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じょじたん~商社マン、異世界で姫になる~  作者: K島あるふ
第二章 ハイラス鎮守府編
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128コメ料理の夜明けと不穏な人たち

 鍋いっぱいの黄色いコメ料理。エルシィはうきうきしながら木ヘラを突き立てた。

 すると眉を寄せながらキャリナが苦言を呈する。

「配膳など私かカエデがやります」

 元々、伯爵館などでの食事の時も、配膳は侍女や侍従の仕事である。

 というのに、真っ先に鍋の蓋を開けたのがエルシィだったゆえの言葉だった。

 だがしかし、エルシィはニヤリと笑いながら振り返る。

「ふっふっふ、この料理を提案したのはわたくしです。

 なので一番いい位置でこのかぐわしい香りを味わう権利があるのです」

「なるほど、さすがエルシィ様です」

 あまりのしたり顔にキャリナは呆れ、フレヤは小さく手を叩きながら褒め称えた。

 キャリナが言葉を失っているうちに、とエルシィは小鉢にパエリアを分ける作業に入る。

 入り、その初っ端でピタッと動きを止めた。

「どどど、どうしましたエルシィ様。

 なにか料理に不手際がございましたか!」

 その様子に顔を蒼くするのは、エルシィの指示で調理の実作業を受け持った伯爵館の料理長である。

 エルシィは見た目も人柄も親しみやすい君主ではあるが、それでもコックさんからすれば雲の上の存在だ。

 彼女の鶴の一声があれば最悪首をはねられることだってある。

 だが、その不安の声が聞こえてはいたが、エルシィは何やら考える様子のまま、しばし鍋をホジホジした。

 その後、おもむろに木ヘラで炊きあがった黄色いコメを掬い上げて小皿に盛る。

 そしてその皿をそっとコックさんに手渡した。

 コックさんの顔がさらに蒼くなる。

 盛られたご飯は、ターメリックで着色された黄色を通り越し、固そうな茶色になっていたからだ。

 おそらく鍋底の辺りにあった部分だろう。

 焦がした! やってしまった!

 コックさんは固く目を瞑って空を仰ぐ。

 すまん妻子よ。父ちゃんの命運はここまでだ。

 君主様の言うとおりに調理したとはいえ、失敗したならその責はすべて作業者。

 それが貴族と平民の関りにおける暗黙のルールなのである。

 だが、瞑目したまま覚悟を決めて沙汰を待つコックさんには、いつまでもエルシィからの叱責は届かなかった。

「よくやってくれました!

 これはコックさんへのご褒美です!」

 というか、叱咤どころかお褒めの言葉が飛び出した。

 固唾を飲んで見守っていた一同、疑問符を頭上に浮かべる。

 誰もが大なり小なり、料理を焦がした責を問われると思っていたからだ。

 というか焦げた料理がご褒美ってなんだろう。

 やっぱり責めるつもりで嫌味言ってるのかな?

 などとも思った。

 この空気をエルシィも感じ取ったので慌てて首をブルブル振った。

「違いますよ!?

 本当にご褒美なんです。

 パエリアの様な炊き込みご飯はおこげの部分が一番おいしいのです!

 なので、ご褒美!」

「そ、そうだったのですね!

 よかったぁ」

 この言葉を聞いてコックさんは安心からほーっと長い息を吐いた。

「ささ、さめないうちにいただきましょう!」

 それからエルシィが手早く配膳し、それから各々の実食タイムが始まった。


「なんとまぁ、亜麦にこんな食べ方があるとはなぁ」

「小麦と混ぜるため粉にするより、この方が高く売れるのでは?」

 農村メンバーはいち早くその価値に気付いたようで、食べながらも額を寄せ合って今後の栽培と卸しに関する相談をし始める。

「何でしたら税の分は製粉しないで納めていただいてもよろしいですよ」

 そこへエルシィがこう口を挟んだので、より深刻な会議になりつつあった。

 製粉の手間だけでも省けるのは助かるのだろう。

「へぇ、確かに焦げた部分が美味しいんだな。

 味が、固まっている感じ?」

「こういうのは『ぎょうしゅく』って言うのよ……うん、確かに美味しいわ。

 はっ! だったら全部焦がしてしまえばいいじゃない?」

「……上手く、満遍なく焦がせるでしょうか?」

「無理にゃ。

 そんなことしなくても、焦げてないところも美味しいにゃ。

 むしろ私はこっちの方がいいにゃ」

「エルシィ様……さすがです。もはや神では?」

 以上、各々の感想をダイジェストでお送りした。

 エルシィとしては色々材料が足りなかった分まだいまいちであったが、みんなの反応はおおむね好評のようだ。

 今後、足りない部分を補って完成させたいところではあるが、あとは料理人たちの仕事だろうとも思う。

 お米を粉とせず使うという概念がここで知らされたのだから、おそらくコックさんは味付けや炊き方などを研究することだろう。

 実際、今そこでおコゲを美味しそうに食べている料理長も、その笑顔が新たなレシピに思いを馳せる獰猛なモノに代わりつつあるのだ。

「ふむ、この料理なら我々でも作れそうだな」

「いや村長、あの煮込む時に入れたスープが判りませんよ」

「エルシィ様! あのスープのレシピ公開してもらえませんか?」

 農村側メンバーも研究意欲が旺盛にありそうだ。

 はてさて、今後が楽しみだなぁ。

 と、エルシィはニシシとほくそ笑んだ。


 こうして、三日間のお休みは終了したのだった。



 ところ変わって城下街のとある高級宿。

 そこに五人の男が一室に集い、己らの行く末について話し合っていた。

「ふん。ワシの忠誠はお亡くなりになったヴィダル伯陛下のものだ。

 ヴァイセル様ならともかく、新たにやって来た小娘などに従えるか」

「そうだ。聞けば小娘どころかまだ十にも満たぬ歳だというではないか。

 馬鹿らしいにもほどがある」

「とはいえ、正式に伯爵位に就任された方ですよ。

 そのような……従わぬなどということが許されるのですか?」

「そうですぞ。

 まだ幼いとはいえ市井の評判はとても良いと聞く。

 しばらく様子を見てはどうでしょう?」

「いやいや、我らが連合を組めばいかな伯爵陛下とて無視はできんだろう」

「臣なる身で反乱を起こそうというのか。

 なんとまぁ……。

 ここは我らが支えるつもりでお仕えすべきなのでは?」

「そのためにも一つ、ガツンとだな……」

 彼らはハイラス伯国の領都以外にある五つの主要都市を、それぞれ任された太守たちであった。

 この度、エルシィが新たなる支配者となったので、改めて任命手続きをとるため召喚されたのだ。

 彼らがエルシィに謁見するのは、明日である。

次回更新は金曜を予定しています

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