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じょじたん~商社マン、異世界で姫になる~  作者: K島あるふ
第三章 大国の動向編

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202/463

202攻撃側と防御側

「サイード将軍、山脈側に人影を見た者がいるようです」

 その報告は、サイード将軍率いる騎馬突撃が失敗に終わり、仮の陣地へ帰参してから数時間が経過した頃にもたらされた。

 時すでに夕刻である。

「やはりこちらの動きを探る物見がおったであるな……」

 サイード将軍は苦々し気に表情をしかめた。

「それにしても、物見がいたとはいえ、見事な投石であった。あれは相当な練度よ」

「そうですね。物見がいたとはいえ、土塁越しで見えない標的に投げ込むのは簡単ではないはずです」

 副官が同意して頷く。


 彼らが言う通りであればその通りなのだろう。

 そう、副官氏が報告を受けた「山側の人影」が、実際に石砲撃の為の物見であったなら。


 もしそうであれば、ハイラス領の投石兵たちは、その物見によるサイード将軍らの位置情報を正確に受け取り、そしてそこへ向けて正確に投げ込んだわけである。

 これを成すために必要なのはまず物見による正確な観測。

 次にその観測結果を出来るだけ早く伝える連絡手段。

 最後に観測された場所に、土塁という目隠しがある状態で投げ込むだけの調整力。

 最低でもこれらが必要になって来る。

 しかもその正確な射撃を行う投石兵は一人や二人でないという。

 これは戦争が無事に終わって生き残ったなら、是非その訓練課程を学びたい、と、サイード将軍に思わせるほどの結果であった。


 種明かししてしまえば、彼らの関心はかなり見当違いなところを突いていたことになる。

 いやハイラス側にエルシィという不確定要素がなければ、結果を出すためにそうしなければならなかっただろう。


 つまり、である。

 実際にはハイラス側の投石兵たちは特定の標的を狙ってなどいなかった。

 彼らは常に「同じ力でほぼ同じ距離位置に石を投げ落とす訓練」だけを行った、いわば即席投石兵だった。

 この集団に位置情報を元にした立ち位置や方向を指示することで、指揮官の思う場所へと石雨を降らせるのがハイラス勢の基本戦術だ。


 つまり、常に射程が変わらない投石器と化した兵たちに、戦場を上から見下ろしたエルシィの情報を元に、敵の位置に合わせて動いてもらった。

 というのが真相である。

 よって、サイード将軍らが感心し学びたいと思ったような訓練課程などその第一段階くらいしか存在しないのだ。


 逆に言えば、エルシィという情報源を適切に使いさえすれば、本来必要な熟練技能さえある程度はショートカットして結果を出せてしまうということに他ならない。



「ともかく、このまま接近すれば同じことの繰り返しだ。まずはその物見を捕らえよ。」 苦虫を噛み潰したように顔をしかめたサイード将軍がそう命令を下す。

 そしてさらに副官へと話を振る。

「……他に、なにかあるか?」

「投石の射程ギリギリまで接近と離脱を繰り返して、相手の石弾を消耗させるというのはどうでしょう?」

「ふむ……あまり騎兵を疲れさせたくはないが……しばらく様子を見て、状況が変わらぬようならその案を採用することとする。

 では行け」

「はっ」

 サイード将軍の指示を受け、適切な者へと命令を伝える為、副官の青年は足早にその場を去った。



「クーネル砦将。山脈側に忍衆を放ったのは何のためですか?」

 ところ変わって守備側の砦将執務室にて、太守秘書官である知的な雰囲気の女性が訊ねる。

 クーネルはしばし無言のまま壁や天井に視線を這わせてから、ぽつりと答えた。

「敵側を探らせるのが、そんなに不思議かね?」


 この返事に秘書女史は満足しなかったようで、ため息交じりに首を振った。

「それは、そうです。

 しかし、砦将閣下は『遠巻きに姿を見せるだけで良い』と指示されておりました。

 それでは相手を探るにしても、半端なのでは?」

 その再度の問いに、クーネルは感心した風に肩をすくめる。

「ははぁ、軍事には疎いと思っていたけど、目の付け所は悪くないね。

 君、才能あるのでは?」

「……ありがとうございます」

 結局、秘書女史がクーネルから回答を引き出すことは出来なかった。


 まぁ、ぶっちゃければただの攪乱工作の一種であった。

 投石のカラクリを読み解くことができないだろう敵側に、クーネルは()()()()嘘の答えを用意してあげたのだ。

 これで、相手さんは「あの偵察兵さえ捕まえれば何とかなる」と考えるだろう。

 だが、その当の偵察兵は『山脈を駆けまわること右に出る者ない』アントール忍衆である。

 よっぽどの人数を山狩りに割かなければ、捕まえるなど到底無理な話だ。

 さらに言えば、そもそも簡単に険しい山脈側へ分け入ることができるのなら、街道なんかいらないのだ。


 しかも、である。

 もし彼らが苦労して忍衆を捕らえる、または撃退に成功したとして、真の回答は別にあるという。

 その真相を知った時、彼らがどんな顔をするだろう。

 それを想像するだけでも飯が美味い。

 クーネルはそう考えてニンマリと口角を上げた。


「さて、後は石弾の消耗目当てで騎兵を使ってくるだろうし、エルシィ様に頼らない対策の方も夜のうちにやっておこうかね。

 やれやれ、これでお(あし)がいつもと同じでは割に合わんよ」

 文句を言いながらも、とても楽しそうなクーネルであった。

次は金曜に更新します

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