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じょじたん~商社マン、異世界で姫になる~  作者: K島あるふ
第三章 大国の動向編

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229村人たちの困惑

 村と謎の貧相な武装集団の攻防は、これまた謎の正規軍によって収められた。

 それはいいが、と首を傾げながら村の主だった男たちは集会場に集まった。

 攻めて来た武装集団を小突いてやろう、などと思った血気盛んな者たちもいたが、それらは謎の正規軍に追い払われたのだ。

 武装集団はその謎の正規軍が捕縛に回ってくれているので、村はひとまず安全な訳だが、やはり気持ち悪さが残る。

 ゆえに、村の男たちは集会場に集まってひっそりとその胸の内を吐露することで、その不安を解消しようとするのだった。


「で、あの将軍様が率いる連中は、どこの軍勢なんだ?」

 こそこそガヤガヤと各自で話しているところで、一人の若い村人がそう声を上げた。

 これは多くが抱いていた疑問だったので、集会場は一度にシーンとなる。

 答える者は中々でない。

 が、それでも見かねた髭もじゃの大男が口を開く。

「あー、こほん。

 将軍様の旗持ちが『盾と冠の旗』を掲げているのが見えた。

 あれはハイラス伯家のご家紋だな」

「伯爵家つったら、お隣の国だな。なんで隣の伯爵さまが助けてくれたんだ?」


 村に住む者はほとんどが社会情勢などに疎い。

 なぜなら彼らの生活にそれらはあまり関係がないからだ。

 彼らは基本的に自分たちの生活と税を納めるのに手いっぱいで、村の外のことなど知っている必要性がないのだ。

 髭の大男が伯爵家の旗印を知っていたのはむしろ奇跡に近い。

 彼は、若い頃に一度領都に出ていて警士だったことがある。

 そこで警士教育の一環で隣接国の旗印については一通り学んでいたのだ。


「伯爵さまの旗はわかったよ。

 なら、『大鳳の旗』はどちらのご家門なんだ?」

「それは……わからん」

 『大鳳の旗』はジズ公爵家の旗印である。

 だがここセルテ侯国とは陸続きで隣接していない為、警士の座学では触れなかった。

 実際には隊長以上の士官クラスになるとその辺りも学ぶ。


 そうして途切れると話が続かず、集会場は一度シーンとなり、また次第にガヤガヤと雑談が始まった。

 雑談、とは言え、内容は現状に沿ったものがほとんどで、耳を傾ければ「なんで隣国の軍隊が助けてくれたんだ?」とか「攻めて来たんじゃね?」とか「敵軍ならむしろ村が略奪されとるだろう」とか、そういうモノだった。


 ざわざわと話せば話すほどに疑問が深まった。

 皆、一様に頭上へ疑問符を打ち上げる中、集会場唯一のドアがガチャリと大きな音を立てて開く。

 視線が集まる中、そのドアから入って来たのは年老いた村長だった。

「皆の衆、静粛に。

 我らを助けて下すった伯爵様よりお言葉がある」

 村長はもったいぶって皆の前でそう伝える。

 村人たちは「やっぱり伯爵様だったんだ」とまた少しガヤついて顔を見合わせた。


 そして村長の言葉に続いて入ってきた一団に注視する。

 最初に短剣(ショートソード)を佩いた若い男が入って来た。

 エルシィの近衛長、ヘイナルだ。

 彼は厳しい目つきで集会場を見渡し、視線はそのままで後ろに手でサインを送る。

 そのサインを受けやはり剣を佩いた少年や少女、つまりアベルとフレヤがが入り、続いてさらに小さな女の子、エルシィが入って来た。


「なんで子供が?」

「どれが伯爵様だ」

「いや、どれも違うだろ、というか子供?」

 エルシィの登場でざわめきが大きくなる。

 先に入った近衛たちはさらに視線を厳しくして彼らを威圧しようとするが、いかんせん迫力が足りない。

 その後に老将軍スプレンド卿と老騎士ホーテン卿が続いたわけだが、先の若者たちに憮然とした表情を浮かべ場を一喝した。


「鎮まらんか!」

「尊いお方の御前にあるぞ。頭が高い!」

 さすがに村人たちはこれを聞き、一斉に椅子から飛び上がるように降りて平伏する。

 どれが伯爵陛下なのかは判らないが、それでもあの中にそのご本人様がいらっしゃるということだけは理解したからだ。


 村人程度の首など、貴族様の機嫌ひとつでどうとでもなる。

 平伏しつつ、彼らの首筋がひんやりとした気がした。


「は、伯爵様、ど、どうか平にご容赦を……」

 村長が顔いっぱいに冷や汗を流しながら、なんとかかんとか、という態でそんな言葉を絞り出す。

 ところがその言葉の先は最後尾のホーテン卿に向いていた。

 ホーテン卿は面白そうに口元を歪めて無言のまま首を横に振る。

「ひっ」

 村長はそれを「ダメだ、お前死刑」というサインだと受け取ったようで、がたんとその場にへたり込んでしまった。


 なお悪い笑いを浮かべるホーテン卿を見かねて、エルシィが眉を寄せながら人差し指を立てた。

「ホーテン卿、めっ! ですよ」

「おっと、これは面目ない」

 主君からの注意を素直に受け、ホーテン卿は胸に手を当てて恭しく腰を折った。

 この様子で、村長と同じだった村人たちは認識を改めた。


 この裕福な商家の娘さん風の場違いな少女こそ、尊いお方なのでは? という認識にである。

 もっともこの時点でもまだ半信半疑だ。

 だが、その疑惑はすぐ仰天とともに塗り替えられた。


「コホン。

 お集りの皆様にご挨拶を。

 わたくしが隣国を治めるハイラス伯家が当主にしてジズ大公家の娘。エルシィです」

名乗りまでで一話終わってしまった……


次の更新は金曜です

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