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じょじたん~商社マン、異世界で姫になる~  作者: K島あるふ
第三章 大国の動向編

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238不発のカラクリ

「わっはっは、この海で我らがヴィーク(男爵国)をいつまでも好きにできると思うなよ、怪魚め」

 ヴィーク男爵国が当代当主である、御年僅か六歳であらせられる女傑レイティルは、自らの御座船にて高く笑った。


 これまで幾度かと従う船を沈められ、彼らも研究を続けて来た。

 それは主に彼女の少年侍従長であるラグナルの気づきから始まった。

 どこかの海中から現れて船を沈める黒く長細い怪魚。

 それはいずれも「目標に向かって真っすぐ進んでくる」ということだ。


 これは簡単な気付きではあったが、だからこそ誰もが「なるほど」と感心した。

 それからも何度か船を沈められつつ観察と記録を続け、ついに今、その結果が花開いたわけだ。


 つまり、今、神孫のバレッタが放つ『トルペード(魚雷)』を、かの者の御業などとは知りもせず攻略したといっていい。


「これでかの怪魚など恐るるに足らずよな、ラグナルよ」

「はいお嬢様。しかし油断はなりません。

 まだただ一度、かわしただけにございますれば」

「うむ、解かっておる。

 おい、お前らも解っておろう! しっかり見張るのじゃぞ」

「がってんでさ親分」



 さてここで彼ら海賊船団がいかにしてかのトルペード(魚雷)をかわしたのか。

 それを解説しておこう。


 まず彼らの陣形。

 これは先にも述べたとおり、弓矢の矢の形、鋒矢の陣である。

 七隻からなる戦闘艦のうち三隻を前に出し、ちょうど(やじり)になるよう陣取る。

 具体的に言えば一番艦を先頭に、二番三番艦がそれぞれ左右の斜め後ろに着く形だ。


 こうしてできた鏃の傘の後ろに、残りの四隻が二列縦隊で隠れる。

 つまり、防御の肝は前の三隻ということだ。


 そしてこの三隻の先頭一番艦の船首から船の中腹にかけて、そして左右の二番三番艦はそれぞれ外側になる左舷、または右舷に、真っ黒な鉄板が張り巡らされていた。


 いや、遠目から見ればこれは鉄板に見えるが、その実、鉄板ではない。


「それにしてもお嬢様、この海戦に勝利するためとはいえ、男爵家の家宝を使ってしまってよろしかったのですか?」

 誇らしげに船首へと立つレイティルに、少年侍従ラグナルが問う。

 ここで言う家宝とは、まさしく先頭三隻に張り巡らされた鉄板のような何かについてである。

「何を言うかラグナルよ。家宝などと言っても所詮は財の一つ。

 ここで使わず我らが滅びれば、宝を残した曾祖父さま(ひいじいさん)にも顔向けできんじゃろ」

「……まぁ、確かに」


 そうそれは男爵家の宝。

 レイティルの曾祖父に当たる海賊男爵が討伐に成功した海の魔獣、大海竜の硬皮であった。


 その鉄より硬く、鉄より軽く、そして柔軟性のある大海竜の皮を張り巡らせた三位一体の先頭艦。

 これこそがまっすぐ進み来るトルペード(魚雷)への対策であった。


 そのプロセスを見てみよう。

 まずトルペード(魚雷)が三艦に真っすぐ進み来る。

 そのトルペード(魚雷)を先頭の一番艦が船首を少しだけずらし、大海竜の硬皮で受ける。

 これはトルペード(魚雷)がそれなりの速度で迫り来るため、右で受けるか左で受けるかはほぼ運となる。

 そして硬皮で覆われた船体に斜めに当たることとなったトルペード(魚雷)がズルリと滑り、そのまま一番艦のわずか斜めに逸らされる

 これをその斜め後ろで待ち構えた二番三番どちらかが、さらに舷の硬皮にてわずかに斜めへと逸らす。


 こうしてトルペード(魚雷)は、完全に艦隊とその後ろの随伴船団には当たらない進路へと送られることとなったわけだ。


「最悪、また爆発されるかと思ったが上手くいったようじゃの」

「爆発されても大海竜の硬皮がある限り、一、二発は耐えられると思いますが。

 いや、それでもこの結果は最上でしょう」

「これまでの経験上、怪魚は二匹がつがいで来るのじゃったか。

 ではもう一匹、上手いことやり過ごせばこの海戦勝ちじゃな。わっはっは」


 ちなみにラグナルはあの怪魚が敵からの攻撃であろうと薄々気づいていた。

 が、まぁ主が考えてもいないようだし、確定情報でもないし、さらに言えばこうして対策も出来たので黙っていても問題ないだろう。

 と、そう思ってただ恭しく首を垂れるだけだった。

「お嬢様のおっしゃる通りかと」



「いったい、何が起こったのかしら……」

 今まで人間の船相手に外したことのないトルペード(魚雷)

 そして当てたからには炸裂しないはずがないトルペード(魚雷)を放ち、そして何も起こらなかったことにバレッタは焦った。


 自分の信じて疑わなかった勝利が、ここに来て急に揺らぎ始めたのだ。

 何かと大人びた発想をすることもあるバレッタだが、まだ正真正銘の子供である。

 なればこそ、こうした不慮の事態には弱い。

 ありていに言えばパニックを起こしていた。


 相棒である白イルカのホワイティにまたがり、海上をゆらゆらと揺蕩いながら、自らの必殺の一撃が不発に終わる。

 しかしその原因が全く分からない。

 考える。

 だが、パニックしている頭では考えが纏まらない。

 解からない。

 そしてまたパニックが酷くなる。


 こうした時、子供がどうするか。

 すべての子供がそうとは言わないが、少なくともバレッタはそうした。


 つまり、癇癪を起こした。

「あー! もー!」

 ジタバタと腕を振り上げ、迷惑そうなホワイティに気を使うことも忘れ、バレッタは叫ぶ。

「『おーぷん・ざ・ふぁいやぁ《全砲門開け》』!!」


 そして、数秒とかかるよりも早く、ヴィーク男爵国の一番艦が爆発炎上し、そして轟沈した。

「怪魚は二匹がつがいで来る」というのはバレッタが今まで一日二発撃てたことからそう思われていました

あとトルペードは原始的なスイッチ式接触信管なので、起爆の肝となる先頭スイッチ部分が正常に作動しないと爆発しません

今回はうまく斜めに接触したので起爆しなかったと思われます


次回は来週の火曜日です

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