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じょじたん~商社マン、異世界で姫になる~  作者: K島あるふ
第三章 大国の動向編

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230/473

230言い分

 しばし、村の集会場に困惑のざわめきが起こった。

 伯爵様、と聞いて人々が思い浮かべる人物像とはどういうモノだろうか。

 曰く、立派な髭をたたえた紳士。

 曰く、厳めしい表情を浮かべた紳士。

 曰く、見た目にも立派なそろいのスーツに身を包んだ紳士。

 少なくとも村人たちのイメージとはその程度だった。


 ゆえに、豪商の娘さん風の格好をした、まだ家業の手伝いすらおぼつかない程の年頃に見える小さな少女が「伯爵でござる」と現れて、皆一様に目を点にしたわけだ。


 中には「え、これ詐欺?」と思う者すらいた。


 だが、次の瞬間に老騎士ホーテン卿が手にしたグレイブの石突で強く床を叩くと皆がハッとする。

 老騎士、などというが、背筋は曲がること知らず、その表情は獰猛な笑みを浮かべてギラギラしている。

 老人という判断基準はその髪に混じる白髪と手顔に刻まれたシワくらいのものだ。


 誰にも「これは詐欺だろうと何だろうと逆らってはいけないヤツ」と思わせる迫力があった。



 雰囲気の中で固唾を飲む村人たちにハッとして、いち早く我に返ったのはさすがの村長であった。

「エ、エルシィ様!

 どうも浅学な村人でありまして、伯爵様と伺い皆驚いておりまする。

 なにとぞ失礼の段、平にご容赦を……」

 いろいろ覚束ない様子ではあるが、精一杯(へりくだ)って平伏する様子に、エルシィはそもそもそれを咎めるつもりもなく手で制する。

「まぁまぁ、わたくしもたまたま近くを通りかかっただけの身です。

 どうぞお気になさらず」

「ははぁ」

 言われても相手は殿上人である以上、そうそう頭を上げるわけにもいかず、村長はそのまま平伏を続けた。



「伯爵様におかれましては、賊の襲撃に風前の灯火であったわが村をお救い頂き、誠にお礼申し上げる言葉もございません」

 一通りの挨拶と驚きと困惑からの混乱が収まると、恐る恐ると顔を上げた村長が、また控えめに頭を下げながら言った。


 エルシィはこれを聞いて小さく首を傾げて側近衆に目を向ける。

 「風前の灯」というほどピンチだったようには見えなかったからである。

 エルシィは、それなりに互角の善戦をしていたと思っていたのだ。

 まぁこれは側近衆も同じ認識で、首を傾げる者と、疑念を深める者がいた。


「エルシィ様、真に受けず、『賊』の話も聞いた方がいいにゃ」

 そう、エルシィの耳元でこそっと言葉を掛けるのは、ねこ耳侍女見習いカエデだ。

 侍女見習いとは言うが、彼女の本質は密偵、工作員の類である。

 ゆえに、その嗅覚が「この騒動は賊に襲われた村などというモノではない」と告げていた。

 エルシィはまた困惑気に眉を寄せて、この手合いに対して経験や知識が豊富そうな二人に目を向ける。

 つまり、ホーテン卿とスプレンド将軍だ。


 と、その時、ちょうどスプレンド卿の部下の兵が、卿に何かを耳打ちしているところだった。


 エルシィはしばしその様子をじっと見て待つ。

 ちなみに村長の礼に対して返答せずに側近衆に目線を向けるエルシィに、村人たちは戦々恐々と言う風な顔でそれを見守っていた。


「何か雰囲気がおかしいですね?」

「ご安心を。エルシィ様に何かするようでしたら私が許しません」

 キャリナとフレヤも感じ取り、そう互いに囁き合う。


 そして部下のなにごとかの報告を受け取ったスプレンド卿が、それをしばし咀嚼してからエルシィに向き合いやっと口を開いた。

「エルシィ様、どうも簡単な話ではなさそうなので、襲撃側代表者の話も聞くことを進言いたします」

 恭しく腰を折ってそういうスプレンド卿に、エルシィもまたちょっとだけ嫌な予感を覚え小さくため息をついた。

「わかりました。

 ではその代表者をこれへ」


「伯爵様! 賊の話など聞かなくても……!」

 これに慌てたのは村長だ。

 いや、代表してそう言ったのが村長だったというだけで、そこにいた主だった村人たちは皆慌てて立ち上がりかけた。


 だが、同時に剣を抜いたフレヤ、ヘイナル。そして獰猛な笑みをより深めるホーテン卿の圧に、皆、動けずその場で止まった。


 そうしている間に、後ろ手に縛られた初老の男がハイラス兵に両脇を抑えられつつ連れられて集会場に入って来た。

 姿はどうにもここにいる村人と変わりなく見える。

 ただその眼だけは、何か覚悟を決めた鋭いモノだった。


 エルシィは側近衆と頷き合い、その襲撃側代表者という男に向かって訊ねかけた。

「あなたたちがこの村を襲ったのはなぜですか? あなたたちは盗賊ですか?

 直答を許しますので、どうぞ申し開きを」

 世間知らずのお嬢様っぽい、少し間の抜けた質問になってしまったなぁ、などと心で苦笑いを浮かべつつ、エルシィは返答を待つ。

 すると男は鋭い目から地獄に仏を見たような表情に変って、勢いよく答えた。


「尊いお方! 俺……いや私たちの村はこのままでは滅んでしまいます。

 こいつらが、川の水をよこさないから……!」

「あー……」

 エルシィはこの問題に手を出したことを後悔し始めた。

続きは来週の火曜日です

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― 新着の感想 ―
[一言] 水利権問題とか絶対面倒くさい案件じゃあないですかー!普通はこんな事になる前にお偉い人がどうにかするものな気がしますがどうなってるのやら
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