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じょじたん~商社マン、異世界で姫になる~  作者: K島あるふ
第二章 ハイラス鎮守府編
185/462

185ホンモチ老の最後

 エルシィの一行が薄暗い石造りの地下室で合流した頃、その上の屋敷地下室では件の穴を前にホンモチ老とカエデが待機していた。

 とは言え、カエデはそれなりにせわしくロープの具合などを確かめている。

 ホンモチ老は何やら穴を見つめて考える顔だ。

「のうカエデ……」

 ふと、ホンモチ老は何かひらめいた様子の悪い顔でカエデに声をかける。

「なんにゃ?」

 カエデはカエデで、うんざりと言う顔で振り返った。

 ホンモチ老はそんなカエデの仕草を気にした風でもなく、ニヤニヤしながら穴を指さす。

「今、この穴を塞いでしまえば、あの小娘たちを始末できるのではにゃいか?」

 この言葉を聞き、初めカエデは唖然としてポカンと口を開け、その後に盛大で長いため息を吐いた。

「そうかもしれんにゃ。

 だけど、十中八九は戻ってくると思うにゃ。

 あのお姫様をただの人だと思わない方がいいにゃ」


 そもそもカエデはエルシィ暗殺の為に、エルシィのお側へと送り込まれた工作員である。

 役目の中にはエルシィの身辺や行動原理、また能力などを探ることもあった。

 その見知った様々の中には、エルシィが旧太守たちを罷免して騎士たちを送り込む様や、また反乱分子を制圧するために騎士たちを送り込む様も含む。

 当然、任務で知りえた情報は里に報告していたし、その報告はホンモチ老のところにも届いている。

 ただ、同じ情報を持ちながら、直接見た者と伝え聞いた者で情報に対するスタンスが違った。


 すなわち、カエデはエルシィのことを人非(ひとあら)ざるナニかと思っているし、ホンモチはどうせ何かの比喩で大げさに言っているだけだろうと思っていた。

 つまりホンモチ老はエルシィを少し賢い童女だと、今でも信じていた。


 ゆえに、この時もカエデの返事はあまり重要視せず、いそいそと地下室内にある様々な荷物をあさり始めた。


 それからほんの数分後のこと、ホンモチは額の汗をぬぐい肩で息をしながら満足そうに高笑いを上げる。

「はっはっは、どうにゃ! これで奴らはおしまいにゃ。

 暗殺任務も成功で、報酬がっぽりうはうはにゃー!」

 見れば、エルシィが落ち、護衛士たちが降りて行った穴の上に、分厚い鉄板が敷かれ、さらにその上に重そうな木の箱が積み重ねられていた。

 カエデはもう一度、盛大で長い溜息を吐いて目を覆った。

「お爺は今のうちに土下座の練習しておくのが吉にゃ」



 さて、屋敷の地下でホンモチ老の高笑いとカエデのため息が終わるか終わらないかと言う頃である。

 屋敷のどこか、いや厳密に言えば外から大きな「ドオン」という音がした。

 音だけではない。

 ホンモチ老たちが立つ床も屋敷も、同時に大きく揺れ、穴に積んだ荷物が一瞬浮き上がってから崩れた。

「な、なんにゃ! 何が起こったにゃ!」

「生き埋めになったらたまらないにゃ。外に逃げるにゃ!」

 二人は突然起こった天変地異風の何かに、ねこ耳をペタンとして地下から這い出る。

 そのまま廊下を静かに駆けて庭に出てみれば、そこにあるのはこれまでに見たこともない程に大きな亀の甲羅だった。


「こ、こ、こ、これは、まさかワシのお爺から伝え聞いた災厄の魔獣にゃ!?」

 里を襲い、地下に封じられたという話はホンモチにとっては所詮伝説の類で、話もどうせ何かの比喩だろうくらいに思っていた。

 だが、半分は恐れと共に信じていたのだろう。

 だからこそ、自分の身丈の何倍もある大亀の甲羅を前にして、そんな言葉と戦慄が走ったのだ。

「これが……魔獣にゃ?」

 カエデはホンモチの言葉を上の空で繰り返し、直後、ハッとしてナイフを構えた。

 エルシィを殺そうとしたナイフであり、そして家臣になった後、エルシィから返却されたあのナイフだ。

 こんなもので里を恐怖に陥れ、里の知恵と勇気をひっかき集めて地下へと封じたという魔獣をどうにかできるとは思わない。

 だが、少なくとも自分が生き延びるひと時を稼ぐくらいはできるだろう。

 もうこうなればホンモチはあきらめよう。

 どうせエルシィが生還したらただでは済まないのだし。

 そんな打算を瞬時にこなし、カエデはいつでも後退できるよう身構えた。


 が、大亀はいつまでもその恐るべき嘴を出さないし、それどころか手足もひっこめたままだった。

 その手足が出てくるはずの穴から代わりににゅっと這い出て来たのは……。

「エルシィ様にゃ!?」

 さすがにカエデはビックリして瞳孔が縦になった。


「いててて……酷い目に遭った」

「エルシィ様、もう少し静かにおろせなかったのですか?」

「てへ、ごめんごめん。

 なにせこんな重いモノを『とんでけー』したの初めてでしたので」

「こんなモノまで瞬時に移動できるなんて、さすがエルシィ様です」

 当然、出て来たのはエルシィだけではない。

 アベル、ヘイナル、そしてフレヤも次々に這い出してきて、ホンモチ屋敷の庭にはエルシィと近衛士たちが勢ぞろいとなった。

 カエデは肩をすくめてナイフを仕舞った。

「無事のおかえりをお祝いするにゃ」


 そしてホンモチ老は呆然と、膝から崩れ落ちる流れから自然と平伏の姿勢へ移行した。

「ぶ、無事のお帰りをお祝いしますにゃ……」

 ほぼ同じセリフだが、こちらは酷く震えた声だったという。


 その後、カエデからホンモチの行動顛末を聞いたエルシィは、静かにニッコリとホンモチ老に言った。

「ホンモチさんちの後継者はいますか?」

 すなわち、ホンモチ老への引退勧告であった。

ホンモチ老、死んでませんよ?

次回更新は今週の金曜日です

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― 新着の感想 ―
[一言] やったこと考えると普通に処刑コースな気がしますがホンモチさんよく生き延びましたね というか状況考えると依頼達成しても里の未来は暗かったと思うのですがそこまで考えてなかったんてしょうね
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