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じょじたん~商社マン、異世界で姫になる~  作者: K島あるふ
第三章 大国の動向編

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207野盗の群れ

「こ、これは……なんなのだ。いったいなぜこんなことに……」

 カタロナ街道を進む分遣軍を任された将、シモンは呟いた。

 彼の眼前に広がるのは信じがたい光景だ。

 まるで大嵐か何かの後のように大きく崩れた崖。

 土砂によって塞がれたカタロナ街道。

 そしてその周りで右往左往する配下の兵たち。


 そう、彼らはカタロナ街道を塞いだ大量の土砂を退かそうと、直上の部隊長などの指示を仰ぎながら動き回っているのだ。

 なぜかと言えば、彼らの同僚たる多くの者がその土砂に踏みつぶされているからに他ならない。


「いったい何があればこんなことが」

 シモンはもう一度、あらためて呟く。

 現場だけを見ればいい部隊長たちでならば、起きた現象に対処するだけでいい。

 だがシモンは将である。

 将たるものは全体を見渡し、対処の後先を考えなければならないのだ。


 シモンも兵を率い、もし敵の群隊に当たれば隊列を組んでこれに当たるという普通の行軍においては何の問題もなく出来ただろう。

 だが、まだこのような不測の事態に対処できるほど、将としての器が育っていなかった。

 この度も、あくまで街道を抜けた後にすぐサイード将軍と合流するという前提があったからこその抜擢であった。

 いわばお試し研修の様なものである。


 もちろん、万が一に接敵することはありうると考えられていたが、その万が一の想定以上が起こるなど、ゆめゆめ考えていなかった。



 そうして現場が何とか災害救助にまとまり、シモンもまたそちらに意識が落ち着きつつあった頃のことだ。

 その音が聞こえて来た。

 何が。

 それは馬が闊歩する蹄と、多くの人間が揃えて歩む足の音だ。


 シモンはハッとして振り向く。

 彼が振り向いた視線の先は目指すはずだったハイラスの土地。

 その方向からやって来たのは、紛れもないハイラス領の守兵であろう。


 そして、その先頭に立つ騎兵に見覚えがあった。

「貴様、スプレンド!」

 シモンが思わずその名を叫ぶ。

 呼ばれた先頭の騎兵は片手を上げて自ら率いる兵たちの歩みを止めさせると高らかに答えた。

「いかにも。こたびの討伐において御使い様(みつかいさま)より職を拝命した、将、スプレンドである」


 その堂々たる名乗りに唖然とし、次の瞬間にシモンはすべてを悟った顔になる。

「こ、この惨状は貴様の卑劣な罠だったのか!

 スプレンド! この卑怯者め」

 この罵声にも似た非難声明を聞き、スプレンドはにわかに眉をしかめる。

 不快だったというよりは困惑だった。

「卑劣? 卑怯?

 何を言っているのかわからないね。

 ここがどこだかわかっているのかい?

 そして君たちはこの場所になにをしに来たんだい?」


 言われ、シモンは忸怩たる思いで下唇をかみしめる。

 確かに、問われた言葉が示す通り、彼らはここに戦争をしに来たのだ。

 戦争に来て、敵の罠にはまり多くの兵を失ったなど、これは将たる者の恥としか言いようがない。


 だからといって、という思いがシモンにこみあげて来る。

「それにしたってこれはどうだ! こんなものは戦争ではない。虐殺だ。

 正々堂々と戦ったらどうだ!」

 戦争とは何か。

 軍と軍がその力を競い合い、そして強き者が勝利する。

 と、シモンにとってはそれこそが戦争であった。


 しかしこの言葉はスプレンドをホトホト呆れさせただけだった。

 戦争の定義に対してもそうだが、彼を呆れさせたのはもっと根本的なところだ。

「戦争? 何を言っているんだい」

 またもやスプレンドはシモンに言葉を掛ける。

 話がかみ合わない。

 シモンもようやくそのことに気付いて困惑の表情を浮かべる。

「これは戦争なんかじゃない。

 さっきも言ったろう? 討伐なんだよ。これは。

 君たちがいるのは我がハイラスの領土だ。

 そこに許可もなく、そして宣戦の布告すらなく君たちは立ち入った。

 軍隊? 君たちはそんな誇り高きモノではないだろう。

 ただの、野盗の群れだ」


 この言葉にシモンは愕然とした。

 今回、将に抜擢されたことが誇らしかった。

 まだ自分がその器ではないことも解っていたが、それでも、将としての価値があると認められたのが、何より輝かしかった。


 だが今ここに来て、彼は「野盗の親方」に貶められた。

 これは屈辱以外の何物でもない。

 そう、彼は感じた。


 「スプレンドめ。大陸一二を争う大将軍などと言われていい気になりやがって。

 いいぜ、やってやるぜ!

 お前ら! 敵が来てるぞ、土砂の片づけは後だ!」

 シモンが怒声を上げて配下の兵を集めようと振り向く。

 そこにいる人数を見て、また下唇を噛む。

 率いて来た八〇〇の兵のうち、目に見えるのはおよそ半数以下だ。

 残る半数がすべて土砂に飲まれたわけではないだろう。

 おそらく土砂の向こうに相応の数はいるはずなのだ。

 とは言え、今すぐにスプレンドと当たれる数は四〇〇ないし三五〇程度になる。


 それでもやるしかない。

 シモンは覚悟を決め、急ぎ部隊長を招集しようと声を上げる。


 だが、そんな暇をみすみす与えるわけがない。

 スプレンド卿はすでに整然と突撃準備を終えているハイラスの守兵たちに命令を下した。

「突撃! セルテからやって来た野盗どもを蹴散らせ!」


 未だ戦闘準備すら終えていないセルテ侯国分遣軍に、ハイラス軍が食らいついた。

「ひ、卑怯だぞ、スプレンド! 正々堂々戦え!」

 シモンはまだそんなことを叫んで、スプレンド卿を呆れさせた。

次は来週の火曜日です

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