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じょじたん~商社マン、異世界で姫になる~  作者: K島あるふ
第三章 大国の動向編

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239/473

239続く作戦

「なんじゃ!? なにがどうなった!?」

 ヴィーク男爵国一番艦の、突然の爆発炎上。

 これを見て後方の旗艦に乗っていた幼女男爵レイティルは叫びをあげた。

「もう一匹の怪魚が来とったのか? それにしては一番艦の装甲を破るなどそうそうは……」

「いえ、お嬢様。今のは例の怪魚ではありません。

 何か……様々な光の矢が一番艦に降り注いだように見えました」

 少年侍従長ラグナルの言葉を聞きながらも、幼女男爵は唖然とした顔で沈みゆく艦を見守った。


 パニックを起こしたバレッタが咄嗟に放った『おーぷん・ざ・ふぁいやぁ《全砲門開け》』。

 これはその名が示す通り『トルペード(魚雷)』のような単発攻撃ではない。

 いわばこれは飽和攻撃と言うヤツなのである。

 そしてさらに言うなら海中から迫る刃でもない。

 つまり、主に海面下へと展開されている一番艦の装甲とは関係ない部分へと降り注いだのだ。

 こうなるといかな戦闘艦といえど、たまったものではないだろう。


「怪魚といい、その、光? といい、この海は呪われておるのか?」

「……いえ、お嬢様。あれはおそらく、怪魚も含め伯国の新兵器ではないかと私は愚考します」

 ラグナルの言葉に、レイティルは怪訝そうに眉をひそめつつ振り返る。

「何を言っておる。あのようなこと、人の手で起こせるものか」

 ミサイルどころか火薬すら知られていないこの旧レビア王国世界で、あのような爆発はもはや火山や天然ガスなどの自然現象くらいしかない。

 それを知っているからこそ、レイティルはまさに「お前は何を言っている?」を地で行く表情で自らの侍従を見るのだ。


 だが、ラグナルも引かない。


「そうは言いますが、実際に目の前で起こっています。

 そして今までも伯国の船と遭遇した時に限り、起こっています。

 これを考えれば偶然と思う方がもはや間抜けです」

 ちなみに例の怪魚がまっすぐ正面から来ることなど、かの特性に最初に気付いたのも彼だった。

 だからこそ、その言葉にもそれなりの重みがある。

「なんじゃ、わらわが間抜けじゃというのか?」

 それが判っているゆえに、反論もできずレイティルは少し拗ねた様に顔を逸らすのだった。


「しかし、本当に伯国の兵器じゃというなら、もう我らは勝てぬではないか?」

 と、そんな中でレイティルはふと気づいてしまった。

 そうだ。あのような攻撃を人が起こせるなら、もうそれは防ぎようがない。

 怪魚こそ古の魔獣素材を利用して作った装甲でなんとか対応できたが、あれもあくまで角度を使って逸らしたに過ぎない。

 真正面からならはじき返せたかどうかと言われれば怪しいモノである。


 そうして及び腰になりつつあったレイティルだったが、かの侍従は厳しい顔で首を振った。

「まだやりようはあります。

 今までの経験上、怪魚は二回出したらしばらくは無いようですし、あの光の矢についてもそうそう連発できるものではないはずです」

「じゃが、もし連発できたら?」

「その時は……さすがにもう降伏しかないですね」

「逃げるという手は?」

「この距離で攻撃できるとしたら、逃げ切れると思いますか?」

「ふむ……」


 一拍、己の主君である幼女男爵が考え飲み込む時間を与え、ラグナルは再び口を開いた。

「ですから、今のうちに全速力で接近し、白兵戦に持ち込みましょう」

 レイティルは苦々し気に頷いた。

「うむ、それしか無いじゃろうの……」

 それから、レイティルは残っている艦に「全速前進せよ」と急ぎ指示を出した。


 だが、例の怪魚も、想定している二匹のうち一匹がまだ残っているのだ。

 こちらは頼みの一番艦がもう沈むというのに。



「あ……」

 まさしく普通の人間でないが故の御業を使い、神孫のバレッタはハッと我に返った。

 最初のトルペード(魚雷)が不発に終わったせいですでに計算が狂っているとはいえ、カッとなっておーぷん・ざ・ふぁいやぁ《全砲門開け》をぶちかましたのは失敗だった。という顔である。


 ただトルペード(魚雷)が効かなかった絶望感はおかげさまで晴れた。

 これは差し引きゼロと考えて気持ちを切り替えた方がいいだろう。


 だが、五隻を自分の力で沈めるつもりだったのに、一隻を沈めただけでもう残り攻撃方法がトルペード(魚雷)三発だけになってしまった。

 しかも謎の不発で終わったトルペード(魚雷)だ。

 果たしてこの三発といえど三隻沈めるのは無理かもしれない。


 そう、困り焦るバレッタに、頭上から声が降り注いだ。

 どこから来た声か。

 それは彼女の近くを航行している、先ほどまで乗っていた味方艦の上からだ。

 現在、白イルカの背に乗ってプカプカしているバレッタからすれば、大きな戦闘艦の甲板からであれば、まさに頭上といえる場所だった。


「バレッタ様! 飽和攻撃が効いたなら、トルペード(魚雷)も複数同時に放てば効果あるのではないでしょうか」


 それは先ほど甲板上でバレッタと共にいた、水司の幹部である。

 バレッタはこの言葉を聞き、なるほど、と口を抑えるようにして考え込む。


 いや、考えたというより、迷いだった。

 水司幹部の彼が言いうようにトルペード(魚雷)複数で効果を出せるかも知れない。

 では、残り三発を撃ってしまうか、それとも一発は残すべきか、という迷いである。


 ケチって二発連射して効かなかったら元も子もないとはいえ、効くかどうかもわからないのに三発全弾消費して良いモノか。

 これは彼女にとって難しい選択だったし、艦上にいる参謀役の水司たちでも、意見の割れるところだった。


 そんな中、男爵国の艦隊はさらに航行スピードを上げて、こちらに迫る動きを見せる。

 こうなれば迷っている暇はない。


 バレッタは決断を降し、両手を水面につける。

「『トルペード(魚雷)!』 ツヴァイ!」

 迫りくる敵艦隊に、トルペード(魚雷)の航跡が二本、伸びて行った。

ハイラス伯国はすでにジズ公国ハイラス領となっておりますが、遠い国や事情を知らない人からはまだ「伯国」と呼ばれます

続きは金曜日に ノシ

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