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じょじたん~商社マン、異世界で姫になる~  作者: K島あるふ
第二章 ハイラス鎮守府編

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125黄色い粉の

 取り急ぎ街へ戻って市場へ駆け込んだエルシィが入ったのは、亜麦の話を最初に聞いた塩屋の天幕だった。

「塩屋のおじさん、香辛料いろいろ扱ってるお店知りませんか!」

「ですから主人が先頭切ってはいけませんと何度も」

「あーれー」

 唐突に小さな子供が飛び込んできたと思ったら、その後ろからやってきたお付きの侍女に叱られつつ、護衛らしい少女にずるずる引きづられて後退する。

 これを見た塩屋の店主はずり落ちた眼鏡越しにその光景を見て呟いた。

「……なんじゃこれ?」

「こほん、失礼いたしました、店主さん。

 我が主人が香辛料を探しておいでのようで」

 フレヤに抱きかかえられたエルシィをよそに、取り繕ったキャリナが言う。

 すると見覚えのある面々だと気づいた店主が「ああ」と手を打って頷いた。

「昨日来たお嬢さん方でしたか。

 それで、何をお探しで?」

「お嬢さん以外もいるけどな」

 不満げなアベルのつぶやきは黙殺されつつ、会話は進む。

「サフランです。サフランはありますか?」

 フレヤの腕の中でジタバタしながらエルシィが求めたのはサフランだった。

 ぶっちゃけてしまえば、エルシィが選択した料理はパエリアである。

 食材を扱う商社マンとしてジャバニカ米を美味しく食べる、かつ、今作りやすい料理と考えた時に導き出されたのがそれであった。

 そしてパエリアと言えば炊きあがりの鮮やかな黄色。

 この黄色こそ、サフランと呼ばれる香辛料が出す色なのだ。

 ところが、だ。

「サフラン……はて?」

 塩屋の店主はメガネをくいくい上げながら視線を宙に向ける。

 記憶のどこかから答えを探す時の仕草だ。

「やっぱりありませんか……」

 この様子からエルシィは香辛料としてのサフランが存在していない可能性に落胆してだらんと手足をぶら下げた。

 フレヤは主人の様子から「もう暴れないだろう」とそっと地面におろしつつ、顔を覗き込む。

 何か落ち込んでいるかと思いきや、エルシィの顔はもう次のことに思案を巡らせている表情だ。

「サフランって、あの紫色の花にゃ?」

 もしかして……、という顔で口を開いたのはねこ耳メイドのカエデだった。

「そう! そうです!

 紫のお花に黄色い雌しべの!

 正解者のカエデさんにははなまるを差し上げます」

 誰も知らなさそうな中、唯一の求めていた回答だったのでエルシィは大きく手を回して宙に丸を描いた。

「ほぉ、見たことはあるが……確かずっと東の方の花だったかの。

 ……香辛料になるのかい?」

「ええ、まぁ」

 塩屋の主人がキラリと目を輝かせた。

 長く商売している自分が聞いたことのない話だったので、久々に商魂が燃え上がったようだ。

 だがエルシィは曖昧に答えただけでそれ以上を語らなかった。

 なぜなら、無いならないで他を当たらなければならないからだ。

 その雰囲気を察知した塩屋の店主は、そのよぼよぼの老体とは似つかぬ素早さを発揮して折り畳みの椅子をいくつか広げる。

「まぁまぁ、少しゆっくりしていきなされ。

 今、お茶を淹れますからな」

「……ではまぁ、頂いていきましょうか」

 エルシィは呆気にとられつつも、店主に従って少し話すことにした。

 今すぐ手に入らないにしても、今後のことを考えれば誰かが商売の俎上にあげてくれるのは大歓迎なのである。

 それに、この後探したいモノも、この界隈に詳しそうな商人に訊けば手っ取り早そうだ、と思ったのもある。

 ともかく、エルシィは知っていることを茶のみ話の一興として話した。


 さて、エルシィがサフランを求めてここにやって来た時、「やっぱりありませんか」と言った訳だが、それはエルシィはダメ元のつもりで訊ねていたからである。

 なぜか。

 それは香辛料としてのサフランがとても貴重なものだからである。

 先にも述べた通りサフランとは紫色の花弁を持つ花なのだが、香辛料としての黄色いサフランは、この花の雌しべだけを摘み取って加工したものだ。

 一グラムの香辛料サフランを取るのに、サフランの花一七〇個が必要と言うのだからその貴重さが分かるだろうか。


 エルシィがこのあたりの話を塩屋の主人にすると、さすがに彼も難しい顔をした。

 これを本気で生産しようとしたら末端価格が大変なことになりそうだからだ。

 そうまでして新しい香辛料を手に入れたとして、果たして価格に見合う需要があるかという問題もある。

 手を出すなら、すでに少量でも生産をしている地方を探す程度にした方が良さそうだ。

 と結論付けた。

 はたしてこの国でサフランが使われる時代が来るかどうか。


 そうしてしばし茶飲み話に花を咲かせたところで、エルシィは話題を変える。

 サフランが手に入らないなら代用品を探すのだ。

「塩屋さん、わたくしターメリックが欲しいのですけど、扱っているところを知りませんか?」

 ターメリックはカレーの色付けなどにも使われる黄色いスパイスである。

 サフランが高価なので代用品として使われることも多い。

 この問いを聞いて少し怪訝な表情をした塩屋の店主は、首を傾げながらも答える。

「ターメリックのう。

 それなら市場ではなく薬屋に行けば良かろうて。

 しかしお嬢さんに必要ですかな?」

 おおよそ就学児童以下にしか見えないエルシィの求めではあるが、という態である。

 エルシィは苦笑いしながら小さく頷いた。

 ターメリックは別名でウコンと言い、二日酔い抑制に効く薬として流通しているのだ。

 一行の中でこのやり取りにピンと来たのは、やはりカエデだけだった。

 彼女、実はこうした生薬などに詳しいのだが、いらぬ疑いを掛けられても困るので、黙っているのだった。

※サフランも沈痛、鎮静効果のある生薬として扱われることがあります


次回更新は来週の火曜です

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