなれば普通は独立となるのだろうが、形式だけでもエルシィをそのままの立場で留め置いているのは、いわばジズ大公の母心でもあった。


 ちなみにジズ大公はエルシィの家臣ではないので、本来なら虚空モニターを彼女の元に開くことはできないのだが、そこはそれ、ジズ公国に残っているエルシィの家臣の一人に向けて開くことでこうした会談を実現している。



 ということで二週間後。

 やっと旧侯爵エドゴルが積んでいた各種の急ぎ仕事がひとまず片付いた。

 まぁもちろん、そこから新たに発生しているモノもあるので、すべてスッキリなくなったわけではないが、それでも一段落というところである。


 エルシィはここでひとまずいくつかの仕事を誰かに振って、自分はもっと楽な立場になろうと画策する。

 第二回、新生セルテ領運営会議の開催である。

 ただし、今回招集されたのはエルシィ家臣団の主だった者たちだけだった。


 エルシィは集まった面々を満足そうに眺め、場の主人らしく開会のあいさつを仰々しく述べた。

 述べて、続けて宣った。

「期せずして大領となった鎮守府領ですが、ハイラス、セルテ、両方をわたくしが見ていくことは実質不可能です。

 なので、ここでハイラス領を相応の人物にお任せしたい。と、そう存じております」


 その言葉に皆が一様に固唾をのむ。

 常識的に考えれば当たり前である。

 なぜか快進撃を続けてしまったエルシィだが、誰がどう見たってその小さな身体には二国の政治は重圧過ぎるだろう。


 そこで問題になるのが、ハイラス領を任される人材だ。

 ふさわしい人物が果たしているだろうか。

 いや、いるな。

 とほぼ満場一致した見解で、その視線を一身に集める者がいた。


 続くエルシィの言葉は彼らの認識を後追いするようなものであった。

 すなわち。

「ライネリオさん。お願いします。

 旧ハイラス伯家の二子であり、現在、わたくしの代わりにハイラス領を見ていただいております。

 これ以上ない人事だと、わたくし、自信を持って言えます!」


 誰もが頷き、その陰で「万が一にも自分が指定されなくてよかった」とホッとした。

 そしてライネリオの新しい人事に祝いの拍手でも送ろうか。

 そう思った矢先に、そのライネリオ本人がにっこりとさわやかな顔で言い放った。

「え、普通に嫌ですけど?」

「なんでー……」

 エルシィは両目を大きなバッテンにしてのけぞった。

続きは金曜日です

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