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じょじたん~商社マン、異世界で姫になる~  作者: K島あるふ
第二章 ハイラス鎮守府編
135/462

135解任の後始末

 太守たちとの謁見からおおよそ六日が過ぎた。

 国境の両市府に赴いたスプレンド卿たちとは、毎日画面越しの通信をしているが、その日はとうとう一つの区切りとなる報告があった。

「結論を先に申し上げますと、アバルカは処断しました」

 ハイラス領主城の執務室。

 黒い丈夫そうな執務机の前に浮かんだ二つの虚空モニター。

 そのうちの一つに姿を映しているスプレンド卿が静かにそう言った。

 エルシィはその報を聞いて、これまた静かにため息を吐く。

「はぁ、やっぱりそうなっちゃいましたか。

 それで、どのような成り行きでしたか?」

「大方の予想通りですね。

 今朝がたお供を引き連れてナバラ市府に到着したアバルカは上町の門で揉めました。

 そこで門番の警士から説明を受けながらも従わず、それどころか太守館を急襲すべく手のモノに招集をかけたようです」

「なるほど。

 それで手のモノと戦闘になったと」

「いえいえまさか」

 スプレンド卿がエルシィの問いに肩をすくめておどけて見せる。

「そうなのですか?」

 エルシィは少々不思議そうに首をかしげる。

 ナバラ市府は国境が近い街だけあり、それなりの数の兵力が詰めているはずである。

 その命令権は、今や解任されたとはいえほんの数日前までアバルカが握っていたのだ。

 であれば、彼に従い兵を挙げる者もいそうだけど。

 と、言うのがエルシィの疑問だった。

 ところがスプレンドは首を振る。

「そもそもナバラ市府に詰めている兵力の九割以上は正式な警士か騎士ですから、エルシィ様の勅令に逆らう道理がありません。

 そうなるとアバルカの手下などわずかなもの。

 初日に斬ったあの騎士風の男を合わせて三日もあれば逮捕や処断が済みます」

「……そんなものですか」

「そんなものです」

 拍子抜けたようにエルシィが椅子にもたれかかると、スプレンドも肩の力をわざと抜いて見せたような笑顔を返した。

 続いてエルシィはもう一つの虚空モニターへ視線を向ける。

 こちらにはスプレンドと同じ任を負ってカタロナ市府へ向かった士官が映し出されている。

「カタロナ市府はどうでしたか?」

「はっ!

 こちらも片が付きました。

 ですがギフルはアバルカとは違い、特に抵抗らしい抵抗は見せませんでした」

 これもまたちょっと意外だったので、エルシィはクリンと首を傾げつつスプレンドに解説をを求める視線を向ける。

 だがスプレンドは小さく首を振って、士官の報告の続きを聞くようにと、身振りだけで促した。

 エルシィの視線が戻ったことを受けて、若い士官が報告を続ける。

「ギフルはある程度のことを予感していたようで、警士から説明を受けると大人しく捕まったそうです。

 そのあと面談しましたが、もう逆らう気は無い、と恭順の意を示しました」

「そうですか。

 それは僥倖と言っていいでしょう。

 ではギフルさんは早々に領都へ送り返してください」

「どうなさるんです?」

 スプレンド卿が少し面白そうに訊ねる。

 エルシィはちょっと難しい顔をしながらこめかみを指でぐりぐりする。

「うーん、できればしばらくは拘留したいところなんですけどね。

 悲しいかな、こちらにはそんな余裕はありませんので、存分に働いていただこうかと思っています」

「処断してしまった方が良いのでは?」

 そうスプレンド卿が言葉を挟む。

 だがエルシィもまた即座に首を重そうに振った。

 いろいろ策を講じて人員の拡充は図っているが、それでも行政に携わる人員の人手不足はまだまだ予断を許さない状況だ。

 そろそろ過労から倒れる官僚も出始めていると聞く。

 ならば多少の玉傷には目を瞑って働かせた方が良いだろう。

 教育制度などというモノがないこの世界において、読み書き計算ができる貴重な知識層なのだ。

 あと、先日ちょこっと会っただけだけど、アバルカとは違って「長いモノには巻かれるタイプ」のようだし、こちらが隙を見せなければ大丈夫だろう。

 とも考えていた。

「委細承知いたしました。

 ギフルはすぐに移送します。

 それから……その、よろしいですか?」

 丁寧に敬礼を合わせて命令受領を宣すると、若士官はおずおずと発言を求める。

「なんですか? 何かあるなら遠慮なくどうぞ」

「は、はぁ。

 その……ひとまず掌握は済みましたが、できれば新たな太守を早々に送って欲しいと希望します。

 小官ではさすがに太守代行は荷が重すぎます」

「ああ……」

 エルシィはこの要請を受けて頭を抱えた。

 まぁ、それはそうだろう。

 この若士官、スプレンド卿の推挙で今回の任に登用したが、そもそも身分的には警士の小隊長程度である。

 基本的にスプレンド卿の指示で動いているので、ここまでの任は問題なく遂行できた。

 が、確かに()()士官に太守の代わりをしばらくやっとけ、と言うのは無理があるだろう。

 とは言え、いないのだ。

 さっきも述べた通り、この領都においてですら行政官は人手不足なのである。

 すぐに代わりを出せと言われて出せるほど余裕があるわけがない。

 なら無理に太守を罷免しなければよかった、と言われるかもしれないが、領内の掌握の為には早々にやっておかねばならないことだったのも事実。

 特に国境近い街においては、遅くなれば致命傷になりかねないのだ。

「……スプレンド卿は、大丈夫ですよね?」

 エルシィは頭を抱えてふるふるしながら、救いを求めるようにもう一つのモニターへ視線を移す。

 だが、そちらに映っているスプレンド卿は無慈悲に首を振った。

「買いかぶられては困ります。

 そりゃ、私は多くを率いる将軍職にはありましたが、あくまで軍人ですからね。

 兵を率いるのはともかく、民を治めるなど全くの門外漢ですよ」

「ですよねー」

 そりゃそうだ。

 とエルシィは天井を仰いだ。

 武力がなければ治められないのは確かだが、強いことと行政能力は別である。

 両方あるならそれに越したことはないが、多くは片方の才を持っていだけでも御の字なのである。

 困った。

 国境を任せられる信用があり、それでいて有能と言わずとも無難に治められる人材が二人も必要。

 執務机の上でペンを転がして遊ぶイナバ翁を眺めつつ、積み重なる悩みに盛大なため息をつくエルシィだった。

次回更新は火曜日です

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― 新着の感想 ―
[一言] 相変わらず元帥杖がチート過ぎる…しかし流石に人員不足はどうにもなりませんね
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