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じょじたん~商社マン、異世界で姫になる~  作者: K島あるふ
第三章 大国の動向編

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251/474

251天守を進む

「あっけないものですね……」

 唖然とした風にエルシィの侍女頭キャリナが呟く。

 何言かのやり取りのみであっさりと天守内部に通され、また、忙しそうに通り過ぎていく警士も各司府の役人も、誰も自分たちを咎めないのだ。

 侵入者の一人であるキャリナからすれば、何か悪い夢でも見ているかのような出来事だった。


「そのために混乱を引き起こし、それに乗じての侵入ですにゃ。

 いや、エルシィ様は物事を判っていらっしゃるにゃ」


 そのつぶやきに先導している警士の格好をしたねこ耳忍者アオハダがしたり顔で答えた。

 陽動を使って虚をつく。

 これはもうあらゆる場面において策略の基本ではあるが、それを実践で上手く使いこなせる者は少ない。

 また、今回の場合でも、領都を守る警士たちが「戦時である」と気を張って待ち構えていたならこう上手くいかなかっただろう。


 だが戦時とはいえ現場が遠く離れた地にあり、また、精鋭の多くは従軍しているため、ここにいる多くはまだ任務に慣れていない新兵や長い平和に慣れた老兵だった。

 真にベテラン、精鋭と呼べるのは、ごく一部の幹部だけという訳だ。


 そして、その精鋭中の一人であった東番の隊長は、早々にスプレンド卿によって斬られてしまった。

 エルシィたちの侵入を許した副隊長は戦犯であるが、これを責めるのは酷とも言えるだろう。


 そうした一種気が抜けたと言える状況にて虚実が上手くハマったわけで、つまり、エルシィたちは思いのほかあっさりと天守内部へと迎え入れられてしまったのだ。


「さぁ、最後の詰めを誤らぬよう、気を引き締めて進もうではないか」

 あまりのあっさり具合にエルシィ一行も弛緩したが、ホーテン卿の言葉で皆がキリリと背筋を伸ばす。

 戦闘要員ではないキャリナもまた、お荷物にならぬようにと、自らの頬を叩いて気を引き締めた。



 さて、このセルテ主城の天守建造物はジズ公国のそれより立派ではあるが、基本的な構造はだいたい似通っている。

 すなわち、上に行けば偉い人がいる。という単純な話である。

 その上、アオハダが手の者を使って事前調査も行っているので、もうこれは迷うこともない。

「では侯爵の間まで一直線にいきますにゃ」

「お願いします!」

 と、主従のやり取りをして、一行は天守内部をズンズン進んで行った。



 一階層、二階層と誰に咎められることもなく進む。

 ここまでいくつか攻め手を撃退するための仕掛けもあるにはあったが、その多くは操作する者がいないせいで機能していなかったし、自動の仕掛けも調査済みでは役に立たない。

 そうしてエルシィたちは三階層へと登った。

 ここには内司府長、外司府長の執務室がある。


 と、上がったところで幾らか貫禄のある小太りの中年に呼び止められた。

 身なりからしても彼は内外司府長のどちらかだろう。

「ああ、警士殿……警士殿? いやまぁよい。

 外が騒がしいようだが、いったい何があったのです」

 彼はアオハダのねこ耳を見て少し怪訝そうに首を傾げたが、それより優先することがあるとばかりに問いを続けた。

 アオハダは特に焦ることもなく堂々と答えを返す。


「ハイラスの兵に城が攻められてるにゃ」

「なんだって!? 大変ではないか!

 そんな……私はどうしたら……」

「危険なので司府長様は執務室にいるのが吉にゃ」

「む、そうだな。私がウロウロしてても邪魔にしかならんだろうしな」

 かのどちらか司府長は大きく頷いて納得するやいなや、振り返って執務室へとズンズンと歩いて行った。

 途中、もう一つの扉からやはりもう一人どちらか司府長と思われる中年が出てきたが、これは小太り司府長が何言か話すと納得して扉の中に戻っていった。


 これで四階層にある侯爵執務室までもう遮る者はいない。

 途中、エルシィたちに先立ち天守に入った伝令兵ともすれ違ったが、彼には彼の任があるのだろう、怪訝そうな顔はしたものの、咎められることなく略礼を交わして別れるだけだった。


 そしていよいよ天守第四層にたどり着く。

 目の前のは執務室の扉。

 そしてその扉を守るように立つ侯爵の近衛士が二人いた。

「おい山里の民(アンドラン)、何用だ。その後ろの者たちは何だ?」

 近衛の一人が下問する。


 彼の眼にはあからさまに草原の妖精族(ケットシー)を卑下する色があったが、アオハダは嫌な顔一つせず頭を下げる。

「はいにゃ。侯爵陛下の密命を受け、お客様をお連れしましたにゃ」

「客? おい、聞いているか?」

「いや……なにも?」

 困惑気に顔を見合わせる近衛。

 だが、この隙を見逃す手はない。

 素早く動いたホーテン卿とフレヤが二人の背後に回ってその頸動脈を締めた。


 近衛二人は初めジタバタ暴れようとしたが、一〇秒と経たぬうちに声を上げることもできず気を失った。

「よく締め技など知っておったの?」

「路地裏で子供が一人で生き残るためには必要な技でしたので」

 ホーテン卿がニヤリと笑い、フレヤもそれに同様の顔で返す。

 さすがに他の側仕え衆はどう反応して良いかわからず微妙な顔になった。


 そして、いよいよセルテ侯とハイラス伯エルシィの対面となる。

続きは来週の火曜日です

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