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じょじたん~商社マン、異世界で姫になる~  作者: K島あるふ
第二章 ハイラス鎮守府編
149/462

149不満分子

 エルシィの出した新たな虚空モニターに映し出された草臥(くたび)れた感じの男に、会議室の一同の多くは「誰だこいつ?」という顔をした。

 が、数人は眉をひそめ、そして近衛士フレヤは仇でも見るかの如く睨みつけた。

「どうどうフレヤ。

 コズールさんも仲間ですからね、そんな目で見ない」

 そんな様子にとりなしを口にするエルシィだが、フレヤもまた頑なだ。

「いえまだです!

 こいつがエルシィ様の役に立ったと認められるまでは、仲間などと思えません」

 まぁ、彼女がこういう態度をとるのはいつだってエルシィに絡んだ時なのだ。

 それが判っているから、エルシィは困った様な、少し面白いような複雑な表情で肩をすくめた。


「えーと、閣下? 現況報告してもよろしいですか?」

 主従の面倒なやり取りをうんざりと言った顔で眺めた画面の男コズールが、いつかの様なふてぶてしい態度に戻りつつそう言った。

 エルシィはすぐに気を取り直して画面へと笑顔を向ける。

「ええ、お願いします。どんな具合ですか?」

「はっ、ここしばらく場末の酒場で噂を振りまいて集めた、反体制の過激な連中が集まってますぜ」

 コズールに課せられた密命。

 それはエルシィの新体制に反対反抗的な意思を持つ者たちを集めることだった。

 元々ジズ公国の不良警士である彼には、こうした裏道捜査の様な任務はうって付けなんじゃないか。

 と、期待半分くらいのつもりで任されたのであった。

「ほほう。それはいかほどで?」

「大物小物、併せてざっと二〇人ほどですかね?」

「あれ、思ったより少ないですね?」

「そりゃ、こんなうらぶれた場所に、たくさんそんな入るわけねーでしょう」

「すると、ホントはもっと多いのですか?」

「小者以下の(はし)た野郎はもっといますが……まぁそんなのは親分がいるからデカい顔するようなコウモリどもでさ」

「コウモリさんでしたか。

 ではそこに集まった二〇人をやっつけちゃえば……」

「もう組織だった反抗できる可能性のある気合の入ったヤツは、いないでしょうね」

 コズールはエルシィからの問いに次々答え、そう結んだ。

 エルシィも彼の働きへ満足そうな笑みを浮かべながら大きく頷いた。


 フレヤなどはその間ずっと「ホントにコイツは信用に値するのか?」と胡乱な目でコズールを眺め続けている。

 同様の者も会議室には少なくない。

 だが、エルシィにはこれを信用するだけの根拠が少しばかりだがあった。

 それは元帥杖の権能である。

 コズールはこの任務に先駆けて、フレヤ達同様に家臣登録を行っている。

 フレヤには言い訳上「従属登録」と言っているが、実際には全く同じものである。

 つまりエルシィはいつでもコズールの居場所や状態を監視することが出来たのだ。

 その上、忠誠度などの視覚化したパラメーターまで見られるのだから、彼がエルシィを裏切ろうと考えたならその兆候はすぐわかるというモノだ。


 という訳で、エルシィはコズールの出して来た情報をある程度信用した。

 そこでエルシィは会議室を振り向く。

 いや、目を向けるのは先ほど軍部についての報告をしたホーテン卿である。

「聞きましたねホーテン卿。

 すぐに対抗できるだけの騎士警士を集めてください」

 こう命ぜられ、ホーテン卿はこの上なく楽しそうで獰猛な笑みを浮かべる。

「はっ! 見るところさほど大きくない建屋のようですから、包囲に警士三〇名もいればよいでしょう。

 後は突撃用に即応できる騎士を二〇ぶち込みましょうぞ。

 すぐに申し次を走らせます」

 そしてエルシィに答えながらノシノシと会議室出入り口まで歩き出した。

 が、これをエルシィは押しとどめる。

「おまちください!

 伝令を走らせる必要はありませんよ?」

 言いながら、エルシィはすでに三枚展開している虚空モニターをクイクイと親指で刺す。

 そうされてホーテン卿はハッとした。

 そうだ。エルシィの権能を借りれば、騎士府だろうと警士府だろうとひとっ飛びだし、なんならここにいながら指令が出せるのだ。

「はっはっは、そうでしたな。

 老人は頭が固くてイカン!」

 自虐的な言葉だがまったく悲観した風ではなく笑い飛ばし、ホーテン卿は歩く方向をエルシィへと向ける。

「『ピクトゥーラ(画像表示)』、そしてもひとつ『ピクトゥーラ(画像表示)』!」

 エルシィはこくりと頷いて、虚空に二枚のモニターを呼び出した。

 もちろん、それぞれ騎士府と警士府が映し出されたものだ。

「ではすぐにでも……おい! 誰かいないか!」

 ホーテン卿はすぐさま、楽しげな顔で二枚の(デュアル)モニターに怒鳴りつけるのであった。



 モニター越しの指令であっという間に出動準備が整っていく光景を眺めつつ、エルシィは呟く。

「これは……ワンダバですねぇ」

 それはとても小さなつぶやきで、軍部の動きを固唾を飲んで見守る面々の耳には届いていなかった。

 だが、一人だけ、それを聞き留めたものがいた。

 吟遊詩人の娘、ユスティーナである。

「ワンダバ……ですか。それはなんですか?」

 幼いながら詩作もするクリエイターらしく好奇心を発揮したユスティーナが訊ねる。

 エルシィにしたらつい漏らした言葉だけに、これを拾われたのは「しまった」という思いである。

「ええと、うるとらま……いえ、その。何と言っていいか」

 昔テレビで見た特撮ヒーローなどと言って通用するわけがない。

 エルシィはしどろもどろと考えながら話すしかなかった。

「以前見聞きした特撮ヒーロー……いえ、ドラマ? あ、そう! 演劇!

 その演劇の中でデスネ。主人公の隊が出動する時に勇ましい曲がかかるのです。

 それが『ワンダバ』です」

「なるほど英雄譚(ヒーローもの)の演劇でかかる音楽ですか……なるほど」

 何とか通じたようである。

 いや、本当に意思が通じ合ったかは判らないが、なんだかんだと納得してくれたようである。

「では、ちょっと試しにやってみましょう」

 言って、ユスティーナがギターの様なウクレレの様な弦楽器を取り出した。

「あれ? ユスティーナは声楽の人じゃなかったです?」

 そこでちょっと疑問に思ったエルシィが口を挟む。

 初めて会った時に披露してもらったのが歌だったので、そう思っていたのだ。

 ユスティーナはその問いにちょっとはにかみながら首を振る。

「一番得意なのは歌ですよ。

 でも、吟遊詩人ですから、楽器も練習しているんです」

「へー、それで『ワンダバ』を?」

「ええ、『ワンダバ』を」

 正しく通じているとは思えないが、あの短い説明からユスティーナがどう解釈したか楽しみではあった。

 果たして、ユスティーナの奏でた音楽は、勇ましく意気盛んな曲であった。

 いかにも、出陣にはふさわしい軍事行進曲のような曲。

 騎士警士たちの準備が進む様を画面越しに見ている会議室の面々も、この唐突に響いたBGMに「おお」と沸き立つ。

 もちろん、ホーテン卿や画面向こうに整列する騎士警士たちにも聞こえていおり、彼らの意気もまた沸き立った。

 特に画面向こうの者たちからすれば、唐突に見えないところから降り注ぐ音楽であるから、これは天の響きに感じたかもしれない。


 ふと、この時、エルシィは出陣を前にした者たちの身体をつつむ、淡い光を感じた。

「?」

 コテンと首を傾げつつ、会議室の面々にも目を向ける。

 だが、同じように気付いた者はいないようだった。

「まさか?」

 急ぎ、エルシィは虚空モニターで立ち並ぶ騎士のうち、ランダムに選んだ一人のステータスを開いてみる。

「これって……」

 エルシィが確認した騎士の戦闘に関する能力が、わずかながら、軒並み上がっていることが確認された。

 どうやらユスティーナの『ワンダバ』にはバフ効果があるようだった。

せいしんこま……おっとこれ以上は言えねえ


次回更新は金曜予定です

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