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じょじたん~商社マン、異世界で姫になる~  作者: K島あるふ
第二章 ハイラス鎮守府編
172/462

172自国領編入について

 ホンモチがわずかに顔を上げたことで長考が終わったと判断したエルシィは、おもむろに元帥杖を取り出し掲げ、語り掛けた。

「汝の名はホンモチ。

 これより、わたくしの家臣となり忠誠を誓うと宣言しなさい」

 一瞬、面食らって言葉が詰まったようなホンモチだったが、そう言わされるのは判っていたので流れに身を任せるが良いと判断する。

「このホンモチ、エルシィ様に忠誠を誓い、御身の為に働きましょう」

 里長の老人は、そう言いながら改めて頭を下げた。

 すると、その言葉に反応して元帥丈からは淡い光がパッと溢れ、ホンモチの頭上に降り注いだ。

 その光はホンモチの身体にまとわりつくとそのまま彼に吸い込まれるように消える。


 これはエルシィにとっては予定調和であり、ホンモチにとっては虚を突かれることだった。

 すなわち、いまここにホンモチはエルシィの「家臣」として元帥杖に登録されたという訳だ。

「こ、これは……?」

 困惑するホンモチに、同じ里の住人として、そして家臣としての先達として、ねこ耳メイドのカエデは「うんうん」と頷くのだった。

「はい、よろしくお願いしますね。ホンモチさん」

 そしてエルシィはとてもいい笑顔でそう応た。


 ホンモチの困惑はさておいて、エルシィは早速と元帥杖で虚空を叩く。

「『ピクトゥーラ(画像表示)』!」

 すると側仕え衆にはもうお馴染みの四角いモニターが空中へと浮かんで現れた。

 もうホンモチ老は困惑などしている場合ではなく驚いた。

 驚いて思わず後ろへ跳び退り身構える。

 エルシィなどはその様子を見て「おお、忍者らしい!」と妙に感心したのだった。


「エルシィ。さっきから気になっていたんだけど、その『ニンジャ』ってなんだ?」

 そのつぶやきを拾い、アベル少年が訊ねる。

 これまでにも何度かエルシィが思わずという態で声に出していたので、気になっていたのだ。

 この疑問は他の者も持ってはいたが、職務上、興味を持たないよう控えていたり、「きっと自分の知識にない何かを知っているのだと」感心したり、「またおかしなこと言いだしたにゃ」と呆れたり、それぞれ違う思惑で訊かずにいたのだ。


 はたして、エルシィが答える。

「あー、えっとですねー。

 わたくしの国……いえ、遠い外国の物語で読んだのですが、そこでは『山里の民(アンドラン)のように情報収集や工作に従事する影の人のことをそう呼ぶのだそうです?」

 一瞬、見え隠れしたエルシィの本性(元の世界の知識)に、ヘイナルなどは少しヒヤッとした。

 が、彼女の真実を知らない者たちは特に気にしなかったようで、感心しながら「へぇ」とか「ほぉ」などと口々に感心するのだった。


 側仕え衆の関心はさておき、ホンモチが警戒を続ける虚空モニターだ。

 そんなホンモチの態度には気にも留めず、エルシィは元帥杖でモニターをちょいちょいと操作する。

「えーとまずはホンモチさんについて……と」

 そう言って開くのはホンモチ老の情報画面である。

 曰く「ホンモチ[ニンジャユニット]とあり、その下には帯グラフ状に様々な能力値と共に忠誠値が示されている。

 忠誠値はあまり高くはない。

 色で言えばギリギリ黄色というところだろう。

 まぁこれは予想した通りなので、エルシィは流し見する。

 それより肝心なのはその前、[ニンジャユニット]という言葉であった。


 あいぇぇ、にんじゃなんで!


 と叫びたかったが自重して黙考する。

 この辺りのステータス表示は、どうやらエルシィの知識や思考が反映されている節がある。

 先日のホーテン卿が披露した「覚醒スキル」の演出もそうだ。

 まさか杖を授けてくれたティタノヴィア神がそんなお茶目をするとも思えないし。


 ともかく、ホンモチら里の人間は、エルシィから見る職種がニンジャということになったらしい。

 もう画面にそう出ている以上はそうなのだから仕方がない。

 エルシィは、チベットスナギツネの様なスン顔で納得することにした。



 さて、虚空モニターはホンモチのステータスを確認するのが目的ではない。

 それはついでであり、本題は地図なのだ。

 そう、『ピクトゥーラ(画像表示)』によって見ることが出来る周辺地図における、自領地域の確認である。

 エルシィは元帥杖でちょいちょいと操作し表示を変えて、地図を映し出す。

 そしてさらに指示してアンダール山脈周辺をズームした。

 杖によってエルシィの自国領と判断される地域は、薄く青い色がかかるように設定できる。

 この設定をチェックすることで、アンダール山脈の現状が確認できるという訳だ。


 だが、エルシィの期待とは裏腹に、アンダール山脈は未だ無色のままだった。

「うーん、地域のトップに臣従してもらうだけじゃダメですか」

「だめなんですか……」

 エルシィはそう呟きながら、元帥杖で地図上のアンダール山脈をちょいちょいと叩いてみる。

 その度、画面には『未登録の地域です』というエラーが表示されるのだ。

 ちなみにエルシィの言葉に追従したのはフレヤだが、彼女は困った顔で言うだけであり何がダメなのかいまいちわかっている様子はない。


「では次の検証行ってみましょう」

 気を取り直し、エルシィはポケットから一枚の紙を取り出す。

 取り出し、それをホンモチへと差し出した。

「早速ですが、ホンモチさんおよび里の皆さんには転封(てんぽう)していただきます。

 これはその為の書類なので、よく読んでサインをお願いします」


 虚空モニターに困惑しつつ警戒していたホンモチは、ハッとして恐る恐るとその紙を受け取る。

 言われた通り読んでみると「アンダール山脈とハイラス領都近くの土地を交換する」とか「だが、これまで通り山里に住むことは認める」といった旨の内容が読み取れた。

 ホンモチはこれまた何のための契約なのかいまいち読み切れなかったが、どうせ形式の上の話だと高を括って、言われるままにサインした。


 その書類を満足そうに受け取ったエルシィは呟く。

「これで人の社会通念上でも、アンダール山脈は自国領となった訳ですが……どうでしょうね?」

 言いつつ、また画面上の地図に目を移し、何度か更新してみる。

 が、やはりアンダール山脈のカラーは青色にならなかった。

「うーん、なんでですかねー?」


 エルシィが何に困惑して、何を疑問に思っているのかいまいち理解していなかったフレヤは、キョトンとした顔で頭を傾ける。

「エルシィ様? アンダール山脈が独立した他領扱いされているなら、国璽の印章があるのではないですか?」

「あ!」


 それは旧レビア王国における国や領地の在り様を知る、一部の人間にとってはあまりに当たり前であり、逆に知らない者にとっては考えもつかない常識であった。

 エルシィはもちろん知識としてはあったが、未だ理解が浅かったようだ。

 というか検証すべきことの一つとして考えていたはずだったが、すっかり忘れていた。


 思わず声を上げたエルシィは期待を込めた目でホンモチ老を振り返る。

 ホンモチ老は一瞬だけ嫌そうな顔をしてから、ゆっくりと頭を下げるのだった。

 その態度が印章の存在を肯定しているのは誰の目にも明らかである。

次回は来週の火曜日です

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― 新着の感想 ―
[一言] いつも更新お疲れ様です こんな辺鄙な場所にも印章が存在してるってことはもしかしてこの大陸の土地は全部こんな感じな可能性が?
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