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じょじたん~商社マン、異世界で姫になる~  作者: K島あるふ
第二章 ハイラス鎮守府編

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134謁見終了

 スプレンド卿と時を同じくしてカタロナ市府へ送られた士官の方でも、似たような流れはあった。

 が、こちらはさすが人の顔色を窺うに敏なギフルの配下とでも言おうか、ナバラ市府ほどの荒事は起こらなかった。

「はぁ、何とか収まりましたか。

 ……痛ましいことです」

「まったくですね。

 エルシィ様の命に従わぬなど、嘆かわしいことです」

 エルシィが眉を寄せて目を伏せると、それに同調したようにフレヤが首を振る。

「いえ、そういうことではあるのですけど、そうじゃないです」

 エルシィは別に「さからうんじゃねーよおら」とか思っていた訳ではないので、やんわりと否定しつつフレヤを振り返ってみた。

 が、当のフレヤはとてもいい顔で「?」と見つめ返してくるので何か言いうのをやめた。

 いや諦めた。

 エルシィもジズ公国の戦闘にて人の生き死にを目の当たりにしている。

 あの戦争での犠牲者は規模に対してとても少なかったが、それでも双方に帰らぬ者たちがいた。

 その泉下へ逝く様も、エルシィは元帥杖が映し出す画面越しに見ているし、上島丈二時代にも海外で銃撃戦に巻き込まれた経験がある。

 ゆえにある程度は慣れていると言えるが、それでも人が死ぬのを見れば気分が沈むのは避けられない。

 また、この人手不足の折、隊を任される程度であっても知識層は引く手あまたなのである。

 読み書きができるだけでも仕事はいくらでもあるのだ。

 そう考えれば痛ましさ倍増でエルシィの眉根のしわは増えていく一方だった。


 とは言え、君主たるものいつまでも落ち込んでいるわけにはいかない。

 エルシィは気を取り直して顔を上げた。

「カタロナ市府、ナバロ市府の問題はひとまず解決でいいでしょう。

 という訳でお待たせしました、他の太守さんがた」

「はっ」

 呆然と虚空の画面に見入っていた三人の太守は呼びかけられて身を固くする。

 あれを見れば、さすがに緊張もする。

 だが、エルシィは少し肩の力が抜けたような顔で三人を眺めた。

「少し調べさせていただきましたが、皆さんの方は現状でほとんどの問題が見当たりませんでした。

 後日、会計監査の人などを送りますけど、基本的にはそのまま職務を遂行してください」

 そんな主君の言葉に、三人は背中の嫌な汗が止まった気がしてほーっと息を吐きながらも深く平伏するのだった。



 その後は各々にエルシィの署名が入った新たな太守任命書を手渡し解散である。

 謁見の広間から場外へ出るまで、三人は重い足取りで進む。

「いやはや、お若いながらに恐ろしいお方のようですね」

 いつもすました顔のビブル市太守セドニンが、この時ばかりはひきつった表情でつぶやく。

 ザクロフ市太守イブンはそんな言葉を聞いてビクッと肩をはね上げた。

「セドニン殿! そんなこと! 聞かれでもしたら!」

「さすがに大丈夫でしょう。あの脇侍の近衛さんはどうか判りませんけど」

 フレヤのことだ。

 言われてイブンはアバルカたちを睨んでいたフレヤの冷たい怒りの視線を思い出し、ゾッと寒気を覚えた。

「君主としてはヴァイセル様とは違って頼もしかろう。

 こちらとしても真面目に職務をこなしているうちは何を言ってくることもあるまい」

 と、これは初老のバニシア市府太守フンカルだ。

「し、しかし……ええと総督閣下でいいんですかね? 彼女がその気になったら、我々の街にも瞬く間に兵がやって来るっていうことでしょう?

 もう、怖くて夜も眠れないんじゃないかと……」

 イブンの言葉にフンカルは飽きれてため息を吐く。

「イブン殿、その方は何か後ろ暗いことがあるのか?」

 彼の治めるザクロフ市は各市府をつなぐ街道か交わる交通の要衝である。

 その気になれば私腹など肥やし放題だろう。

 だが、イブンは首がちぎれんばかりに振った。

「めめめ滅相もない!

 冗談でもそんなこと言わんでくだされよ。

 総督閣下かその配下の方に聞かれでもしたら……」

 フンカルとセドニンは互いに肩をすくめて顔を見合わせた。

 このような小心者だからこそ、ザクロフ市のような場所は無難に治まっているのかもしれない。

 そうも思ったので、二人はそれ以上何も言わなかった。

 ともかく、この先は今まで以上に気を引き締めてお仕えしなければならないだろう。



「ふいー、憂鬱なお仕事、ひとつ終わりましたぁ」

 エルシィが全身の力を抜いて玉座にもたれかかった。

 太守たちが謁見の間より出て行ってからもキリっとしていたエルシィだったが、さすがにそれも数分間までだった。

「エルシィ様、せめて謁見の間を退出するまではピシッとしてください」

「むーりぃ」

 キャリナの苦言も効かぬほどとは、と、フレヤは痛ましそうに主を見る。

 この謁見の前に三日の休みを取ったエルシィだったが、その三日とも観光という名の視察で動き回っていたので休息にはなっていないだろう。

 まぁ視察と言っても半分趣味みたいなものであったが、身体が休まっていないのは事実である。

 キャリナも流石にそこは汲んだようで、それ以上は何も言わなかった。

「お姫さん、どうせ休むなら部屋の方が良い」

 そんな様子にアベルはちょっと呆れたように苦言を呈する。

 しかしエルシィにはそれに従って移動するだけの体力的余裕はないらしく、玉座でてろーんとしたまま顔だけをだらんとアベルへと向けた。

「んー、じゃぁだっこー」

「ば、ばかっ! そんなの出来るわけないだろ。自分で歩け!」

 途端に顔を真っ赤にするアベルだった。

「では私が……」

 謁見の間にいる側仕えや側近、申し次の小者たちがニヨニヨする中、フレヤがずいと名乗り出るが、これはキャリナに止められた。

「どっちにしろ近衛の手がふさがるのは良くありません。

 仕方ないので誰か呼びましょう」

 そこへこれまで一歩離れたところで見守っていたライネリオが進み出る。

「それには及びません。

 (わたくし)、腕力にはあまり自信がありませんが、エルシィ様くらいでしたら運べますよ」

 ライネリオはエルシィがスカウトしてきたとはいえ、まだキャリナからすれば信用できるかわからない人物だ。

 ライネリオはこの土地から逃げた旧伯爵ヴァイセルの弟である。

 なので少しばかり躊躇した。

 本当にエルシィを委ねて大丈夫なのか、と。

「そう……ですね。ではお願いします」

 だが結局はエルシィが「ん!」と手を差し出してしまったので任せることにした。

 そしてエルシィはライネリオに抱きかかえられ、一行は謁見の広間を退出する。

 アベルが何やら不満そうだったが、彼は最後尾の警戒を任されたのでその様子に誰も気が付かなかった。

次回は金曜更新です

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