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じょじたん~商社マン、異世界で姫になる~  作者: K島あるふ
第三章 大国の動向編

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241水司たちの想い

「おいラグナル、例の怪魚はもう撃ち止めなのではないか?」

「……そう見てもよろしいかと。

 もちろん油断はなりませんが」

「おう、モチのロンじゃ!

 そうとわかれば遠慮はいらん。

 お前ら、速度を上げい! 突撃じゃ!」

「親方ぁ、すでにいっぱいいっぱいでサァ」

「なんじゃと、ええい気合が足らん。わらわ自ら漕いでくれよう」

「お嬢様、ボスの役目は船を漕ぐことではありません」

「お、おう。わかっておるのじゃ」


 沈みゆく僚艦を忸怩たる思いで見つめたヴィーク男爵国艦隊だったが、その後しばらくしても例の怪魚、バレッタの放つトルペード(魚雷)はやってこなかった。

 二発で終わりと思っていた怪魚攻撃が、さらなる数で迫って来た時には驚き焦りもした。

 だがそれも数えて四発で撃ち止めのようだ。


 そして敵の飛び道具が撃ち止めになった今、数で優るのはヴィーク艦隊の方である。

「わっはっは、この勝負もらったのじゃ」

 ヴィーク男爵レイティルは、艦の進む方に向けて人差し指をビシッと決めると、八重歯を晒しながら大きな口で笑い声をあげた。



 衝角を向けて海上を突き進んでくるヴィーク艦隊を、ハイラス領艦隊の暫定司令官の水司幹部は苦い顔で眺めながら船員たちに指示を出した。

「白兵戦用意! 操艦手たちは緩やかに移動を開始せよ!」

 船、特に大型の艦ともなれば、停船状態から動き出すまでに時間がかかる。

 ゆえに戦闘を受けるにせよ逃げるにせよ、いつでも速度を出せるようにゆっくりでいいから動いておけ、という指示である。

 例えるなら赤信号で停止していた自転車が青信号で漕ぎ出す時、走り出してからより発進する力の方が大きく必要なのと一緒だ。


「とはいえ逃げるわけにはいきませんよねぇ。

 ここで我々が退けば、また我らの海が荒らされる」

「しかし、勝てましょうか?」

 水司幹部、いわゆる課長クラスなわけだが、その部下ともなる水司役人が彼の吐露した言葉に不安の声をかける。


 もちろん、と肯定したいところだが、水司幹部はため息とともに首を振った。

「こちらは三隻、あちらは四隻。

 お互いの潰し合いをしたとしても単純計算で負けます」

「何か策はありませんか?」

「すでに正面切って対峙してますからね。そうそう都合の良い策などありませんよ」


 不安はことごとく増幅された。

 こうなれば、開き直って玉砕するしかないのではないか。

 上司に問いた水司職員は腹をくくろうと口元を引き締めた。


「そうそう、敗けるのは仕方ないとして、旗艦は何としても守ってください」

「は?」

 と、上司の言葉に、水司職員の男は怪訝そうに眉をひそめた。

 この期に及んで自らの身が可愛いのか?

 という疑いの目すら向けた。

 だが、次に出て来た彼の言葉で男は考えを改めた。


「旗艦……いや、最低でもバレッタ様だけは帰さねばなりません。

 これは最優先事項ですよ」

 二人は示し合わせた様に、ゆっくり動き出した艦に戻りつつあるしょんぼりバレッタへと視線を向けた。

「……そうですね。了解しました!

 船員どもに喝を入れて来ます!」

 水司職員の男は再び気を引き締めた顔で甲板を駆け足で動き出した。



 両艦隊が接触までまだ一〇数分はかかるだろう、という距離に来たところで、バレッタは甲板へと戻った。

 水司幹部の男の横、海面の戦場が良く見渡せる場所である。

 見渡せるゆえに、こちらの戦闘艦の動きも良く見えた。


 艦隊は今、バレッタが乗っている旗艦が一歩下がるような形で海上を進んでいる。

 言い換えれば、他の二艦が旗艦を庇うような配置である。

 これを見て、バレッタはいきり立って声を上げた。

「ちょっと、なんで旗艦が下がってるのかしら。

 指揮官先頭はどうしたの?」


 指揮官先頭。

 これは「指揮官が前に立たないで、どうして下の者が付いてくるのか」というい精神論で捉えられがちであるが、実はそうではない。

 遠く離れた場所との連絡手段が無かったような時代。

 指揮官が後ろにいては戦場の様子が判らず指示が出せない。

 ゆえに指揮官は先頭へ出て、戦場の様子を見なければならない。

 そういう意味の戦訓なのだ。


 まぁ、電話や無線が登場してからは精神論的に使われることも多くなったのは確かだが。


 ともかく、今のハイラス領艦隊の形では、バレッタが言うように先頭の最前線の様子がいまいち見えにくかった。

 だが、水司幹部はしれっとした顔で答える。


「数の不利を作戦で覆す必要がありますからね。

 ここは装甲の硬い二隻で敵の突撃を受け止め、後に攻撃力に優れた無傷の旗艦で屠る。そういう作戦です」


 もちろん嘘っぱちである。

 前の二隻の装甲が特に厚いということも、旗艦の攻撃力が高いということもない。

 ともかく、水司幹部からすれば何とか言いくるめてバレッタを無事な場所に置いておきたいだけであった。


 バレッタも、そのことは薄々感じ取っていた。

 だが、それでも空気を読まずに食い下がる。

「ダメよ! 三隻で突撃した方が攻撃力は上がるはずよ。

 あたしに気を使っているなら不要だから……」

 と、ここでその言葉は止められる。

「いえ、バレッタ様には生きて帰ってもらわなければ困ります」

「なんでよ!」


 水司幹部はやれやれ、という顔で静かに口を開いた。

「これでも我々はエルシィ様とバレッタ様に感謝しているのですよ。

 なにせ仕事はやりやすくなったし、マーマン隊のおかげで休む(いとま)もできました。

 水司はその職域が広すぎていつでも人手不足でしたし、上にいた内司府長も旧伯爵様も……まぁそうした事情を汲んでくださる方ではなかったですからねぇ」


 そう、突然語り出した疲れた顔の水司幹部に、バレッタは息をのんで黙る。

 彼は続ける。

「だから、バレッタ様には何としても生きて帰って、エルシィ様と共にハイラス領の艦隊立て直しをお願いしたいのですよ。

 あなたたちでなければ、また元の木阿弥……かも知れませんしね」

 最後におどけた様に両手を上げて、彼はそう締めくくった。


 バレッタはもう何も言い返せなかった。

 ゆえに水司幹部もバレッタが納得してくれたと見て、わざと明るい口調に切り替えて叫ぶ。

「ですがまだ敗北したという訳ではありませんよ。

 さぁ、勝負どころ。バレッタ様には特等席でご見物いただきましょう!」

次回、いよいよ両艦隊激突……か?

続きは金曜です

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