表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
じょじたん~商社マン、異世界で姫になる~  作者: K島あるふ
第三章 大国の動向編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

253/473

253禅譲、いるかいらないか

「今、なんとおっしゃいました?

 ちょっとあり得ない言葉に聞こえたもので……ちょっともう一度お願いします」

 エルシィはセルテ候から飛び出した想定外の言葉に少しオロオロとして、そうかこれは聞き違いだ、と結論付けた。

 そして先のように問い返すのだ。

「降伏する、と言ったのだ。

 はっはっは、これはいい、ここに来て一本取り返した心境だよ」

 セルテ候は憑き物が落ちた様に穏やかで余裕のある表情を取り戻し、その上で笑い声をあげた。

 勝者と敗者、まるで反応が逆ではないか。と言いたくなる光景である。


「セルテ候、本気であるか?」

 困惑しきりの側仕え衆の中、ただ一人あきれ顔のホーテン卿が問う。

 セルテ侯エドゴルはこの老騎士にちらりと目を向けて、そしてまた少し笑った。

 これは諦観の笑みだ。

「もちろんだとも。俺は正気に戻った。

 鬼騎士含む精鋭に囲まれてなんとかできるほどのうぬぼれはない。

 降伏もするし、セルテ侯爵の地位もエルシィ殿に禅譲しよう」

「潔いことだのぅ」


 ホーテン卿としては少しくらい抵抗してくれた方が楽しいのだが、と思いながら周囲を見回す。

 彼らエルシィの供回りを除けば、いるのは侍従らしき者ばかりだ。

 まぁこれでは抵抗らしい抵抗は出来ないか。

 とホーテン卿もつまらなそうに肩をすくめた。



 さて、セルテ候エドゴルが正気に戻った以上、この場で最も混乱しているのはエルシィであった。

 エルシィとしては独裁政権の為政者はもっと生き汚く、そして権力に対する執着が強いものと思っていた。

 まぁ王権神授であるこの世界の為政者とエルシィの世界の為政者ではまた違うのかもしれないが、とにかくそういう偏見にも似たイメージを持っていたのだ。


 ところがここに来て、セルテ候はあっさり降伏。

 さらにこの領地の権利を手放すという。

 停戦と賠償だけを取り付けて帰るつもりだったエルシィにとっては大きな計算違いが生じたと言っていい。


 思えばハイラス領でも旧伯爵はエルシィと顔もあわせずトンずらしているのだが。


「えと、あの、わたくし別にいらないのですけど……」

 つい出た本音に周囲がぎょっとする。

 まぁ気持ちはわからないでもない、という側近も数人いる。

 エルシィがハイラス領を治めることになって、仕事がぐっと増えた人たちだ。

 それでもなお、まさか降伏して神授の権利を譲ろうと言われて「いりません」と答えるとは誰も思っていなかった。


「はっ、そう、村のこと!

 ここから一〇kmほどの村が川の水利で揉めてましたよ!

 即急に対処お願いします!」

 なんとかセルテ領の統治権とか手にしたくないエルシィは、混乱も相まってそんなことを言い出した。


「何か聞いてるか?」

「は……」

 これを聞いたセルテ候エドゴルは侍従に話を向ける。

 壁際で硬直していた侍従が慌てて壁の書棚に資料を求めた。

「……これですね」

 それほどの時間もかけず侍従が見つけた報告書を受け取り、エドゴルがサッと目を通す。

「おお、これか。確かに見た憶えがある報告書だ。

 だが確か、手が足りないので後回しということになったのだったか?」

「優先度は低い、という判断だったかと」

「ふむ……」


「ちゃんとやってくださいよ! 村と村の戦争になってましたよ!」

 だがこれもセルテ候は鼻で笑う。

「そうかそれはすまなんだ。

 いやしかし俺はもうセルテ候を辞めるからな。

 そこは新しいセルテ候であるエルシィ殿……いやエルシィ様というのが適切かな。

 そうセルテ候エルシィ陛下が差配すべきであろう?」


「そ、そ、そ、そうです。印綬!

 セルテ領を司る印綬がセルテ候の元にある限り、あなたはセルテ候なんです!

 ですから、ちゃんとセルテ領を治めてください!」

 最後の反撃、とばかりにエルシィがのたまう。

 印綬。

 エルシィもすでにハイラス領とアントール領の二つを有する、領主の証となる金印のことだ。

 だがそれを聞いてエドゴル候はキョトンとした顔で首を傾げた。

「印綬? あんなものが何だというのだ。

 まぁ、形式は大事か。

 では……ほれ」


「あれぇ!?」

 エドゴル候が執務机の引き出しから取り出してホイっと放り投げる。

 それはまさしくエルシィたちにもお馴染みである神授の宝印だった。


 国璽としても執務に使われるのでそこにあって不思議ではないとはいえ、あまりにぞんざいではないか。

 ちなみにジズ公国やハイラス伯領にて国璽として使われれている印は、神授のモノではなくレプリカであり、本物は天守最上階の展望宝物殿に収蔵されている。


 宙で弧を描き、そして次第に落下を始める法印を、エルシィは慌ててキャッチした。

 さすがに神授であることを除いたとしても、歴史的価値等を考えればそうぞんざいに扱っていいものでは無かろう。


 そしてエルシィが印綬を手にしたとたん、それは光を放ち部屋を満たす。

 気づけば、エルシィは都合三度目になるあの白い空間にいた。


 まぁ、この印綬が間違いなく本物だった証左と言えるだろう。

抗原検査で陰性でいたので今日から復帰しました<(_ _)>

続きは金曜の予定です


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ