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じょじたん~商社マン、異世界で姫になる~  作者: K島あるふ
第三章 大国の動向編

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237魚雷発射と不敵な笑い

「海賊が二七隻ね。腕がなるわー」

 水平線より現れた海賊の船団を眺め、バレッタは舌なめずりする。

「二七とはいえ、そのうち二〇は随伴船ですから、気にしないでいいでしょう」

 と、これはハイラス領側の船団を実質取り仕切る水司の幹部だ。


 随伴船とは、戦闘艦が十全に任務集中できるようサポートするための船である。

 その仕事は食料や物資の輸送に始まり、海に投げ出された人員の救助や、降伏した船に対する戦後処理や曳航も担う。

 ゆえに戦闘になれば状況が落ち着くまでは前に出てこないのだ。


 この随伴船団はハイラス領艦隊においても一〇ほど率いているので、バレッタにも理解できる話だった。


 相変わらずの笑顔を浮かべたバレッタは指折り数えながらのたまう。

「あたしの『トルペード(魚雷)』が四発撃てるようになったし、|おーぷん・ざ・ふぁいやぁ《全砲門開け》も使えば五隻撃沈は硬いわ。

 残り二隻なら戦闘艦三隻連れているあたしたち(ハイラス勢)の勝ちでしょ?」

「そう簡単にいきますかね?」

 特に心配無さそうな顔で水司幹部が訊ねるが、それに対しても鎧袖一触だ。

「いくわ!」

 その言葉を傍で聞いていた船員たちも、気勢の声を上げた。


 ともあれ、これまでの海賊退治の実績もあり、ハイラス勢は負けるなど露とも思っていなかった。


「じゃぁ、あたしはチャチャっと撃って来るから、みんなは白兵戦の準備をしててね」

 士気の上がった荒くれ船員どもに満足したバレッタは、大きく頷きながらそういうと、「とう!」と声を出しながら船のヘリから飛び降りる。

 その下では、白イルカのホワイティが海面にて彼女を待ち受けていた。


 ドボンと小さな水柱を上げて着水したバレッタは、すいすいと海面を泳いでホワイティに飛び乗る。

「いくわよ、ホワイティ!」

「きゅー」

 神孫のバレッタ、出撃である。


 バレッタが白イルカと共にハイラス勢の艦隊から前に出る。

 敵艦隊はまだ遠いが、それでも突出することで彼女の『トルペード(魚雷)』は射程範囲へと近づいていく。

 艦隊戦と言っても衝角同士をぶつけあったり、接舷した後に白兵戦するのが主な戦闘である。

 飛び道具と言えばせいぜい捕鯨用のバリスタくらいのものであり、バレッタの『トルペード(魚雷)』ほどの距離が出せる兵器は存在しない。

 ゆえに、『トルペード(魚雷)』は海戦において大きなアドバンテージがあった。


 そして今、その唯一無二の兵器は敵艦隊を射程へと捉え牙をむく。

「『トルペード(魚雷)』!」

 バレッタがちゃぷと海に手を付けて叫ぶ。

 すると大きな白波と共に黒い魚影にも似た長い『トルペード(魚雷)』が、海面下をするりするりと真っすぐに走った。

「これでまず一隻ね」

 バレッタはその魚影を見送りながら、そう呟いた。




「親方、例の怪魚です」

 見張りマストからスルスルと降りて来た三下海賊然とした船員が、自分らの仰ぐ志尊の御方へと見たモノを伝える。

 その報を聞くのは三角帽子にブカブカのコートを着込んだ小さな少女である。

 夏なのに暑くないのか、と手下たちは思わんでもないが、それを着るのが様式美だと言われればそれ以上は何も言えない。


「おう、やはり来おったか」

 ともかく、その報を聞いた幼女はニヤリと笑って呟いた。



 さて、バレッタの放った『トルペード(魚雷)』は真っすぐに海中を進む。

 これを上から、例えば見張りマストの上から見れば、その軌跡ははっきりと見える。

 ヴィークの男爵様は何度も自国の海賊船を沈められたことで、このことに気付いていた。

 ゆえに、怪魚の登場が察知できた時からすぐに艦隊行動をとった。

 具体的に言えば、七隻の戦闘艦のうち三隻が鋒矢陣形の矢じりとなり、その後ろの艦を守るように立ちふさがったのだ。


 鋒矢陣形、つまり弓矢の矢の形である。

 言い換えれば矢印の形だ。

 その矢印の傘の部分を前三隻で形成し、その傘に守られるように残りの四隻が二列縦隊になって後に続いた。


 もっともこれは最初から予定していたものであり、陣もすでにその形で進んでいた。

 今取った艦隊行動とは、迫りくる『トルペード(魚雷)』に対し、矢の切っ先をそちらに向ける為の運動だった。


「さぁ来るがいい!」

 幼女男爵が、後ろの旗艦の船首に足をかけ吼えた。



 『トルペード(魚雷)』を放ち、その威力を持って水柱が立つのを今か今かと待っていたバレッタは大きく首を傾げた。

「どうなっているのかしら?」

 そう水柱が、いつまでたっても現れないのだ。

 経過時間を考えれば、とっくに着弾していてもおかしくはないのだが。


 バレッタは怪訝そうに眉を歪め、自軍の艦隊に視線を向ける。

 船上では先ほど言葉を交わした水司の幹部が見張りマストから降りて来た船員と何事か話し、バレッタへと視線を合わせた。

 そして彼は首を振りながら、両手で大きくバッテンを作って見せた。

「!?」

 バレッタは驚きに目を見開く。


 つまり、何が起こったのかわからないが、『トルペード(魚雷)』は不発に終わったということらしい。

次は金曜です

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― 新着の感想 ―
[一言] あっさり終わるかと思ってたのでちょっと予想外な展開 でも考えてみれば何回も沈められてるのに無策で来るわけないですよね
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