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じょじたん~商社マン、異世界で姫になる~  作者: K島あるふ
第三章 大国の動向編

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242/473

242両艦隊の激突

 ハイラス領、ヴィーク男爵国、両艦隊が激突した。

 まずは両艦隊の前衛に据えられたそれぞれ二隻ががぷりよっつに当たることになる。


 ヴィーク男爵国の前衛は生き残った装甲艦と控えていた三隻のうちから出た一隻。

 そしてハイラス領からは旗艦以外の二隻となる。

 とは言え、ヴィーク男爵国の装甲艦はあくまでトルペード(魚雷)対策で主に水面下の装甲を持っているにすぎず、通常の海戦であれば通常並みの戦闘艦ということになるのだった。


 つまり、その四隻はまず衝角を打ち合わせる様にぶつかり、互いにその攻撃を上手に避けた時点で接舷しての白兵戦突入、ということになる。

 場合によっては接近前に弓などの飛び道具を撃ち合うこともあるが、今回は両艦隊に射手がいなかったのだ。


 これには理由がある。

 弓などの兵器はまともに当たるまでそれなりに長い訓練が必要であり、この訓練に時間を当てられるのは武家良家や職業軍人に限られるからだ。


 ハイラス艦隊の戦闘員はそもそも水司職員とやとわれの荒くれであり、そんな訓練をしている時間も金銭的余裕もなかったし、ヴィーク男爵国に至っては正規と言えば正規だが軍人らしい訓練はしていない海賊どもだった。


 ゆえに両艦隊は接舷からの白兵戦がすべてといえた。

 そして二隻同士の戦いはほぼ互角に見えた。


「そのまま前衛の艦を抑えておれ。

 わらわたちははその隙に旗艦を狙うぞ。進め!」

 ヴィーク男爵国指揮官である幼女男爵レイティルが咆哮を上げる。

「がってん親方!」

 応え、荒くれの海賊どもが気勢を上げて衝角後ろの最前線へとかけ集まった。

「はっはっは、まだ接舷もしていないというのにのう。

 衝突で振り落とされるでないぞ?」

 そんな殺伐としながらも楽しげな様子を眺め、レイティルは大きな笑い声をあげるのだった。



「来るわ!」

「やはり簡単にはいきませんね……旗艦下がれ!

 海賊どもに触れさせるな」

 バレッタと水司幹部の男は苦い顔でそんな敵艦隊の動きを見ていた。


 最初、二対二で互角の衝突が始まった時には少し期待もしたが、それはそれとして敵方には後ろに戦闘艦が控えているのだ。

 その戦闘艦が争う四隻の間をするりと抜けて突出してきた。


 つまり、ハイラス領艦隊旗艦に正面から近付いてきた、ということだ。


 最終的に負けそうであれば旗艦は逃げるつもりであったが、かといって最初から後ろを向いていれば味方の士気にかかわるし、第一攻め手の敵艦隊に舐められる。

 ゆえに、バレッタたちを乗せた旗艦は今更ながらに反転後退を始めたことになる。


 これは仕方がないとはいえ、相当な時間のロスといえるだろう。

 しかしそれでも旗艦には後の二隻からも選りすぐりの漕ぎ手を集めたので、少しだけだがスピードにアドバンテージがあるはずだった。

「頼むぞ操艦手。絶対に捕まるなよ……」


「ダメね。後ろに回られるわ」

 だが水司たちの祈りも虚しく、バレッタが厳しい声でそう告げた。

 相手は二隻。

 正面から迫るのは一隻。

 ではもう一隻はどこへ行ったかと言えば、争う四隻をスクリーンにして全速でバレッタたちの背後に回ろうと海上を疾走していた。


「くっ、速い」

 そのスピードは選りすぐりを集めた我らが旗艦より速い。


「うわはっはっは、海賊家業を舐めるなよ。

 獲物を逃がさぬため、操艦は常に研鑽しておるのじゃぞ」

 レイティルがまた高笑いを上げる。

 こうなればもう必勝のパターンだ。

 頭の中では敵戦闘艦と後ろの随伴船から得られる収入をすでに皮算用している。

 これでしばらくは国元の者も飢えずに済むだろう。と。


「とはいえ、あの速度は侮れません」

「む、判っておるのじゃ。

 敵ながらあっぱれよのう」

 と、そこに水を差す少年侍従ラグナルに、恨めしい目を向けながらも、レイティルはバレッタの乗る艦を褒めた。

 この辺りは勝者の余裕なのだろう。



 ところが、だ。

「親方! 東から白波が迫ってきやす!」

 などという奇怪な報告が降って来た。

 それは見張りマストの上にいる目の良い者からの言葉だ。


「何を言っておるのじゃ?

 海におって波が立つのは当たり前じゃろが。

 お前は何年船に乗っておるのじゃ!」

 かの報告が理解できず、レイティルはそう怒鳴り返す。

 だが、同時に振り返り見た報告者の顔を見て、これは冗談ではない、とも悟った。


 報告者の男はもう一人を見張り台に残してスルスル降りてレイティルの元に駆け寄って来る。

「それが、ただの波ではないようなんでさぁ。

 こう……北から南まで、見える範囲で横一直線に伸びていて、まるで津波のような」

「津波じゃと!?」


 ヴィーク男爵国の民。

 彼らは海で生きて来た一族である。

 ゆえに、津波という恐ろしい災害の伝説は聞き及んでいた。

 曰く、すべてを飲み込む尽きぬ高波。


 だが、それとて先祖からの聞き伝でしかないが為、その実態を知る者などいない。

 知っていれば、あれが津波でないと判っただろう。

 であれば、あの波は何かといえば。


「親方、あれは津波じゃねぇ! 人魚だ。

 人魚の群れがこっちに来やがる!」

 と、見張りマストに残ったもう一人の海賊が叫んだ。

続きは来週の火曜です

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