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じょじたん~商社マン、異世界で姫になる~  作者: K島あるふ
第三章 大国の動向編

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224お宿で実験

 宿の女将の対応はホーテン卿に一任してしばし待つ。

 始終和やかな笑いと共にこまごまとしたやり取りが終わると、エルシィたちは女将が言うところの「宿で一番良い部屋」へと案内された。

「なるほど、これはジズリオ島にあるわたくしの部屋より広いですね」

 側仕え衆が荷物を降ろす中、エルシィが部屋をキョロキョロと見回してそう言った。


 その広さはと言えば、確かにジズ公国大公館のエルシィ部屋と比べて三倍くらいである。

 もっとも、本島の大公館自体がそれほど大きくなく、さらに言えばエルシィの部屋があまり広くなかった。

 これは島国だったこともあるし、そもそもジズリオ島が旧レビア王国基準で辺境だったこともある。

 今、エルシィが寝起きしている本城のハイラス領伯爵館は、大公館よりも広く立派な造りだった。


 まぁ、この宿の部屋はその伯爵館のエルシィ部屋から比べても、少し広めであった。

 ただ広いが、調度品などはさすがに格が落ちるのだが。


「さて、では腰を落ち着けてしまう前に実験してしまいましょうか」

 部屋への感心を一通り済ましたエルシィが、荷物を降ろして手持ちぶたさになった近衛衆にそう声をかける。

 ちなみに侍女衆……と言ってもキャリナとカエデの二人だが、彼女らは早速荷物の開封をしているので未だ忙しそうではあった。


「明日には発つんにゃから、開けなくてもいいにゃ?」

「いいえ、一泊でもエルシィ様の生活が不便するようでは侍女の名折れですよ」

 とは侍女頭と見習い侍女の会話である。


「それで姫様、実験とは何をなされるので?」

 侍女たちの仕事には全くと言って興味のないホーテン卿が腰に手を当てて訊ねる。

 エルシィについていけば余生は退屈せずに済みそうだ、などという理由で長年仕えたジズ公国から飛び出して来たホーテン卿である。

 とにかくエルシィのやることには興味津々だった。


「えーと……そうですね、始める前にこれを見てもらえますか?

 『ピクトゥーラ(画像表示)』!」

 エルシィはそう言って元帥杖を振るった。

 虚空に浮かぶのは馬車内でも散々見ていたタブレットサイズの虚空モニターだ。

「いつものですな。これが?」

 ホーテン卿のみならず、近衛のヘイナル、フレヤ、そしてアベルも興味深かげに身を寄せ合って覗き込む。

 真っ黒な画面には「『マップが未登録の地域です』」と白抜きの文字だけが浮かび上がっていた。


 勢い込んで覗き込んだはいいが、そんな文字しか浮かんでいない画面に困惑しつつ、近衛衆は揃って顔をエルシィに向けてその答えを待つ。

 エルシィは「ふふん」と何やら得意げに胸を反らしてから、集まっている近衛衆の真ん中に押し分け入る。

 ちょうどそこが虚空モニターの正面席という訳だ。


「今いる場所はセルテ侯国内。つまりわたくしの領域ではないと元帥杖が判断する地域です。

 なので地図の表示ができません」

「アンドール山脈に行った時と一緒ですね?」

 前提のお話を始めたエルシィの言に頷き、フレヤが呟く。

 あの登山行に同行した者たちも何度か見た画面なので、思い出しながら頷いた。

「そうですそうです。

 地図が出せないので、元帥杖の権能で『とんでけー』が出来ないという訳でした」

 続けてエルシィが言うと、皆「ふんふん」と頷く。

 この辺りで勘のいいヘイナル辺りはエルシィが何をしたいか薄々気づく。


「ただですね、これを……こう」

 言いながらエルシィがモニター画面をスライドさせるように元帥杖で触れると、画面上の地図も移り変わっていく。

 そして真っ黒だった画面はある時を境に色を映し出した。

 ちょうど動いた地図がアンドール山脈の領境に入ったのだ。

「操作を適切にすれば、領内の地図ならこうしてみることができます。

 そして地図が見られるということはですね」


 エルシィがさらに画面を操作する。

 今度は地図の一点を拡大にかかる。

 具体的に言えばカタロナ街道のひと所だ。

 そうして拡大に次ぐ拡大を続けると、画面にはスプレンド将軍たちの野営地が映し出された。


「なるほど、ここからでもエルシィ様の支配地域の様子を見ることができるのですか。

 これは残った連中を見張るのに便利ですわね」

 フレヤが感心したように言いつつ、少し悪い顔をした。

 これはエルシィが居ぬ間にやらかす謀反人を取り締まるのに便利。くらいに思ってそうだ。


 エルシィは少し苦笑いを浮かべて、首を振る。

「もちろんそういう使い方もできるわけですけど。

 こうして画面に映し出されるということはですね……

 ちょっとそこの方……ええと、確かエイブさんでしたか?」

 と、画面越しに野営地を歩く警士らしい青年に声をかけた。



 画面向こう、つまり野営地にて、そろそろ自分の寝床支度でもするか、と暢気に歩いていたハイラス領警士府所属の士分であるエイブは、突然どこからか聞こえた子供の声にギョッとして辺りを見回した。


 すでに戦闘は終了したとはいえここは戦場である。

 それを除いても、ハイラス・セルテを繋ぐ国境街道だ。

 こんなところに町村などないし、であれば子供などいるわけがない。

 唯一可能性のある、彼の主君となったばかりのエルシィ姫は半日も前に出立したばかりだ。


 なればここで声をかけて来る子供の声は。

 などと想像してちょっと怖い考えになってしまい身震いする。

 まさか怪談の類に遭遇してしまったか、とそういう訳だ。


 肩を小刻みに震わせながらキョロキョロしていると、さらに呼びかけの声が彼に降り注いだ。

「エイブさーん。あれ? 名前違いましたっけ?」

「い、いえ。私はエイブで間違いありませんが……」

 恐る恐る、声のする背後へと振り返る。

 と、そこには、暗がりの虚空に浮かぶ四角い窓と主君の顔があった。

「ぎゃー!」

 エイブは思わず叫び声を上げた。

続きは来週の火曜日です

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