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じょじたん~商社マン、異世界で姫になる~  作者: K島あるふ
第三章 大国の動向編

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245他方面の決着

「正直ものすごく助かったわ~」

 ひとしきり笑ったバレッタは、真珠貝に載せられた人魚の女王ネプティーナに、そう正直な心情を吐露した。

 答え、楽しそうに笑うネプティーナだった。

「ふふふ、それでしたら来た甲斐もありましたわね」


 と、そこで少し真顔になったバレッタが言う。

「でもネプ子、何で来たの?」

 問われ、不思議そうな顔でネプティーナは首を傾げた。

「なんで、とは?

 伝令にも言いましたが、バレッタさんより受けた恩を返しに来たのです。

 我らヒレの一族は恩も仇も必ず倍にして返すのです」


「サラッと怖いこと言うのぉ、この人魚っ子は」

 二人にあまりに馴れ馴れしい会話に唖然としつつ、傍で呟く海賊大将レイティルであった。


「恩と言ってもね。

 マーマン隊にもたくさん助けられてるし、逆に借りになるんじゃないかしら」

 バレッタは少し眉を怪訝そうにしかめて首を傾げる。

 そもそも人魚が恩に感じているのは、数か月前にバレッタやその友達のイルカたちが彼女らの困りごとに合力したことだ。

 確かに人魚たちはとても感謝していたが、この大ピンチに大軍を持って助けてもらったとなれば、むしろこっちが恩に感じなくてはならないだろう。


 しかし、ネプティーナは首を振る。

「いえいえ。マーマン隊、ですか?

 それはあくまでちゃんとした報酬を頂いでお仕事しているにすぎません。

 私たちヒレの一族はなにせお金を稼ぐ方法が限られてますから、むしろ助かってますよ~」

「あら、そうなの?」


 実際、そうなのだった。

 ヒレの一族とは、人魚をはじめとした海棲知的種族たちの集まりである。

 国、と言っているが、陸に住む種族たちのような煩雑な社会は築いていない。

 女王であるネプティーナを筆頭にした半共産社会。

 いうなれば、大きな村社会といってもいい。


 そうしたヒレ族の国には独自通貨もないし、陸社会との通商もほぼない。

 ゆえに、彼らは外貨を持つことがほとんどないのだ。


「銭稼いでも、使うところ無いじゃろ?」

 疑問に思ったレイティルがつい口を出す。

 敗戦国の首魁であり、またヒレの一族を畏れる海の者として敬意を払い黙っていたが、思わずぽろっと言っていた。

 二人の気安さが、畏怖などすっ飛ばしたともいえる。


 ネプティーナは口に手を当ててコロコロと笑いながらレイティルを振り向いた。

「そうでもないんですよ。

 最近では陸の娯楽にハマる人が結構いましてね。

 そうするとお金がやっぱり必要になるのですよ」


 陸の娯楽。

 思わずバレッタとレイティルは顔を見合わせる。

 果たして、陸に人魚を引き付けるような何か面白いことあったかな?

 という顔である。


 まぁ、これはもう少し話を聞いてみれば、つまり吟遊詩人や大道芸人たちのことだったりするようだ。

 ただ道端で見る分にはせいぜい小銭をおひねりに渡せばいいが、彼女らがこれらを楽しもうと思ったら、わざわざ海辺まで招かなければならない。

 どうやこれに多少のお金を使っているようだ。


 これは二人は気づかなかったが、実は少しばかりエルシィのせいだったりもする。

 エルシィがハイラス領を治めるようになってから、旧伯爵が禁じていた不謹慎な芸能詩吟もなし崩し的に解禁となり、芸能、創作界隈は俄然盛り上がっていたのだ。

 ついでに言うと例の反乱事件以降、芸能関連の元締めであったユリウス師が獄に繋がれ、歌い手たちのタガも外れ気味である。


 風紀が少し乱れつつあるのが問題ではあるが、まぁ娯楽としては魅力が高いのは確かだった。


「なるほどね……まぁホントに助かったわ。

 ありがとう。お姫ちゃんにもしっかり伝えておくわね」

 話に納得したバレッタは、少し呆れつつも素直に頭を下げた。

「くれぐれもよろしくお願いしますね」

 ネプティーナは「ほほほ」と照れながらそう答えた。



 さて、海の出来事がひと段落したところでまた他のところを少し見てみよう。

 時系列は少し乱れるが、エルシィたちがセルテ領都に着く少し前の話である。

 場所はナバラ街道の砦前。


 セルテ分遣群およそ八〇〇を率いるサイード将軍は、すでに七日ほど砦前で足止めをくらっていた。

「将軍、もう我慢なりません。多少の犠牲を払ってでも突破しましょう」

「む……そうだな」

 こうなるとさすがに幹部や隊長クラスの者たちもイライラが募り、こうした突き上げを言いにやって来る。

 だが、サイード将軍は決まって上の空で返事をするだけで取り合わなかった。


 彼には彼の思惑があった。

 もちろん、砦に近づけば大量の石が降り注いでくるので、犠牲を厭ったというのもある。

 というか、分遣群に所属するほとんどの兵たちはそう思っていた。


 実際、当たりどころが悪ければ死ぬこともある。

 彼らもプロの戦闘員である。

 出兵した以上、死を恐れ厭うわけではないが、それでも「石に当たって死にました」などという不名誉な報告が家族に行くのは御免こうむりたい。


 であるから、兵たちもそれなりの日数黙っていた。

 しかし、もう七日。兵たちもかなり騒がしくなっていた。

 サイード将軍もまた、イライラしつつ、ただ岩のように動かず待っていた。


 と、そこへ将軍の待ち人がやって来る。

「報告します!」

 それは早馬を乗り継いでカタロナ街道の様子を見に行った偵察兵であり、伝令兵だ。


 サイード将軍は「ここに砦を築かれているということは、ハイラス伯国は進軍に気付いている。ならば、カタロナ街道側も」と思い、様子を見に行かせていたのだ。


 その報告がついにやって来た。

「して、向こうの様子はいかがであった?」

「は、我らが戦端を開いた翌日に敗北した模様。

 現在、主だった者は捕縛されております」

「なっ!」

 さすがのサイード将軍もこれには絶句した。

 そしてすぐさま声を上げる。

「いかん、急ぎ撤収準備だ! 領都へ戻るぞ」



 それからしばらくして、撤収準備を終えたセルテ軍が退いていくのを砦から見下ろしつつ、砦将クーネルはほっと息を吐きつつ呟いた。

「やれやれ、こっちが三〇〇しかいないのは最後までバレずに終わったか。

 これでようやくナバラ市の政務に戻れるよ」

 こうして、ナバラ街道の戦いも幕を下ろす。

金曜は休載させていただきます

次回は来週の火曜日です

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― 新着の感想 ―
[良い点] 純正ちびっこ軍団だ、素晴らしい [一言] 男爵国はどうなるかな、恩赦を与えて私掠船運用させるのも良いが現状そこまで役に立たないかも...
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