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じょじたん~商社マン、異世界で姫になる~  作者: K島あるふ
第二章 ハイラス鎮守府編
144/462

144報告会 その七 隣国の思惑 ※近隣白地図掲載

挿絵(By みてみん)

「ヴァイセルさんかセルテ侯国がバックにいるかも、ということは私掠船ですか?」

 やおらライネリオが言い出した「海賊の背後」を聞き、エルシィはどこか遠くを見るような目でそう呟いた。

 私掠船とは、国家のお墨付きにより海賊行為を行う艦艇集団のことだ。

 その目的は主に通商破壊などであり、敵国に所属する商船から人や物資を奪う、または沈める。

 我々の知る歴史では、イギリスの私掠船が有名である。

「それは『はい』であり『いいえ』でもあります」

 そんなエルシィの小声に答えてライネリオが曖昧なことを言う。

 一応それらの声は耳を傾けていた会議室の面々には聞こえていたので、多くは疑問符を掲げた。

 『多くは』ということは、少数は察した訳だが、それは旧来のハイラス伯国の軍事に従事していた者たちだ。

「ヴィーク男爵国ですよ」

 いまいちわかっていないエルシィたちを見かねて、クーネルがそっと助け船を出すと、ライネリオも「しかり」と小さく頷いた。

 だが、せっかくの助け舟もその名を知らなければ意味がない。

「ヴィーク男爵国……どっかで聞きましたね?」

 エルシィはその国名を反芻しながら、自分の記憶をほじくり返した。


 さて、思い出したのは地理のお時間だ。

 今、エルシィたちがいる旧ハイラス伯国は大陸の南西部に突き出た四角い半島であるという話はすでに述べた。

 その付け根部分、つまりハイラスより陸伝いに北東へ進むとセルテ侯国がある。

 このセルテ侯国から今度は北西へ向けてハイラス領より大きな細長い半島が伸び、この三つの土地によって巨大な湾を形成している。

 この湾外北側に、ジズ公国領の六割くらいの広さの島があった。

 確かそれが何それ男爵国という名だったはずだ。

 様な気がする。


 と思い出しながら、エルシィは家庭教師だったクレタ先生へと目を向ける。

 ちょうどクレタ先生も同じ地図を頭に思い浮かべていたようで、彼女もまたエルシィの思いを察して小さな眼鏡のズレを直しながら頷いた。

「ヴィーク男爵国と言うと、グリテン半島の北西ですね。

 その国と海賊が何か……まさか!?」

 言いかけ、クレタ先生は驚きの声と共に眉をしかめた。

「そのまさかです。

 ヴィーク男爵国は今や国家ぐるみで海賊行為を行う、いわば海賊国家と言っていいでしょう」

 ライネリオが肯定とばかりにそう頷いた。

「なぜそのようなことに……」

 クレタ先生を始めとしたジズ公国勢はこうした事情を知らなかったようで、皆、一様に驚いた顔をした。


 ちなみに、なぜ彼らは知らなかったかと言えば、ジズ公国の船は海賊とあまり縁がなかったのと、外の国の情報をあまり集めていなかったせいである。

 ではなぜそうなったか。

 それは、ひとえにジズ公国があまり豊かではなかったからだ。


 貧しかったゆえに、ジズ公国の船は海賊に狙われることもあまりなく、貧しかったゆえに他国における外交の優先順位が低かった。

 まったく情報が入ってこないわけではないが、上記の様な理由により、ジズ公国内において外の国々の情勢はさほど重要ではなかったのだ。

 そうなれば貧しいながらも、少しでも生活を向上させる方に尽力した方が有意義だったわけである。


「みんなびんぼーがわるいのですねぇ」

 エルシィのそんなつぶやきに、ジズ公国勢は揃って気まずそうに眼をそらした。


「ところで海賊と言うと、そのヴィーク海賊国さんのところしかいないのですか?」

「男爵国です……もちろん男爵国以外にもそれなりにいます。

 ただまぁ、もし近海に出て来る海賊が男爵国の者であると証明できるのなら、私の説を補強する証拠になるかと」

「そのヴィーク海賊国さんとセルテ侯国さんが手を組んだという?

 海賊国さんが直接ってことは考えられませんか?」

「ええ、彼らが手を下すなら、わざわざ南下するよりセルテ侯国やグリテン半島を相手にする方が捗るでしょう」

 なるほど、航海が長くなればそれだけ危険が多くなる。

 同じ()()()()であれば近い方が良いのは道理だ。

「セルテ侯国さんはなんでうちにちょっかい出すんでしょう?」

「セルテ侯国、もしくはヴァイセルにとって、エルシィ様率いるハイラス領は脅威に映るでしょう。

 なにせジズ公国からやって来て電撃的に旧伯爵勢力を駆逐してしまったのです。

 次は自分たちが、と思うのも仕方ないかと」

 これにはエルシィの他にホーテン卿も嫌な顔をした。

「おいおい、侵略して来たのはハイラス伯国の方だろう」

「そうですよ。それにわたくしはセルテ侯国を攻める気なんてさらさらないです。そんな余裕もないですし?」

「そうでしょうとも。わかっております」

 二人の抗議じみた言葉に、ライネリオは涼しい顔で頷いた。

 頷き、言葉を続ける。

「ですがそうしたエルシィ様の胸の内は、向こうには判りません。

 ゆえに本当に脅威となるのか。なるならどれほどの戦力があるのか。

 そうした試金石として男爵国をけしかけたのではないかというのが私の考えです」

「ふむー。

 ではなぜ、ヴァイセルさんや侯国さんは自分でやらなかったです?」

「バレたら藪蛇的に戦争になりかねないからです」

「なぜそんな危険な策に、海賊国さんは乗るです?」

「男爵国です……彼らが海賊になったのは作物が殆ど作れない貧しい土地だからからです。

 つまり、豊かなセルテ侯国から食料や金銭を提供されれば、多少の危険はやりかねないと思われます」

「なるほどー」

 エルシィはこうした一問一答を繰り返した末に大きく頷いた。

 確かに筋は通っているような気がする。


「あ、そういえば!

 ねぇお姫ちゃん、港に変な子供いたじゃない!」

 と、ここまでの話を黙って聞いていたバレッタが急に思いついたようにガバっと立ち上がった。

 おまえもこどもだがな!

 と、ちょっと可笑しくなりながらエルシィはそちらに顔もむけ、そしてバレッタの言葉を反芻する。

 港にいた、変な子供……。

「あ」

 そしてエルシィもそれを思い出した。

 確か、エルシィが休暇で港を見に行った時、ちょうど海賊が出たと騒ぎがあった。

 そこで警士さんを困らせていたのじゃロリ……じゃなかった。バレッタの言う変な子供がいた。

「男爵様じゃぞーって騒いでましたね?」

「あー」

 そんな彼女らの会話を聞き、訳知りであったクーネルやライネリオは飽きれたような声を上げた。

「それは……本当にヴィーク男爵陛下ご本人だったかもしれません。

 これはあまり知られておりませんが……伝え聞く話によれば男爵陛下は御年六歳の少女であられるとか」

 ひとまず、ライネリオの言説はこれをもって皆に受け入れられた。

次回更新は来週の火曜日です

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