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じょじたん~商社マン、異世界で姫になる~  作者: K島あるふ
第三章 大国の動向編

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250/473

250嘘は言ってないにゃ

「西門が襲撃されている。至急応援乞う! 至急応援乞う!」

 急ぎ馬を駆って駆け付けた西番のセルテ侯国警士は、そう叫びながら愕然とした。

 東番から応援を募るつもりだったのに、その東側もまた西側同様に所属不明の武装集団が侵入されていたからだ。

 いや、所属不明、というのはその口から聞いたわけではない、というだけであり、掲げている旗からその正体は判っている。


 すなわち現在国境向こうで開戦しているはずのハイラス伯爵領の連中だ。


「やられたぞ……とにかく警士府長に……いや騎士府にも連絡回せ。

 ここは我らで食い止めるので西は西で頑張れ!」

 天守東側の警士隊長はそう言ってやって来た西番警士を追い返し、東番の警士に集合をかける。

 とは言え、その数は三〇にも満たず、とても二五〇を押し返すことができるとは思えなかった。


 平時であればこの城にも五〇〇は警士が詰めているし、都内を合わせれば一〇〇〇を超える兵力がある。

 だが今はハイラス征討遠征に出ているので、都内全体で五〇〇しかいない。

 そうなると、城詰めだけでは一〇〇もいないのだ。


 二五〇名全員で無事東門を通り抜けた不明の部隊は、そのまま門内で素早く一度整列し、その上で悠然と前進を始めた。

「ちくしょう、アイツらこっちをなぶる気か?」

 守備側の東番警士隊長が悔しさをにじませた表情で呟き、それから大きくため息を吐いて心を落ち着ける。

 とにかく、さらに上の官位の者から指示があるまでは、自分がここを死守しなければならないのだ。


「全員、天守内に下がり門を固く閉じろ。

 二階から撃ちおろせ!」

 警士隊長は急ぎ指示を出し部下たちを下げ、自らは一人で敵集団へと駆け寄った。



「その方らは何者であるか!

 ここがセルテ侯爵陛下の居城と知っての狼藉か!」

 整然と隊列を組み悠然と進んでくる集団を前に、警士隊長が叫びをあげた。

 見せつけるかのようにゆっくりと前進する二五〇名の武装集団。

 率いるのは旧ハイラス伯国にその人ありとうたわれた美丈夫スプレンド卿だ。

 彼は、焦り顔で進み出て問いただして来たセルテ侯国警士を見てニヤリと笑う。

「敵国兵が城内にやって来たのを『なんの用だ』とは暢気なものだな。

 まぁいい、剣なり槍なり構える時間を差し上げるので、構えるがいい。

 このスプレンドがお相手いたそう!」



 スプレンド卿は当然セルテ侯国においてもその名は知られている。

 それが軍部に身を置くものであれば知っていて当然というほどの高名である。

 であればこそ、警士隊長は驚き慄き、しかし職務に忠実であるために腰に差していた短剣を抜いた。


 そう、抜いてしまったのだ。

「抜いたね。

 抜いたのなら……斬っても文句あるまい!?」

 スプレンド卿が不敵に笑い、そして彼もまた馬に括り付けていた大剣を抜いて飛び降りた。


 そこからはまさに電光石火の出来事だったと言えよう。

 見ていた者さえ、いつそうなったのかわかった者は多くない。

 気づけば、その警士隊長の胴は上下二分割されていた。

「この国で私やホーテンを相手どれるのは、まぁせいぜいサイードくらいか。

 誰かまだ見ぬ強敵はいないものかね?」

 斬った当の本人であるスプレンド卿は、その大剣の血を払って拭い、そんなことをごちるのだった。



 警士隊長が一閃で敗れたのを見てさらに焦ったのはその隊の副隊長だ。

「おいおい、俺がこの防衛戦率いるのかよ……。

 ちくしょう、騎士の連中はまだか」

 情けない顔で愚痴をこぼしながら、部隊の者たちを天守に押し込める。


 と、そこで一人の警士隊員が困惑気な顔で駆けよって来た。。

「どうした?」

「それが……」

 隊員は言い辛そうにして自分の後ろに引き連れているいる一団を振り返る。

 副隊長もまたその視線を追って、困惑せざるを得なかった。


 それは、城内にいるにしてはおかしな集団だった。


 まず集団の先頭にいるのは彼らと同じ警士装備に身を包んでいるが、その頭には獣の耳が立っている。

 半猫半人の種族、草原の妖精族(ケットシー)というやつだ。


 これがまずおかしい。

 草原の妖精族(ケットシー)はここから離れたアンダール山脈に住まう種族であり、少なくともセルテ侯国の警士には一人もいない。


 さらにその後ろの集団が妙だ。

 主人格と思われるのは年端も行かぬ小さな少女。

 これは身なりはいいがせいぜい豪商の娘という程度の服装だった。

 そしてその周辺。

 侍女が二名に護衛が四人。

 豪商の娘にしてはやけに厳重と言えるだろう。


「その、彼らは?」

 副隊長はどうにも判断できずに報告にやって来た警士に訊ねる。

 ただ、その警士もまた肩をすくめて首を振るだけだった。

 仕方なく、ねこ耳の警士に視線を向ける。


「君は……警士府の者ではないよな?」

 何とたずねていいかわからず、副隊長はそう切り出した。

 ねこ耳警士も我が意を得たり、とばかりに大きく頷いて応える。

「そうですにゃ。

 こんな格好していますが、目立たぬための変装ですにゃ」


 まぁ、その耳で一発だがな。

 と副隊長は思いつつも口には出さず、ねこ耳偽警士の話を促す。


「私はあなた方の言うところの『山里の民(アンドラン)』ですにゃ。

 ご依頼に基づき、セルテ侯爵陛下へのお客人をお連れしたにゃ」

 これを聞き、副隊長はピンときた。

 そう言えば最近、侯爵陛下が山里の民(アンドラン)を数人雇い入れていた。

 ではこのねこ耳偽警士は陛下の密命を受けて後ろの者たちを手引きしてきたということか。

 まぁ、タイミングが何とも悪いが、陛下のお客様をここで放り出すわけにもいくまいよ。


「そうか、こんな状況ゆえに案内は出来ないが……入られよ」

 そう判断し、副隊長はすぐさま天守へとその集団を導き入れるのだった。

続きは金曜日です

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― 新着の感想 ―
[一言] こんな状況なのに天主に部外者入れちゃ駄目なはずですが状況的に既に詰みだから早く決着させたほうがマシかもしれませんね
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