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じょじたん~商社マン、異世界で姫になる~  作者: K島あるふ
第三章 大国の動向編

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221/473

221天幕でお弁当

 エルシィの演説は盛り上がり、「勝利の為に!」「公女殿下万歳!」と言ったシュプレヒコールがしばし続いた。

 放っておくといつまでも壇上から降りられないと思ったエルシィは、両手を上げて彼らに応えるかの如く大きく振って、それから鎮まれ、というジェスチャーを示しす。


 次第に静かになった街道にて、エルシィは締めくくりにと言葉を続ける。

「さて、皆さまの今後のについては、それぞれの将によく従い、規律ある行動をお願いします。

 わたくしたちの勝利への道は、綱渡りのようにか細い可能性の模索です。

 しかし、その細い道を渡り切れば、きっとその先に勝利があります。

 慌てず、逸脱せず、確実に進んでいきましょう。

 それが実は最も早く旅を終える秘訣なのです」


 聞く者たちは「なるほど」と口元をキッと結んで誰ともなく頷く。

 初戦は勝利した。

 ハイラスには女神(エルシィ)の加護がある。

 そう思っていても相手セルテ侯国は大国だ。

 現に、昨日降したセルテ人の数倍に及ぶ兵がまだいるはずなのだ。

 それらを相手取り勝利を掴むのは簡単なことではないはずである。


 だが、希望はある。

 なにせ自分たちを率いる、女神の寵愛を受ける姫殿下は「か細い可能性の向こうに勝利がある」と言ったのだ。

 つまり、彼女にはその道の見当がついているということだろう。

 兵たち、特にもうエルシィの家臣として組み込まれている者たちは、気を引き締めながらも、エルシィへの信頼を新たにした。


「最後に、勝利を目指し、心得ていて欲しい言葉を皆さまに贈ります

 一緒にその言葉をご唱和しましょう。

 では……」


「ゆっくりはスムーズ。スムーズは早い!」

「ゆっくりはスムーズ。スムーズは早い!」


「以上、エルシィからの言葉になります。

 ご清聴ありがとうございました」


 壇上のエルシィがぺこりとお辞儀をしてにぱっと笑い、まるで今、子供に戻ったとでも言わんばかりの態度で壇上からぴょいぴょいっと降りた。

 兵たちは拍手にて彼女を見送った。



「いや、お見事です。

 これほど盛り上がるとは、さすがエルシィ様というところですね」

 将軍や幹部が会議などに使うための広めの天幕に戻って最初にそう口を開いたのは、ここの兵たちを率いる責任者であるスプレンド将軍だ。

 彼の言葉にエルシィの側近で近衛のフレヤが満面の笑みでぶんぶんと頷く。

「エルシィ様ですもの。兵たちが心酔するのも当たり前です」

 と、フレヤが褒めそやす。

「うちのお姫ちゃんは王様の才能があるんだわ。

 鼻が高いわね!」

 と、これはエルシィの家臣第一号でもあるバレッタ嬢だ。


 そんな側近たちの賞賛を居心地悪そうに浴びながらエルシィは天幕内を見渡す。

 彼ら彼女ら以外にはいない広々とした天幕で、侍女のキャリナやカエデがそそくさと中央テーブルにクロスをかけたり整え始めていた。

 これからここで軽い昼食を取ってから出発するのである。


 とは言え、用意される食事はあらかじめ伯爵館の料理長が作ってくれたお弁当だ。

 テーブルには人数分のお重にも似た真四角のお弁当箱が並んだ。


「さぁ、お話はご飯を頂きながらいたしましょう」

 エルシィがそう言うと、何人かが空腹を思い出したようにお腹をさすって各々の席に着いた。


 エルシィが率先してお弁当箱を開ける。

 もちろんエルシィが食いしん坊だった、という訳ではなく。

 座の一番偉い人が始めないと、皆も開けられないからだ。


 とは言え、小さな少女がニコニコしながら、その身体とは不釣り合いに大きなお弁当箱を開く姿は微笑ましくて、先の理由なしにもつい眺めてしまう光景だった。


 さて、せっかくなのでメニューを見てみよう。

 まずサンドイッチ。

 これは我々の知る食パンを使ったものではもちろんなく、パリッと歯ごたえある大きなバケットを食べやすいようにスライスしたモノが使われている。

 具は緑色の葉野菜にとやわらかい熟成サラミだ。


 続いておかず。

 お芋や野菜をたくさん入れた固焼きオムレツと、魚のフライがある。

 この魚は、ハイラス領では夏の魚としておなじみの、白マグロと呼ばれるものだそうだ。

 そしてこれはエルシィの希望というかアイデア提供で作られた、真っ赤なウインナーソーセージの飾り切りが添えられている。


「ほほう、これはなかなか目にも楽しいものですな」

 そのウインナーを早速フォークに刺したホーテン卿がしげしげと眺める。

「して、これは何を模しているので?」

 ウインナーを半分に切って、その切り口側から四分割に包丁を入れてある。

 まぁこれは我々現代日本人ならお馴染みのアレである。


「タコさんウインナーです!」

 エルシィは誇らしげにそう答える。

「なるほどね!」

 バレッタ嬢はよく解ってない顔でそう言い放って、美味しそうにウインナーを口に入れた。

 その弟アベルなどはうなずきながら無言で食べている。気に入ったようである。


「なるほど……? タコ……」


 ホーテン卿は微妙な表情で、しばらくそのウインナーを眺めていた。

 そも、ジズリオ島ではあまりタコを食べる習慣がなかったのだ。

白マグロでネット検索するとバラムツが出てくることがありますが、作中の白マグロはいわゆるビンチョウです


次の更新は来週の火曜日です

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― 新着の感想 ―
[一言] 女神の寵愛ですか女神様本人が聞いたら微妙な表情が見られそうですね
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