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じょじたん~商社マン、異世界で姫になる~  作者: K島あるふ
第三章 大国の動向編

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232行軍検討

 解決、とは言い難いにしても、とりあえずのところ騒動を治めたエルシィたちは、村の集会場から出た。

 歩きながら、それぞれは顔を寄せてこの後のことを相談する。


「少々予定が変わってしまいましたが、この後はいかがしますか?」

 そうエルシィにお伺いを立てるのは、現在五〇〇からなる騎士警士を率いているスプレンド卿だ。

 集団を動かすにはとにかく手間と時間が必要なので、彼が一番、予定を気にしなければならない人物と言えるだろう。


「そうですね~。

 まぁ、この後はまた予定通りに戻ればいいのではないでしょうか」

 エルシィは答えながらも、その回答に問題がないかを他の側近衆に視線を向けることで訊ねる。

 とは言え、近衛や侍女は多数を率いた行軍経験などないので、おのずとその視線を中継するようにホーテン卿へと向けた。


「ふむ」

 視線が向いたことに気付いて、ホーテン卿が思案するそぶりを見せる。

「ようは、ここからそのまま五〇〇を率いてセルテ侯国領都へ向かうか、それとも予定通り我ら《側近衆》だけで領都へ入り、その上でエルシィ様のお力によって五〇〇とスプレンドを呼び寄せるか。

 どちらが良いかということであろう?」

「そうだな。

 ホーテンはどちらが良いと思う?」


 エルシィや側近衆には何かと丁寧に接してくれるスプレンド卿だが、ホーテン卿に対しては何かと気安い態度になる。

 旧知の仲であるからだろうが、エルシィはなんとなく仲の良い老人たちだな、とほんわかした視線で二人の答えを待った。


 ホーテン卿は呆れたような顔でスプレンド卿を見ながら口を開く。

「そんなの、後者に決まっておろう。

 第一、姫様もそう言っておる」

「確かに」

 スプレンド卿も内心ではその答えだと思っていたのか、特に反論することもなく頷いた。


 エルシィにしてみれば答え合わせのつもりで視線を送ったのだから「主君が言ったからそうだ」という答えでは困るのだけど、と眉を寄せる。

 それに気づき、スプレンド卿はかみ砕いて説明をしてくれる。


「ここからセルテ領都までエルシィ様たちだけなら一日とかからずに着きますが、五〇〇を率いて行くとなると早くても倍か、場合によっては四日くらいかかってしまうでしょう。

 ならばここからでも予定通りにした方が幾らか早い。ということになります」


 集団というのはとにかく移動するのに手間がかかる。

 まず第一にその行動を始める段階でなかなか準備が揃わなかったりするし、動き出したしても集団で移動する以上、どうしても遅い者に合わせる必要が出て来るからだ。

 そうしないと列が伸びきってしまい、敵軍……はなくとも野獣や野党に隙を見せることにもなる。


 そこを行くと少人数の精鋭であれば話は簡単と言えるだろう。


「四日程度であればこのまま行軍させてもよろしいのではありませんか?」

 ただ、そこへフレヤが少し憮然とした表情でそんなことを言いだした。

 彼女からすると、崇敬するエルシィがその力を度々振うことに幾らか抵抗があった。

 尊い御方のお手を煩わせるなど、何事か。

 と、こういう気持ちなのである。


 しかし、それを汲んでか知らずか、エルシィはそっと首を振って否定した。

「いえ、たとえそれが一日でも、いえ、半日であっても、早く済むならそれに越したことはありません。

 今、わたくしたちがこうして過ごしている時間は、ナバラ街道でクーネルさんたちが稼いでくれている時間なのですから」

「さすがはエルシィ様。そこまでお考えでしたか」

 フレヤは感服したように膝をついて、深く納得の意を示した。


「大げさだな……」

 一歩引いたところで見ていたアベルは、誰にも聞こえない程度の小さな声で呟いた。

 共有しないっ呟きではあるが、その心はほとんどの側近衆の共有するものだった。



 さて、その頃のナバラ街道砦では、状況に変化が訪れていた。

「交渉の使者が来ている?」

「はい。どうやらこの街道上限定の停戦を申し込むためだと」

 砦に設えられた指揮官用の執務室で、砦将であるクーネルはメガネの秘書女史からそう報告を受けて幾らか考える。


 現状、この戦場は硬直していると言っていい。

 セルテ侯国軍は散発的に攻め上がっては来るが決定打にかける。

 なぜ決定打にかけるかと言えば、結局のところ彼らは未だに崖上で暗躍する観測員たちを捕縛・打倒できていないからである。

 なので全面攻勢もかけられないし、さりとておいそれと退くこともできなかった。


 そこに来て停戦の使者である。


「これは、カタロナ街道の戦況がやっと伝わった、というところかな?」

 ここナバラ街道とは反対側のカタロナ街道。

 そちらでの戦いはほぼ一瞬で終わったと言っていい。

 だが、即時通信可能な方法があるわけでもない為、それが伝わるのには日数がかかるのが当たり前である。

 もちろん、エルシィがいればそんな不可能は可能となってしまうのだが、それはそれとして、セルテ侯国側にはエルシィがいないのでそういうことになるのだ。


「と、なれば奴らいっぺん退いて体勢を立て直したい、というところかな」

 クーネルはそう呟きつつ、しばし思案して指示を出した。

「では使者からは書状だけ受け取って、返事は数日待て、と伝えて頂戴」

「よろしいのですか?」

 一応、相手は戦場の作法にのっとって使者を立てて来た。

 それを粗略に扱っていいのか。

 そう、秘書は懸念したのだ。


 だが、クーネルは素知らぬ顔答える。

「別に射殺したわけじゃないし、ちゃんと書状は受け取るんだから大丈夫だって。

 まぁ返事はせずに放置するけどね」

「……よろしいのですか?」

 今度は礼を欠くことではなく、検討すらしないことについての問いだ。

 クーネルは肩をすくめてこれに答える。

「だって、私の仕事は、アイツらをここに引き付けておくことだもの。

 なーに、しびれを切らして再度使者を送って来るさ。

 三回くらい来たら、砦に招き入れて面会してあげよう。

 もちろん、そこからもできるだけ返事は伸ばすけどね」

 真面目な秘書は、眉をひそめつつ「こういうモノなのかしら」と眉間を少し揉んだ。


「もっとも、その前にエルシィ様が目的を果たしちゃうだろうけどね」

 と、クーネルはそっぽを向きながら、少し楽しそうに呟いた。

次回は来週の火曜日です

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