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じょじたん~商社マン、異世界で姫になる~  作者: K島あるふ
第二章 ハイラス鎮守府編
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167制圧

「エルシィ様は私が守る

 フレヤとアベルは速やかに敵を排除せよ」

「りょーかい!」

 ヘイナルが淀みなくそう声を上げると、それに従い名を呼ばれた両名はすぐに駆け出した。

 言ったヘイナルはすぐに腰の得物、近衛の制式装備である短剣を抜いてエルシィを背にかばうように立つ。

 現状、敵はエルシィたちを取り囲もうとするが、それぞれの鼻先をフレヤとアベルが抑えるように立ちはだかったので未だ前面に展開するにとどまっている。

 だがそれも時間の問題だろうと思われた。

 なにせこちらの方が人数は少ないのだ。

 時間さえかけられてしまえば、多勢に無勢で囲まれることだろう。


 とは言え、それはあくまで相手が今の人数である限り、である。

 ゆえにヘイナルは上述の様な指示を出したのだ。

 二進も三進もいかなくなる前に敵を減らしてしまう方が良い。ということである。

 敵が弱い、とは言わない。

 が、それはさておきフレヤ、アベルの両名は確かに強い。

 いや、以前よりよっぽど強くなった。

 なにせ普段近衛としての訓練をしながら、折に触れてホーテン卿に扱かれてもいるのだ。

 これで強くならなければ早々に剣を置いた方が良いだろう。


 それに、先に「敵が弱いとは言わない」とは述べたが、比較で言うならさほど強くはないはずなのだ。

 なにせ相手はスパイ活動や秘密工作を得意とする組織なのである。

 通称『山里の者(アンドラン)』と呼ばれるらしいその者たちは、そもそも素早く身軽な『草原の妖精族(ケットシー)』の特性を、この険しい山脈にて大いに磨きをかけてその任務にあたる。

 ゆえに逃げに徹されれば捕まえるのも簡単ではない。

 敵地に潜入して情報を得たり、工作を施したりし、無事にその結果を持ち帰るのが彼らの使命だ。

 それもそこに重点を置いて特化されているからこそである。

 だが、特殊工作も得意とし、なおかつ戦闘力も併せ持つ。

 などという都合の良いことは滅多にない。

 つまり、彼らの戦闘力は、純粋なる戦闘職に比べればおおよそ低いと思われた。


 そうしたヘイナルの考察を裏付けるように、飛び出して来た黒づくめの一〇人はフレヤ、アベルを攻めあぐねていた。

 当初の作戦をすぐに捨て、五人組に分かれてそれぞれに当たるという判断の速さは褒められよう。

 だが彼ら五人では両名の相手をするには、全く足りないと言わざるを得なかった。


「ええい、なにをマゴマゴしているにゃ。

 とっとと片付けるにゃ!」

 石塁の上から戦場を俯瞰して指示を出しているのは、カエデからクヌギと呼ばれた里の門衛の男だ。

 『草原の妖精族(ケットシー)』が小柄であるからいまいち年齢が判りづらいが、里防衛に関する指揮を限定的にでも任されるくらいだから、それなりの地位なのだろう。

 その彼が、すでに数分もかけてエルシィたちを包囲すらできない現状に苛立ちを覚えていた。

「カエデ、裏切っていないというなら、オマエはこっちにゃ。

 早くヤツラを片付けるにゃ」

「バカ言うにゃ!

 ここでエルシィ様を傷つけでもしたら、うちの里はおしまいにゃ」

 だが、立場が変わってクヌギの焦りなど毛ほども理解できないカエデは顔面を蒼白にしてそう叫んだ。


 カエデは解っている。

 あの得体のしれない数々の権能があるならば、いくら数の優位があろうともエルシィを仕留めるなど簡単ではないということを。

 クヌギは知らない。

 エルシィがただの子供ではないということを。


 そうして、ただいたずらに時が過ぎる。

 里の黒づくめは攻めあぐね、そして近衛側は素早い彼らを捕らえ斬り付けるのに苦労する。

 双方に小さな傷以上の被害が出ず、すでに五分程度の時間が経過した。


「埒があきませんね……」

「ええ。敵も思った以上に素早い。

 できればあのクヌギという者を抑えたいところですが」

 一歩引いたところで守り守られる主従がそう言葉を交わす。

「……クヌギを抑えればいいにゃ?」

 と、二人の言葉を聞いたカエデが小さな声で訊ねる。

 エルシィとヘイナルはキョトンとした顔で顔を見合わせ、それから小さく頷いた。

「そうだな。

 クヌギという者が指揮官なのだろう?」

 今度はヘイナルの問いにカエデが頷いた。

 カエデはなるほど、ともう一度、深く頷き考える。


 今、話がこじれているのはクヌギのバカがカエデの話を信じず、状況を把握できていないのが原因である。

 ならばとっととそのバカを排除して、より上の立場の人間……できれば里長あたりと話した方が手っ取り早いだろう。

 本当はヘイナルの言っている話はもっとミクロな戦術レベルのことだったが、カエデはそう解釈し真っすぐなキトンブルーの瞳でヘイナルを見上げた。

「何か武器になるモノを貸して欲しいにゃ。

 手ごろなナイフがあると助かるにゃ」

 ヘイナルは応えあぐね、エルシィへと振り返る。

 今でこそフリーにさせているが、カエデはそもそも暗殺の実行犯である。

 元々持っていたナイフなどの凶器もすでに取り上げられている。

 それをまた渡しても良いのか。

 ヘイナルは判断を主君に委ねることにした。


 エルシィはカエデの瞳をじっと見て、それから頷いた。

「いいでしょう。

 ヘイナル、ナイフを返してあげてください」

「はっ」

 元々彼女が持っていたナイフは、ヘイナルが取り上げたままで今も持っていた。

 ゆえに、そのナイフがカエデに返されたのであった。

「自分のナイフを返してもらえるなんて思わなかったにゃ

 それにゃ、ちょっと行って来るにゃ」

 ちょっと目を見開いてビックリしたカエデだったが、その顔はすぐに屈託のない笑みへと変わった。

 お気に入りのおもちゃを手にしたような、そんな表情だ。


 そして、その直後にカエデの身体が霞んで消えた。


 否、あまりの速さにエルシィの目が彼女を追いきれなかったのだ。

 次にその姿を見つけたのは、一〇秒と経たぬうちに石塁と迫った時だった。

 カエデは、まるで斜面や壁面など平地と同じであると言わんばかりの自然さで、スルスルと石塁を登る。

 それは本当に一瞬の出来事だった。

 そしてその次の瞬間、カエデのナイフがクヌギの首筋に当てられていた。

「オマエじゃ話にならんにゃ。

 ここで死ぬか、里長のところに通すか、今ここで選ぶにゃ」

「なっ!」


 この出来事に、その場の黒づくめもエルシィたちもみんながビックリした。

 そしてその一瞬にできた隙を、フレヤもアベルも見逃さなかった。

 まさに電光石火。

 フレヤはその止まった様な時の中を駆け、黒づくめたちの武器を叩き落とす。

 アベルは『剣の舞(シュヴェールダンツェ)』で呼び出した八本の剣を黒づくめたちの喉元に付きつけた。

 こうして里の前で起こった戦いは趨勢は決した。

できたので更新します

次は金曜を予定しております

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