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じょじたん~商社マン、異世界で姫になる~  作者: K島あるふ
第三章 大国の動向編

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234保護する

「くーしー……ですか」

 村が隠していたといういぬ耳一家を眺めながら、エルシィは呟く。

 もちろん、彼女が山の妖精族(クーシー)の何たるかを知って言っているわけではない。

 自分の侍女見習いであり、忍衆の一人でもあるカエデがそう呟いたので復唱しただけだ。



 その奴隷たちを閉じ込めていたのは本当に小さな小屋で、生活できるほどのスペースもない。

 ただ、この時をやり過ごすために押し込めただけの共有倉庫、といった具合である。

 いぬ耳奴隷たちも村の事情に納得するわけではないが理解はしていて、息をひそめ身を寄せ合ってジッとしていたようだ。

 そうしなければ酷い目に合わせる、というので仕方なくではあるが。


 そこに武装した兵士、エルシィ配下のハイラス兵なわけだが、それらが唐突にその戸を開けたので父母子、三人はそろって驚きと恐怖に身をすくめた。

 見ればその尻尾もぺたんと股の間に垂れ下がってしまっている。


 その後、また戸は閉じられてしばらく放置だったので、かれらは「何が起きたのだろう?」とかなり困惑していたようだ。

 そして今、再び戸が開かれたかと思うと、武装者も含む謎の集団が現れた。

 これはもう、混乱と恐怖で震えあがってしまっても仕方はないだろう。


 ただ、その謎集団の中に小さな少女の姿を見つけ、少しだけほっとする。

 こんな殺伐とした中に一人だけ異質な存在に感じるその少女に、彼らは光明を見出した気がした。

 その少女こそが群れの長だと、彼らには一目で判ったのも幸いだった。


「わふっ! 私どもはどうなっても構わないので、この子だけはお助け下さい」

 いぬ耳父がいぬ耳子をヒシッと隠す様に抱いてそんなことを言った。

 これまで黙っていた彼らが突然言葉を放ったので、エルシィを囲む近衛たちに緊張が走る。

 フレヤなどは腰の差し料を一気に引き抜いて、いつでも彼らを貫けるように身構えている。


「ひゃふっ」

 おそらく悲鳴なのだろう

 いぬ耳父の反対側で我が子を庇うように抱くいぬ耳母からそんな声が漏れた。

 ただ、その両者から庇われているいぬ耳子だけは、興味津々と言った顔でエルシィとそのお側衆をキョロキョロと見ていた。


「肝の座った子供だのう……」

 一歩下がったところで後方警戒しつつ様子を見ていたホーテン卿が、呆れたようにそんなことを言う。

 これに対してか、最初に「山の妖精族(クーシー)」と彼らを呼んだカエデがまたちょっと嫌そうな顔で呟いた。

山の妖精族(クーシー)の子はみんなこうにゃ。好奇心旺盛でやたらと構ってくる、うっとおしい連中にゃ」

草原の妖精族(ケットシー)!」

 いぬ耳父が彼女の言に視線を動かされ、そして気づく。

 そこにはさらなる光明を見つけた、という表情が見て取れた。

 同族ではないにしろ、人間以外が群れにいることで、自分たちも酷い目には合わされないだろう、という期待である。


 だが、カエデは冷たく言い放つ。

「あたしに期待はしないで欲しいにゃ。

 決めるのはエルシィ様にゃ」

 気まずそうに顔を逸らし、ねこ耳をぺたんとさせる。

 ただその言葉で、やはりこの群れの長が中心にいる幼い少女だと悟り、三人の目はさっとエルシィへと向いた。


「あー、こほん。

 いろいろ事情があるようですが、わたくしたちも今ちょっと立て込んでますので、詳しい話は後日、改めて、侯爵さまの手の方としてください。

 それまではわたくしどもで一時預かりさせていただきます」


「わふ?」

 結果、出て来たエルシィの言葉の意味がちょっと解からず、三人はそろって首を傾げていぬ耳を揺らした。




 ひとまず、エルシィが元帥杖を振るって彼らを家臣に登録した。

 一時預かりすると言っても、このまま村に置いては保護にならない。

 しばらくはスプレンド卿率いる兵たちが駐屯する予定ではあるが、それも一両日中の話である。

 ならば、手っ取り早くナバラ街道かカタロナ街道に残っている兵に預けてしまおう。という訳である。

 そうなると、元帥杖の移動ゲートをくぐれるのは家臣だけなので、まぁ緊急避難的な措置だろう。

 と、エルシィは判断したわけだ。


 そして流れ作業のように元帥杖の権能で虚空モニターを開いて広げ、事情説明の為に二人ほど兵を付けてカタロナ街道へと送る。

「とりあえずはこれでいいでしょう。後はセルテ候に丸投げです」

 ひと仕事終えた気分でふーと息をつき、エルシィは額の汗をぬぐう様な素振りで彼らを見送った。


 これでやっと、セルテ侯国の領都へ向けて再出発できる。

 そういき込んで再び馬車へ向けて歩み進む途中、エルシィはふと疑問を口にした。


「カエデは『草原の妖精族(ケットシー)』って言いましたよね?」

「そうにゃ」

 何をいまさら、という顔でねこ耳が揺れる。

 怪訝な顔をスルーしつつ、エルシィは続けた。

「だけど山に住んでいました。

 彼ら、『山の妖精族(クーシー)』は村というか、人里に住んでるのですね?」

「それは……」

 少し言い辛そうにカエデが目を逸らす。

 逸らした上で、諦めた様に、端的にその理由を述べた。

「それはあたしたちと同じにゃ。

 『草原の妖精族(ケットシー)』は人間に平野を追われて山に住んだにゃ。

 『山の妖精族(クーシー)』は山から狩り出されて人里に住むにゃ。

 何も好き好んでのことじゃないにゃ」


 なるほど、とエルシィは神妙に頷いた。

 きっとそこには、薄暗い歴史があるのだろうな。と。

次回は来週の火曜です

やっとセルテ領都につく……と思う

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― 新着の感想 ―
[一言] セルテ侯に丸投げする気満々ですけど戦争の後のセルテ侯がそのへん対処する立場に居るのかというと怪しい気がするような?
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