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じょじたん~商社マン、異世界で姫になる~  作者: K島あるふ
第三章 大国の動向編

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222/473

222光の輪を越えて

 天幕でお弁当が済めばいよいよ出発である。

「そんなに急がなくても、一晩くらいこちらで休んで行かれてはどうです?」

 エルシィがお茶を飲んでいる間に、側仕え衆が昼食の後片付けや出発の準備にそそくさと行動を始めたところで、スプレンド卿が肩をすくめた。


 今は通行がしやすい街道だが、ここを越えてセルテ侯国へ入れば慣らされた道ばかりとは限らない。

 特に今回はエルシィの乗る馬車があるので、道はそれなりに選ぶ必要があるだろう。

 まだ時間はお昼と言え、街道を抜けて最初の宿場町に着くには、ちょっと時間が足りないように思えたのだ。


 だが、エルシィはふっふっふ、と本人は不敵なつもりの笑いを浮かべる。

 傍から見ればただのニヤニヤだが。

「スプレンド卿は忘れておいでのようですね?」

 と、ちらりと見せるのはエルシィの権能の元、元帥杖である。

 これを見せられてスプレンド卿はハッとした。

「なるほど、ハイラス領とセルテ侯国領の国境はあくまで街道上にあるけど、アンドール山脈はすでにエルシィ様の領土。

 つまり……」

「そうです、アンドール山脈のセルテ侯国側のきわきわまで元帥杖で飛べるのですよ」

 ということだった。


 つまり、本来であれば国境であるこの街道途中からのスタートとなる旅を、もう少し先から出発できるということになる。

 そうなれば、お昼の今出発しても最初の宿場町までは充分に到着できる時間だった。

「これは失念しておりました」

「そこでですね。最初の宿場町で宿を取りましたら元帥杖の能力について実験しますので、スプレンド卿にはちょっとご協力お願いするかも知れません。

 その時にはよろしくお願いします」

「はぁ、そうですか。承知いたしました」


 何をするのかはわからないが、と思いながらも、スプレンド卿は恭しく腰を折って紳士らしいお辞儀をして見せるのだった。



 それからしばらくスプレンド卿や、天幕にやって来た軍幹部などとちょこちょこ今後の打ち合わせをしていると、あっという間に小一時間が過ぎる。

「さぁ姫様、いいかげんそろそろ出発いたしましょう!」

 そんな話が途切れた隙を見て、ホーテン卿が割って入った。

 出発の準備などはとっくに終わっていたので、ジリジリしながら待っていたのだ。

「あ、お待たせしまして申し訳ありません。

 ではスプレンド卿。実験が成功するようならまた今晩」

「エルシィ様、道中お気をつけて。

 まぁホーテンたちが付いているなら心配はないでしょうが」


「まってお姫ちゃん。アタシもいくわ!」

 と、そこへ割って入ったのは、神孫の双子の姉の方、バレッタ嬢だ。

 バレッタは何んとなーくこのまま街道側の勢力として残されそうな雰囲気を察して、元気よく名乗りを上げたのだ。

 しかし、エルシィはちょっと考える風の仕草をしてから首を振った。

「えー、なんでよー」

 バレッタはほっぺを膨らまして不満を表す。

「いえ、バレッタにはわたくしたちとは別に重要な任務をお願いしたいのです」

「重要な、にんむ!?」

 バレッタの瞳がキランと光る。

 その内容によってはエルシィについていくより面白いかもしれない、と興味を惹かれたからだ。

 特に「重要な」「任務」と言った単語がいかにもな感じで心惹かれた。

 ここに「極秘」が加われば完璧である。

 と、アベルが聞いたらため息つかれそうな、彼女なりの琴線がそこにはあるのだ。

「バレッタには海軍提督として、このまま商船航路の警戒に当たって欲しいのです」


 バレッタはしばし考える。

 海上の警戒任務は開戦前もやっていた仕事なので構わない。

 が、それだけでは今までと変わらないので退屈そうだな。と思った。

 しかしながら「かいぐんていとく」という肩書には心くすぐられる。

「でも何から警戒するの?」

「海賊ですよ。あのちびっこ男爵が、この開戦に乗じて来そうな気がします」

「あのちびっこ男爵……」

 言われ、思い出すのは以前港で出会ったちんちくりんな幼女である。

 自らを男爵と名乗った彼女は、後からの推察によってヴィーク男爵国の家督を継いだ本当の男爵陛下なのでは、という暫定結論が出ていた。

「なるほど、あの子のおもりという訳ね。

 いいわ、任せて!」

 バレッタは大きく頷いて胸を叩いた。



「『ピクトゥーラ(画像表示)』!」

 馬車の窓からエルシィが身を乗り出して元帥杖を振るう。

 その後ろでは、エルシィが落ちないようにと、キャリナが腰の辺りを抱えている。

 エルシィの声と共に、馬車の前方にはお馴染みの虚空モニターが現れる。

 続けて元帥杖が振るわれる。

「『画角拡大(アンプリフィカ)』!」

 すると、虚空のモニターがぐんぐんと大きくなる。

 しばらく「えい、えいっ」と元帥杖をひょいひょい振り、モニターのサイズがこれ以上広がらない、というところで息を上げながら杖を止める。

 そのサイズと言えば、馬車がすっぽりくぐれる程の大きさだ。

「ふむー、さすがにこのサイズが最大のようですねー。

 まー、もう少し練習すればもっと大きくできそうですけど」

 キャリナに引き戻されて馬車のシートでぺたんと萎んだエルシィがそう言うと、護衛の長を務めるホーテン卿が出発の合図を周囲に送った。

 こうして、スプレンドたちとは一時別れ、エルシィたちは光の扉と化した虚空モニターをくぐり出発するのであった。

次回は金曜日です

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