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じょじたん~商社マン、異世界で姫になる~  作者: K島あるふ
第二章 ハイラス鎮守府編
151/462

151乱を企てる者たち

「おう、長かったな。腹でも壊したか?」

 コズールがエルシィとの連絡を終わって部屋に戻ると、そんな品のない軽口が飛んで来た。

「ちぃと胃腸の調子が悪くてな」

「ふん。どうせ身体が怖気づいているのだろう。

 気の小さいことだな」

 コズールが腹をさすりながらおどけて言えば、また別の男が軽蔑したような冷たい眼差しで、そう吐き捨てた。


 ここはエルシィが着任してから逃げ出したとある商人が持っていた屋敷の食堂だ。

 逃げ出したということは、エルシィに摘発される覚えがあるくらいには何かあくどい商売をしていたのだろう。

 それはまぁいい。

 そんな、本来空き家であるそこそこの規模の屋敷を勝手に接収し集まっているのは、ほとんどが摘発される自覚を持ちながらも逃げずに身の不幸を嘆くような者たちばかりである。


 つまり、どの顔ぶれも現政権を握っているエルシィ一派(エルクリーク)に不満を持つ者ばかり、ということだ。

 彼らがこうして集まるのはすでに数回に及んでいる。

 集会を開くたびに仲間が増えていったが、そろそろその頭数も打ち止めという頃合いだった。

 そんな彼らが一堂に集まり何をしているかと言えば、国をひっくり返すための相談である。

 コズールくらいの小悪党なら胃が痛くなるのも当然と言えよう。


 もっとも、この時のコズールはいかにも小者らしい振舞いとは裏腹に、とても気楽な心持ちでいた。

 なにせ、ここで話し合われている悪だくみが成功しようと潰えようと、彼自身の身の安全は保障されているからだ。

 もし万が一にも成功すれば、この集まりの発端を呼び掛けた功をもって、新々政権においてそこそこの地位が約束されるだろうし、失敗したならエルシィに取り立てられることが決まっているのだ。


「それで、ここにいる者たちの手勢を集めたら、どれくらいになるのだ?」

 身なり良い、剣を佩いた男がイラついた様子でそう訊ねると、ザワついていた食堂は一度にシンとした。

 コズールは何気ない振りで男に目を向ける。


 この男の名はフェドート。

 元ハイラス伯国騎士府長を務めていた者だ。

 地位が地位だけに武人としての腕は確かだが、ジズ公国の鬼騎士と畏れられたホーテン卿に急襲され、這う這うの体で逃げ出し、それ以来はこうして不満を垂れ流しながら潜伏していたのだ。


 彼の問いに答えたのは、チンピラ風の男だった。

()()()のもいるが、頭数だけ数えりゃ二〇〇くらいは集まるだろう。

 もっとも、金も使うがな」

「金のことならお任せください。

 無尽蔵、とは言いませんが、それなりに用意してございます」

 続けてそう言ったのは商人風の男だ。

「雇われ含めて二〇〇か……

 領都にいる騎士警士だけでも五〇〇はいるってのに、たったそれだけでどうするんだ?」

 そして不安そうに吐き捨てるのは、元は仕立ての良かったろう揃えの服を着崩した男だった。

 こいつは元財司にいた役人崩れだったな。

 コズールは小さく肩をすくめながら口に出さず確認する。


 ここにいる連中を大まかに分けると三種類の人間がいる。

 一つは元ハイラス伯国の司府に勤めていた者たちだ。

 先の役人崩れやフェドート元騎士府長などがその代表と言えるだろう。

 また一つは商人。

 この屋敷の元々の持ち主同様、新政権から摘発される覚えのある、脛に傷がありまくる商人だ。

 そしてもう一つ。

 これは少し変わり種というか、いて当然というか。

 貧民街のチンピラである。


 貧民街(スラム)は元ハイラス伯国において殿下であったライネリオの介入によって、健康な成人男性にはそれなりの職が斡旋され、生活は健全化しつつあった。

 が、そんな健全な生活になじめぬ者もいた。

 そういった者は斡旋された職場から逃げ出し、元の生活に戻ろうとする。

 それがこの一派。貧民街のチンピラ、という訳だ。


 さらに例外が一人。

 食堂の奥の席に座して腕を組み、押し黙ったままでいる中年なわりに美しく、身なりの良い男。

 この街において吟遊詩人の元締めの様な事をしているユリウス師であった。

 ユリウス師は、おそらくここにいる誰より裕福であり、新政権下での生活は何不自由なく、そして誰よりくだらない理由でここにいる。

 つまり、彼は根っからの「為政者嫌い」を拗らせただけであった。


 その嫌いな為政者エルシィが、自分のところから追い出すように派遣したユスティーナを上手く使っているのがまた気に入らなかった。

 「どうせ何もできまい」と高をくくっていただけに、その苛立たしさは()()()()である。


 そんなユリウス師が、再びザワザワし始めた食堂に苛立ちながら口を開いた。

「私は軍師でも軍政者でもないがね。

 私の知る数々の英雄詩の中には、寡兵で大軍を討つモノも多い。

 ようはやり方なのではないか?」


 これを鼻で笑う者もいる。

 そんな物語や伝説の話をされてもな。という訳である。

 が、元騎士府長フェドートを始めとした武官崩れはそうでもない。

 一応、戦争史を幾らか学んでいれば、実際にそういう戦いもあったことを知っているからだ。

「なるほど……寡兵は奇策を用いよ、か」


 何とかなるかもしれない。

 フェドートの脳裏にいくつかの案が浮かび始めた。


 その時だった。

 屋敷の玄関方面から、扉をぶち破るような大きな音が聞こえて来たのは。

次の更新は金曜を予定しています

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