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じょじたん~商社マン、異世界で姫になる~  作者: K島あるふ
第二章 ハイラス鎮守府編
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146報告会 その九 孤児院

 農村に伝えたパエリアがローカライズされて独自発展を遂げそうだという面白そうな予想が立ったため、エルシィの気分は見るからに浮き立って機嫌がよくなった。

 会議室に集った一部の者はホッとし、また一部の者はそれを微笑ましく見守る。

 そうした一幕を挟み、報告会は続く。


「孤児院の現状について報告いたします」

 もう席順とかあまり関係なくなってきたところで、指名されたフレヤが楚々と目礼をした。

 彼女はエルシィを崇拝する近衛ではあるが、同時に孤児院の様子見や現状の改善などについて意見を言うよう前々から任されていた。

 これはフレヤが孤児院出身であり、親身になれるだろうという思惑を込めた人事だった。

「旧伯爵による運営は『やや悪い』と言ったところでした。

 孤児院に与えられていた予算は最低限で、何とかやり繰りしていたようです」

 旧レビア王国の文化圏では『孤児院とは土地の支配者が運営するもの』というのがほぼ常識だった。

 これには犯罪抑制などの他、支配者層への忠誠心を育む目的も多分に含まれている。

 民草に対するセーフティネットの一環でもあるし、親を亡くした孤児たちを上手く育成すれば二心なき奉仕者を手に入れることもできるからだ。


「ふむ……旧伯爵家は裕福だったはずだが?」

 ホーテン卿が眉をしかめながら首を傾げる。

 ジズ公国のように比較的貧しい国であれば予算が少ないのも致し方ないが、ハイラス伯国は海運も水産、農産も盛んでそれなりに裕福な国である。

 当然、伯爵家だってかなりの財を蓄えていた。

 前述の目的から考えれば、潤沢な予算が割かれていても良いものを。

 と疑問含みの不満を現したと言える。


 ちなみにホーテン卿が孤児院の状況を気にするのは、何も彼が良い人だからという訳ではない。

 孤児院の男子は警士になることもよくあるので、良い人材の排出先として割と気にかけているのだ。

「まぁ、旧伯爵家はそうした目的意識が薄かったのでしょうね。

 人材育成などにはあまり熱心だったとは言えないようですし」

 エルシィが肩をすくめながらそう答える。

 孤児院の話だけでなく、そもそも支配層の手足となる官僚が不正し放題のていたらくであった。

 これはもう完全に「(まつりごと)に興味なかったのだろう」としか思えない。

 もっとも、その傾向がヴァイセルが舵取りするようになってからなのか、その父が病床に着く前からだったのかは定かではないが。


 ともかく、会議室の面々も眉を寄せるような話に、フレヤは鼻を膨らまし張りのある声で切り込んだ。

「ですが! ご安心ください!

 エルシィ様のご許可を得て見違えるほど活気ある孤児院に生まれ変わりました!」

 持ち上げてくれるのは嬉しいが、言うほどのことをしただろうか。

 と、エルシィはキョトンとした顔で報告者であるフレヤを見つめる。

 フレヤはこれをどう捉えたのか、ただ自信満々な顔で頷いた。

「えと……わたくしもあまり予算を増やせなかったと思いますけど」

 旧伯爵家の財産は裕福であったが、現伯爵となったエルシィはそれほど裕福ではない。

 なぜかと言えば、接収した旧伯爵家の財から少なくない金額を賠償金としてジズ公国へと移譲したからだ。

 他にもエルシィの家臣となった二〇〇余人に少ないながらもお給料を払っている。

 また、人材発掘や新しい政策の為に、伯爵家の財産からいくらか出していることもある。

 ゆえにエルシィが自由にできる財産は、ともすれば大店(おおだな)商人よりも少ないかもしれない程度だった。

 国家のトップとしては慎ましいことこの上ない。

 だがまぁ、貧しいジズ公国の首脳陣からすれば、これでも全然問題ない程に豊富な財産なのだが。


 余談はさておき、フレヤの弁は続く。

「お金など問題ではありません!」

 ええ、さっき旧伯爵家の出してた予算が少なかったって、不満げだったじゃないですか……。

 と、エルシィは声に出さず困惑顔を晒す。

 だがフレヤは気にせず先をつづけた。

「先にユスティーナが報告した『パン作戦』で先陣を切ったのは他でもない孤児院の子たちです。

 また()()シィ()()()()()によって貧民街で行っていたことを孤児院でも行いました。

 これで孤児院の運営はかなりらくになったのです」

貧民街(スラム)で行っていたことと言うと?」

 これには外遊に出ていて最近の事情に疎いカスペル殿下が疑問の声を上げる。

 すると恭しくお辞儀をした後にライネリオが答えた。

「エルシィ様に拾われる前に、私が行っていた『貧民街の立て直し』のことでありましょう」

 ライネリオは前伯爵であるヴァイセルの実弟であったが、ヴァイセルから疎まれて成功の目がないと思われた『貧民街の立て直し』を任された。

 いわゆる閑職送りである。

 だがライネリオはこれに応え、居を貧民街へと移し、いくつかの政策をもって貧民街の治安を改善したのである。

 こうした話を聞き、カスペル殿下はライネリオへの焼きもちから少しだけ憮然とした顔をして、話を聞く姿勢へと戻った。

「それで、孤児院では何を行ったんだい?」

 カスペル殿下の問いに、フレヤは鼻息荒く答える。

()()シィ()()が貧民街で再構築しました『斡旋所』の下請けです」

「まぁ『斡旋所』自体はライネリオがやっていたことですけど」

 苦笑いを浮かべながらエルシィが小さな声で補足する。

 エルシィの意思外のところで手柄を奪われるような感じになっているライネリオだが、これはちっとも気にした風ではなかった。


 さて『斡旋所』である。

 これは名前から想像できる通り、仕事を斡旋する機関である。

 貧民街に住む者がなぜ貧乏かと言えば、それは彼らが仕事にありつけないからだ。

 まぁ、教育や技能が低くて稼げる仕事が出来ないという理由もあるが、これは「お金がないために教育が受けられない』からの『仕事にありつけない』で抜け出せなくなる負のスパイラル構造であった。

 ここにライネリオが一石を投じた。

 まず簡単な仕事を市内で募り、最低限の現場教育を施したのちにその仕事へと貧民街の者を送り出す。

 こうした仕組みを実行するための『斡旋所』を開設したのだ。

 最低限の責任は『斡旋所』が請け負う形にした為、市民も安心して仕事を出せる。

 また、貧民街の者も初めは本当に簡単な仕事しかできなくても、それを積み重ねれば技能も身に着くし、信用も生まれる。

 こうした正のスパイラルを生み出したのだ。


 この仕組みを孤児院でも使わせてもらうことにした。

 孤児院は当然子供しかいないので、労働力としては半人前以下だ。

 だが、報酬を小遣い程度として、『斡旋所』から送り出す職方の助手としてつけたり、育ってしまった職方では物足りない、本当に簡単に出来る仕事を孤児数人で当たらせたのだ。


「おかげでエルシィ様から下賜された運営費と、自ら稼ぐ資金によって、孤児院の状況は飛躍的に改善されたと言えるでしょう」

 言い切り、フレヤはまた「むふー」と鼻息を吐いた。


「しかしそれではエルシィ様への忠誠心が薄れてしまうのではなですか?」

 この疑問を呈したのは画面越しリモート参加のスプレンド卿だった。

 先にも述べた通り、土地の支配者が孤児院を運営する理由の一つは、言葉はを選ばずいうなら「支配者の出資によって生かされている」という意識を植え付けて忠誠心を育むことにある。

 そこに自分たちの稼ぎを運営費に加えてしまうと、この意識は薄れてしまうのではないか。

 と、それがスプレンド卿の疑問であった。

 だが、それにもまたフレヤはとてもいい顔で応える。

「その点はご心配なく。

 コズールの様なアホが出ませんように、私が毎日、しっかり教育しておりますので」

 フレヤという人物をよく知る面々は、その言葉で色々と察して、「あー」と平坦な納得声を上げるのであった。

次回は来週の火曜日です


……あと2回くらいで報告会終われると良いなぁ

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