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じょじたん~商社マン、異世界で姫になる~  作者: K島あるふ
第三章 大国の動向編

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235/473

235セルテ領都

 色々あったため出発するにはすっかり遅くなってしまったこともあり、結局は当初の予定通り村で一泊することになった。

 短絡的な村人が余計なことをするのでは?

 という懸念もあったが、ここには五〇〇からなるエルシィの家臣兵群がいるわけで、ともすれば争っていた両村の男衆を合わせても敵わないだろうということで話は落ち着いた。


 というか、もうこの期に及んでエルシィを弑そうなどという気力は村人たちにはなく、むしろ後々下るであろう沙汰に対して戦々恐々と言ったところだ。

 懸念されていた短絡的な若い衆などは、むしろ逃散する相談をしているくらいであった。


 という訳で粗末な村の空き家を一つ借り受け、エルシィはぐっすりと一夜過ごす。

 元々良いとこのお嬢であるキャリナなどは、藁をシーツで覆ったような寝具に落ち着かない様子だったが、主が文句を言わない以上、彼女もグッとこらえて浅い眠りで夜を明かした。


 そして明くる朝。

 エルシィ一行はすがすがしい朝日を浴びて出発の時を迎える。

「ではスプレンド卿、昨晩打ち合わせなおした手筈通りに」

「承知しましたエルシィ様。

 領都への到着予定は今日の夕方ということでよろしいですね?」

 この辺りはもう昨晩話した通りだが、事が事なので最後の確認であった。

 エルシィは卿の問いに馬車を囲む護衛衆を振り向く。

 その視線にはすでに騎乗していたホーテン卿が気付き、答えた。

「遅くとも夕方だな。

 ヘイナルの目があれば、もう少し早く着くだろう」


 ヘイナルの目。

 それは先日発動が確認された、覚醒スキル「華麗なる誘導プラクララ・インダクティオ」の事である。

 このスキルがあれば彼が先導する一行は迷うことも難所に躓くこともないのだ。

 まるで、通いなれた道を行くかの如くスイスイと。


「では、出発しましょう!」

 そしてエルシィが言葉を上げ、そのようになった。



 後は特にトラブルもなく、領都へ着く。

 時間で言えばちょうど昼過ぎのおやつ時、という辺りだろうか。

 夕方より早く着くだろう、というホーテン卿の予想通りだったと言える。

「ヘイナル、お疲れ様です。

 ここまで来れば先導の必要ないでしょう。

 少し下がって目を休めてください」

「お心遣い、ありがとうございます。エルシィ様」


 視線の先にセルテ侯国領都の関門が見えたあたりでそのように会話を交わし、ヘイナルの馬はエルシィの御座する馬車の後ろへと下がった。

 もちろん、そこで彼の仕事が終わった訳ではなく、この後は平常業務である近衛の任に着くわけだ。


 それから間もなくして関門に着いた。

 これはセルテ領都をぐるっと囲む防壁に設えられた門で、主要街道に繋がる場所にいくつかある、とホーテン卿が物知り顔で語った。

 彼も十何年か前に一度国際交流の一環で来たことがあるとのことだった。


 関門を通るための行列に並びしばらくすると、エルシィ一行の番がくる。

 そこで門を守る警士が前に立った。

「停まれ!」

 命令に従って一行は大人しく停止する。

 まぁ、これはこれまで前に並んでいた人たちも同様に停められ、いくつか質問されているようだったので、別段緊張もない。


「……この一行は、その、なんだ?」

 商家の娘風の幼い女子に侍女二人が少年の御する馬車に乗り、その周りには騎馬護衛が三人。

 関門兵の目には、さぞ謎の一行に見えただろう。

 ここは代表してホーテン卿が前に出た。

 関門の警士はこの巨躯の老兵に少し尻込む。


「お勤めご苦労。

 俺はこの一行の護衛隊長を務める者だ」

「そ、そうか。なかなか腕が立ちそうで、安心だな。

 それで?」

「うむ、この馬車におわすのはアンズー商会のご令嬢である。

 この街への訪問は婚礼の準備だ。

 なにせセルテの領都となれば、ドレスも家具も一流どころが揃うであろうからな」

 もちろん、すべてがでっち上げである。

 だが、それを聞いて関門の警士は納得気に頷いた。

「ずいぶん幼いうちに婚礼とは……まぁ上流階級はそういうこともあるのだろうな。

よし、では通っていいぞ。関税はこの後ろで払っていけ」

「うむ、では邪魔するとしよう」


 言葉を交わし、エルシィ一行はなんてこともなく税を払って関所を通過した。 

 そして関門をくぐればそこはもうセルテ領都の中だ。

 まだ商店街などは見当たらないが、門前宿や食事処がいくつか並びにぎわっていた。

「さて、ここからの先導はホーテン卿にお任せしてよろしいですね?

 確か、スプレンド卿たちを呼ぶのに程よい場所を知っているのでしたか?」

「うむ、任されましょう」


 一行は街中を進む。

 騎馬三に護衛される馬車と言えばなかなか目立つものだろうが、この街は人口も多いせいかあまり注目もされなかった。

 馬車を「そこそこ裕福な商家風」として用意したのが功を奏したのだろう。

 特に疑われることもなかった。


「ふむ、十数年前と変わりはないようで重畳重畳。

 姫様、着きましたぞ!」

 言われ、エルシィやキャリナは馬車の窓から外を望む。

 そこは併せて三メートルはあろうかという石垣と高い壁が建っているせいでちょうど日陰になっている場所だった。

 これでも街中なので家などはあるが、どうもいまいち人の気配を感じないし、その家自体もボロ家ばかりだ。


「ここは?」

「セルテ主城の城壁沿いですな。

 ここは石垣と城壁のせいで昼でも日陰になるので、住居としても店舗としても当然人気がなく、貧乏人すらなるたけ住みたくない、という場所です。

 それでも住んでおるのは、まぁ金がなくて仕方なく、という連中が少々おるくらいで、それ以外は滅多に人も寄り付かんのですわ」


 お城近所という一等地に、なんとまぁ都合のいい場所があったもんですねぇ。

 と、エルシィは感心半分でその障壁を見上げた。

いよいよ領都潜入しました

続きは金曜日で

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