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じょじたん~商社マン、異世界で姫になる~  作者: K島あるふ
第二章 ハイラス鎮守府編
157/462

157種明かし

「……なぜ、アタシが暗殺者だとわかったにゃ?」

 自分の目論見が見破られていた。

 そういう忸怩たる思いに顔をゆがめながら、縛られたままのねこ耳メイドカエデは重々しくそう訊ねた。

 が、これを聞いたエルシィはキョトンとした顔で自らの侍女キャリナへと振り返る。

 キャリナは無言のままそっと首を振り、その次に目を向けられた近衛士ヘイナルもまたやはり首を振った。

「別に、カエデが暗殺者だと判っていた訳ではないのですよ」

「!?」

 どうしようかとも思ったがここで韜晦する理由もないし、さっき『種明かしタイム』と言ってしまった手前、黙っているのも何だし。

 などと考えつつエルシィはハッキリと言った。

 この種明かしには、カエデもビックリである。

「そんにゃ! ならにゃんでアタシの入れた薬湯を飲まなかったにゃ?

 つじつま(辻褄)が合わないにゃ!」

 今回のカエデ逮捕劇は初めから仕組まれていた罠だった。

 そう思っていたのでカエデは誤魔化されたのだと思いカッとなった。

 素直に話しているエルシィにとっては完全に濡れ衣だったので、エルシィも彼女が何に怒っているのかわからず、なおのことキョトンとする。

 キョトンとしつつも、カエデの問いに答えようと、人差し指であごの辺りを小さくトントンしながら口を開いた。

「それはですねー、単純にぜんほーいけいかい(全方位警戒)してたからです」

「……なぜ?」

 そんな素振りは感じなかった。という困惑混みでカエデの方もまた眉を寄せたままにキョトンとする。

「先日、お休みを頂いてあちこち視察したじゃないですか?

 あの後あたりでコズールさんから気になる報告がありまして。

 曰く、わたくしを暗殺者が狙っている形跡がある。とのこだったんですよ。

 それからちょっと気を付けて、お茶はキャリナが入れるモノ以外は口にしないようにしてました」

 ちなみに食事は専属の料理人のものだけにしていた。

 まぁこれは「視察」にさえ出なければ、そもそもそれ以外を口にする機会がない。


 なるほど、それにまんまと引っかかった訳か。

 と、カエデは悔しさから横を向いて小さく口を尖らせた。

「気を付けていたので、薬湯の香りから異物混入に気付きまして、おかげさまでキャリナも飲まないように手配できたのです。

 これは我ながらぐっじょぶでした」

えるひぃはま(エルシィ様)あらしも(私も)|らすけれほしかっられす《助けてほしかったです》~」

「ごめんてばー」

 しびれたままテーブルに突っ伏しているユスティーナが呟くように言うので、エルシィは苦笑いを浮かべながらそう答えた。

 答えて、ふと思いついてキャリナに目を向ける。

「キャリナ。毛布持ってきて、ユスティーナを床に寝かせてあげてくださ。

 それと水を飲ませてあげてください」

「かしこまりました」

 出来れば寝室にでも連れて行ってあげたいところだったが、今ここでユスティーナを運ぶための人手を呼び込んだら、この状態の説明が面倒だ。

 そう考えたゆえの処置であった。

「それにしたって、薬湯の毒に気付くにゃんて、普通じゃないにゃ」

「まぁ、昔、飲んだことあったので」

 気まずそうに目をそらすエルシィであった。

 その経験は当然、上島丈二時代のものだったが。

 丈二の人生も、常人からすればなかなかにハードである。

 その様子からカエデは勝手に何か想像したらしく、一瞬だけ同情めいた視線をエルシィに向けたのだった。


「もう一つ気になることがあるにゃ」

「なんでしょうー?」

 気になることは一つどころではないのだが、ひとまずそう言ったのは「自分が失敗した原因について」という前提の話だからだ。

 エルシィも特に気にせず首を傾げて先を促す。

「そこの近衛の人が突然出て来たのは、姫様の杖の力なのは解ったにゃ。

 ただ、『トンデケー』とか言ってにゃいから杖の力が発動するのおかしいにゃ」

 これを問われたエルシィは、一度だけまた気まずそうに眼をそらしてから、ポーカーフェイスを装い笑顔を張り付けた。

 なぜか。

 それは、いつも虚空モニター越しに家臣たちを送るための『とんでけー』という掛け声は、別にキーワードという訳ではなかったからだ。

 単にエルシィの気分で出ている言葉なのである。

 ただ、この件に関してはエルシィが固い笑顔のまま答えなかったので、カエデは「何かまだ知らない秘密があるのにゃ」とひとまず納得して頷くのだった。


「……これからアタシはどうなるにゃ?」

 しばしの沈黙の後に、カエデがため息交じりに呟いた。

 旧レビア王国時代から比べて身分制度がかなり曖昧になりつつある現代ではあるが、それでも貴族と平民の身分格差は歴然として存在している。

 特にエルシィは貴族の中でもいわゆる領主格であり、まさに別格だ。

 対し、カエデは制度的には平民とはいえ、迫害の歴史から山岳地帯へと追いやられた「草原の妖精(ケットシー)」の一族である。

 それが今回の様な暗殺未遂を起こせば、聞くまでもなく一族郎党連座で全員処刑でもおかしくない。

 だが、どこかのほほんとした牧歌的なこの姫様なら、という淡い期待からカエデはそう問わずにいられなかった。

 まぁ、彼女の持つエルシィ像は、すでに暗殺を阻止されたことで崩れかけているのだが。


 とはいえ、別世界の価値観で育ったエルシィからすると、本人はともかくとして連座で一族撃滅という発想はなかった。

 その意味ではカエデの印象もあながち間違いではなかったと言える。

 ともかく、エルシィは「なぜカエデが暗殺者になったのか」という背景を(つまび)らかにしなければならないという思いの方が強かった。

「そうですね。まず、お話しをしましょう。

 あなたがどう育ち、どうやってここに来たのか。

 そういうお話を」

 ゆえに、エルシィは邪気なくニッコリと笑顔を浮かべてそういった。

次の更新は来週の火曜日です

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