124お米の国の人だもの
お米。
押しも押されぬ日本の主食である。
主食と言えば他にもパンや麺など、糖質を含み身体を動かすエネルギーとなる食べ物を指す言葉だ。
が、主に食べるモノ、と定義するならお国柄が出る。
日本ではお米の消費量が年々減っており、記録的な冷夏で「平成米騒動」と呼ばれたあの年の生産量とたいして変わらないか、下回っているのが現状である。
それで足りてしまうのだから、いかに日本人がお米を食べなくなったか、という証左ではないだろうか。
とはいえ、それでも日本で主に食されるのはお米と言えるだろう。
さて、このお米。
種類を上げれば一〇万を超えるというが、大きく分けると三種に絞られる。
一つはジャポニカ米。
日本のお米である。
小粒でモチモチした食感が特徴だ。
一つはインディカ米。
我々の世界で最も多く生産されている、粘り気の少ない長細いお米。
日本では「タイ米」と呼ぶ方が解りみ深い方もいるだろう。
そしてもう一つが今、エルシィの手にあった。
「これ、ジャバニカ米ですね」
注意、誤字ではない。
ジャポニカ米と同じ短粒種ではあるが、粒が幾らか大きく粘りもジャポニカ米より低い。
我らの世界では生産量が少なく比較的珍しいお米である。
なんとなくではあるが、エルシィはここで手に入るお米をジャポニカ米の一種だと思い思っていた。
これは完全に思い込みであったが、実際彼女が食べた米粉交じりのパンの味からインディカ米ではないだろう、予測していた部分もある。
「よもやよもや、ですねぇ」
かくして、エルシィの想定は崩れた。
ジャポニカ米を想定していたので、食べる時のおかずも和食に近いモノを考えていたのだ。
もちろん和食と言っても味噌や醤油があるわけではない。
しかしここは漁村も近い海沿いの街であるから、手に入る鮮魚も多いのだ。
市場で見かけたタラの干物なんかも、和食っぽく食べられるだろうと思っていた。
「ふむー」
ということで、エルシィは頭の中で献立を組み替える。
食品を扱う商社にいた人間として、ジャバニカ米を知らないわけではない。
だが、扱ったことがあるかと言われると微妙なのだ。
ジャバニカ米の生産地はジャワ島や南米、熱帯アジアであり、売れるのはヨーロッパの一部など。
つまり中央アジアを担当していた丈二はには、あまり馴染みのない食材と言えるだろう。
むりやりジャポニカ米と同じように炊いてもいいだろうが、やはりそれに合った食べ方が最もおいしいのには違いない。
先にも述べた平成米騒動で日本はインディカ米を輸入したが、日本人の多くはジャポニカ米と同じ扱いをした為に「不味い」という印象を持ってしまった。
あの悲劇を繰り返してはならない。
今、エルシィの心に、そう言った妙な使命感の炎がジンワリと灯った。
「エルシィ様?」
お米を眺めたまま微動だにしなくなったエルシィを不審に思い、キャリナが覗き込みながら声をかける。
「決めました!」
その途端、下がっていたエルシィの頭が跳ねあがり、近づいていたキャリナの頭とゴインとぶつかった。
実にいい音だったというのが、側仕え衆たちによる後の述懐である。
「何をするのです!」
「それはこっちのセリフです……」
エルシィの主観からすればキャリナに頭突きされたような印象だったが、客観的に見ればしたのはエルシィの方だ。
二人はしばしにらみ合った。
が、エルシィはハッとして視線を外す。
「農家のお兄さん、明日またここに来ます。
このお米の本当の食べ方をお教えしましょう!」
「は、はぁ……」
農家のお兄さんもキャリナたちも呆気に取られて口をポカンと開けた。
この世界……いや、少なくとも旧レビア王国の文化圏において、お米と言えば製粉して小麦に混ぜるのが常識であった。
亜麦という呼び方がそれを物語っているだろう。
ちなみにエルシィは勢いで「お米の本当の食べ方」などと言ったが、なんか漫画の言い回しをもじっただけで、米粉が悪いなどとは粉微塵も思っていない。
しかし元はお米の国の人だもの。
米粉の料理も美味しいが、それでだけでは悲しいではないか。
という訳で、なぜか農家のお兄さんも巻き込むことにしたのだった。
「は、こうしちゃいられません。
街に戻って市場に行きましょう!」
という訳で、お米を手に入れた一行は、一路、城下町へと馬車を走らせた。
「さてさて、問題はアレですね。
手に入るかどうか……」
エルシィは市場へ向う馬車に揺られながら、頭の中で揃えるべき食材を算段するのだった。
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