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じょじたん~商社マン、異世界で姫になる~  作者: K島あるふ
第三章 大国の動向編

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257エドゴルのお仕事

 新生セルテ領運営会議。

 そう銘打たれて招集を言い渡された閣僚たちは、いったい何が起こるのかという不安半分、自分は果たして断罪されないだろうかという不安半分に、戦々恐々とした心持で登城した。


 その中で特に「不正を働いている」という自覚のある人間はほんのごく一部ではあるのだが、それはそれとして「高潔にして苛烈な鉄血姫」という噂だけでエルシィを知る者にとっては恐ろしさの方が先に来るのだ。

 世間の基準であれば問題はなくとも、もしかするとエルシィの判断によって自分の行いの何かが不正とされるのではないか。

 そういう不安だ。


 そんな雰囲気の中で平気な顔をしていられるのは、自分の行動に絶対の自信を持てるただの考えなしか、もしくは諦観の心境でいる者か、どちらかであろう。


 その、諦観の方の筆頭と言えばこの人。

 数日前までこの地の支配者であった旧セルテ候エドゴルだ。


 エドゴルは先のエルシィからのお言葉で死罪になることはないと判ったが、それはそれとして一体何をさせられるのかと、少しだけ楽しみな感情を持っていた。


 と、その新支配者であるエルシィが再び口を開く。


「まずは資料を配りますので、ざっとでいいから目を通してください。

 意味が解らない所などありましたら、わたくしか、わたくしの家臣のいずれかにお尋ねください」


 そう言ってエルシィの側仕え衆が席に付いている閣僚たち一人一人に紙の束を手渡していく。

 エルシィ自身は最上位の上座にいて、その左右には鬼騎士ホーテンと侍女頭キャリナが控えている。

 つまり、彼女の本来の護衛たる近衛のヘイナル、フレヤ、そしてアベルは不本意ながら資料配りと質問を受ける係であった。


 意外と穏やかな人かな?

 という第一印象を受けた閣僚は、ちょっとドキドキしながら配布資料とやらに目を向ける。

 そしてギョッとした。


 官僚向けの道徳指導書か、と言わんばかりに判りやすい不正の例が羅列されていたからだ。

 「これはなんだ」と困惑気味に何人かが顔を上げ、何人かは挙げられている例に付いていくつか細かいことを質問している。


 エルシィはただ黙ってそれぞれが目を通し終わるのを待ち、おおよそ五分もした頃、皆が顔を上げたのを見計らって大きく頷いた。

「これは、まぁお解りかと思いますけど、大まかな不正と言われる行為の一覧です。

 まずはこれに抵触する行為をしている方、いらっしゃいましたらこの会議の後で結構ですので申し出てください。

 今でしたら財産の三割差し押さえと、官職罷免、国外追放だけで許してあげます」

 それを聞いて、興味本位かそれとも抵触者なのか、おずおずと手を上げた者がいた。

 エルシィが発言を許可すると、その男はゴクリと唾をのんで質問を口にする。

「今黙っていて、後々に発覚した場合はどうなるのでしょう?」


 エルシィはにっこりと笑って首を(かたむ)ける。

「それは現行の法制と同様の裁きが降ることでしょう」

 つまり軽くて財産全没収の上に蟄居、収監、または追放。

 重くて死罪ということである。


 何人かは顔面蒼白にして言葉もなくただ天井を見て肩を落とした。


 ほうほう、あやつらそうだったのか。

 と、エドゴルは妙に感心してその者たちを眺め、面白いものを見るような顔でエルシィを見る。

 さて、では自分はどうなるのだろうな。と。


 まぁ、侯爵家の財産は全没収となるだろう。

 これは仕方がない。

 侯爵家の財産とはエドゴルの個人財産ではなく、あくまで「侯爵」の財産なのだ。

 ゆえに、今、新たな侯爵となったのがエルシィであるなら、その財産はエルシィのモノということになる。

 これは没収ではなく相続と言った方がいいのかもしれない。

 後はエドゴルの個人資産なわけだが、これだって個人所有で考えれば少ないものではない。

 これを後はどれほど没収されるか、というところだ。

 不正はしていないが、先ほどの話に沿うなら三割程度だろうか。



 そんなことを考えている間に、エルシィから今後の方針について説明が始まる。

 と言っても第一回の会議なので、細かい話はない。

「……という訳でわたくしが新しくこの領地の運営をすることになった訳ですが、ひとまず当面は今までと同じように仕事を進めてください。

 おいおい、改革案や細かい変更を相談したり指示したりすると思いますので、その時はご協力お願いしますね」


 と、つまりはそういうことらしい。

 ハイラス領を征した後から聞こえて来た数々の噂で、もっと苛烈にいろいろ押し進めて来るもんだと思ったがそうでもなかった。

 特に先の不正一覧に引っかからなかった者たちはホッとしつつも肩透かしな気分になった。


 とは言え、今後はより一層襟を正して職務に臨む必要があるだろう。

 それが彼らの共通認識となった。



「それで、俺は今後どのような仕事をしたらいいのだろうか?」

 ちょっとした言葉を各司府の長たちにかけていたエルシィが落ち着いたところを見計らって、エドゴルが再び手を上げてそう訊ねる。

 エルシィ曰く「貴重な政務担当者」として救われたエドゴルだが、侯爵としての仕事がなくなる以上、今まで通り、とはいかないのである。

 では、何をしたら? というの疑問だった。


 エルシィは少しニンマリとして彼の問いに答える。

「エドゴルさんには『特別巡回執政官』として働いてもらおうかと思っておりますの」

「『特別巡回執政官』……」

 繰り返して言葉にしてみるが、まぁなんとなく解らないでもない。


 ちなみに言えばこれはエルシィからの意趣返しでもあった。

 エルシィは侯爵などになるつもりは毛頭なく、とにかく停戦と賠償さえしてもらえれば後は勝手にして、というつもりだったのだ。

 だというのにエドゴルは早々に降伏してしまい、不本意ながらエルシィは侯爵としてこの領地も面倒見なくてはいけなくなった。


 端的に言えばただでさえハイラス領の差配で忙しいのに、さらに仕事を増やされてしまったということだ。

 しかもハイラスより広い大領の差配という仕事である。


 こうなればもう「旧侯爵? 楽隠居なんかさせないからね」という心境なのである。


「エドゴルさんにはセルテ領各地を回って、各司府の手が回っていない様々な行政上の問題を片付けて行ってもらいます」

「ふむ……具体的には?」

「例えば、先日わたくしたちが立ちよった村で起こっていた水利問題などです」


 エドゴルはなるほど。と呟いて頷いた。

 つまり、自分が侯爵だった時に、優先度低しとして後回しにしていた地方の問題を片付けて来い。という訳なのだ。

 まぁ自業自得と言えばそうなのだが、それだけに集中すればよいのでエドゴルとしては気楽であった。


 その態度が出ていたのだろう。

 エルシィは意趣返しがいまいち成功していないことに憮然として呟いた。

「げせぬ……」

次の更新は金曜日です

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