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じょじたん~商社マン、異世界で姫になる~  作者: K島あるふ
第二章 ハイラス鎮守府編
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138報告会 その一 人手不足

 カスペル殿下の帰還から二日ほど間を開け、エルシィ子飼い、巷では「エル・クリーク」と呼ばれる幹部たちによる報告会が開かれた。

 その二日はカスペル殿下の休息日だけでなく、各幹部たちが担当部署にて報告会に出席するための時間調整で取られた時間である。


 という訳でハイラス領主城の一角にある会議室に、それぞれれが昼前から集まった。

「こほん。

 今日はお忙しいながら集まっていただきまして、誠にありがとうございます」

 皆が着席したことを見て、エルシィは開会の言葉とばかりにそう挨拶した。

 席に着いた者たちはそれぞれ恭しく頭を垂れてこの言葉を聞く。

 もっとも、例外もおり、それは侍女のキャリナやメイドのカエデ。また、近衛として警護しているフレヤ、アベルである。

 彼ら彼女らは主人の挨拶の時であろうと、下を向いていては仕事にならないのだ。

「わたくしたちがこの任に就いてから、もうひと月半以上が過ぎました。

 初夏だった季節もいよいよ真夏の季節が近づいてまいります。

 この時間はそれなりの期間ではありますが、わたくしたち為政者にとってはまだまだ短い期間だったと思います。

 ですが、まぁ、とりあえず、この辺りで進捗などを報告し合おう、などと思ってこの会を開いた次第であります」

 エルシィがそう述べてから言葉を切って各々方を見回す。

 開会のあいさつは以上ですよ、という暗黙の合図だ。

 それらを読み取った者はいち早く顔を挙げて小さく拍手をもって返答とし、察しの悪かった者もそれで気づいたように倣って手を叩いた。

 具体的に言えば如才ないクーネルが真っ先に顔を挙げた人物であり、最後まで気付かなかったのはバレッタだった。

 まぁ、バレッタは最後のくせに拍手の音だけはデカイ。

「ではまず端から行きましょうか。

 クレタ先生……さん、お願いします」

 場が静まることを待ってから、上座に座るエルシィが自分から見て右手に座っていた人物に振る。

 名を刺されたクレタはジズ公国においてエルシィの教育係を務めていた人物で、フワフワの白髪を後ろで束ねた穏やかそうなお婆ちゃんである。

「文司に出向しておりますクレタでございます」

 教育係に任命されるだけはあり、こうして人前で話すのも堂々としたものだ。

 ちなみに彼女は騎士府を取りまとめているホーテン卿の奥さんでもある。

 ひとまず人生経験も作法もそつがない彼女を最初に指名することで、ここから先の定型を作ってしまおうという魂胆だった。

 それほど難しい話ではないが、中にはこんな場に慣れていない者もいるだろうから、という配慮である。


 さて、短い挨拶を終えたクレタは早速、文司の現状を語り始める。

「文司の仕事は様々な記録の管理保管、そして訴訟などですが……酷いモノでした」

 初っ端からキビシー報告である。

 エルシィは目をバッテンにして「あちゃー」と小さく呻く。

 まぁ、判っていたことではある。

 だからこそ、信用できる者を送り込んだのだ。

 報告は続く。

「セルテ侯国にご退去された元伯爵ヴェイセル様の治世は、何と言いますか、いろいろ杜撰だったようで、記録の改ざん、紛失。賄賂や忖度による訴訟の不均衡。数え上げればきりがありませんでした。

 ですが、これは改善されつつあります」

「ほう、そう簡単にいくものかね?」

 と、感心しながらも合いの手を入れるように言葉を挟んだのは、夫でもあるホーテン卿だ。

 クレタは微笑みながら頷く。

「もちろん簡単なことではありませんよ。

 ですが、エルシィ様の赴任によってやましいことのある役人たちは逐電しました。

 残っているのはおおよそこれまでのことを苦々しく思っていた者たちなので、皆生き生きと、夜を徹する勢いで文書の修正や怪しい訴訟の再調査に励んでおります」

 文句を言い合いながらも楽しそう、と言うヤツである。

「ふむー、働き過ぎが心配ですが……残念ながら長期休暇を出すほどの余裕もないんですよね。

 働きに報いる為にもボーナス出すことを検討しなければなりません」

「恐縮に存じます。皆も喜ぶことでしょう」

 エルシィの言葉に、クレタは恭しく腰を折って礼とした。

 そこからより具体的な案件の話がしばし続くが、これはお話の流れにあまり関係がないので割愛させていただこう。

 そして「最後に」と断りを入れて、クレタは文司の新しい仕事について口にした。

「人手不足の解消につきまして、もうじき一定の成果が出せるかと存じます」

「ほう!」

 これには内容を知っているエルシィだけでなく、他の者たちからも期待に満ちた声が上がった。

 なにせ夜を徹する勢いなのは文司だけではない。

 軍政方面以外では、どこも猫の手も借りたいくらいなのである。

 ちなみに「猫の手も」という話と、メイドにねこ耳メイドを採用したのは何の因果関係もない。

「臨時に行いました司府合同採用試験でエルシィ様からご指示在りましたように、合格ラインを大幅に下げた補欠合格者を予備校にて急ぎ研修しておりました。

 これがそろそろ何とか形になりそうです」

「よくやってくれました!

 クレタ先生には特別ボーナスを上乗せします!」

 エルシィはぴょんこと席から飛びあがり、宙に大きく花丸を描きながらそう言った。

 クレタはこれまた微笑みを浮かべて、肩をすくめた。

「もう老人ですから、お金や財産はそれほどいりませんよ。

 出来れば……この仕事が終わりましたらのんびりさせていただきたいところです」

「それはダメです」

「あらあら」

 厳しいようだが、クレタの申し出は即答で断るしかなかった。

 正直言って、彼女の様な識者を遊ばせておくほどの余裕はないのだ。

「代わりに何か美味しいモノを御馳走します。

 期待しておいてくださいね」

「最近またエルシィ様が何かレシピを公表されたと聞いておりますので、楽しみにしておきますわ」

 こうしてクレタの報告は締められた。


 続いて、その隣にいた小さな吟遊詩人ユスティーナが立ち上がった。

 緊張でカチコチの彼女はどもりながら名乗る。

「ゆゆゆユスティーナです。

 えええエルシィ様から『パンとサーカス作戦』を任されています。

 経緯を知っている側仕え衆以外が、「?」という顔をして身を乗り出した。

ここまでの総括と語っていない細かい政策についてです

しばらく続きます


次回更新は金曜日です

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