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じょじたん~商社マン、異世界で姫になる~  作者: K島あるふ
第二章 ハイラス鎮守府編
123/462

123お米ゲット、だけど?

 農村の備蓄蔵を開けるには村長の許可がいる。

 村社会という共同体で生きている以上、これは当たり前のことである。

 村民が勝手に蔵を開けて中のモノを持ち出せるなら、そもそも備蓄なんて成り立たないだろう。

 という訳でエルシィ一行は農家のお兄さんに連れられて村長の元へ行き、ハイラス領主であることをひけらかして蔵の鍵を借りた。

 普段は権力を振りかざすことを躊躇しがちなエルシィだったが、この時ばかりは容赦しなかった。

 もっとも、ちゃんと代替用の麦を提供すると話しているので、村としての返答も否応ないのだ。


「おーコメおー! コメコメおー!」

 浮かれ振りを農村に晒しながら、手足を高く挙げながらエルシィは進む。

 こうなってくるとバレッタも意味が分からずとも参加する。

 まぁ、どちらも子供なので傍から見ればただただ微笑ましい。

 同様に子供であるアベルは、恥ずかしそうに目をそらしながらも、何とか周囲の警戒にあたるのだった。

「ところでエルシィ様?

 なんとなく予想はつきますけど、コメと言うのは……」

「はい、わたくしの(くに)では亜麦のことをお米と呼ぶのです」

 ふと、キャリナが訊ね、エルシィが何の気なしに答える。

 エルシィが異世界から呼ばれた救世主であるという共通認識を持つ者にはなんてことない会話であったが、知らない人からすると意味が分からないだろう。

 なにせエルシィもキャリナも同じ()の人なのだから。

 だが、農家のお兄さんを始め、不自然に思った面々は「貴顕の奇行だろう」くらいに思ってスルーした。

 貴族相手では何が藪蛇になるかわからないので、それくらいのスルーが出来ないようでは、民衆は生きていけないのだ。


 という訳で、一行は少々迂遠な道のりを経て備蓄蔵までやって来た。

「おー、なかなかご立派ですね」

 ここはそれほどの規模の村ではない。

 とは言え、村人が半年は食べられる分を備蓄する蔵なのでそれなりに大きいのだ。

 エルシィは感心して立ち止まって、しばし蔵を見上げた。

「いくばくかのおコメを頂戴いたします」

 そして、なぜか「なむなむ」と拝むのだった。

 それから村長から借りた鍵で大きな南京錠を解除し、中へ入る。

 当然、暗く、ひんやりとした空気が流れ出て来た。

 バレッタが声を上げながらいち早く中へと滑り込む。

 あけ放たれた扉から差し込む光で見る蔵の中には、麦や亜麦が入っていると思われる袋がうずたかく積まれていた。

「この中、涼しいわ! 不思議ね?」

 バレッタはそれらをキョロキョロと見まわしながら、蔵の中の涼しさに感心して声を上げた。

 外はすでに初夏の気温で、歩いているだけですぐ汗がにじんでくるような暑さだ。

 比べて、バレッタの言う通り、蔵の中は涼しかった。

「ホントだ、涼しい……。魔法か何かか?」

「これが……魔法」

 エルシィと並んで入蔵したアベルやフレヤも不思議そうに中を見回す。

 だが案内してきた農家のお兄さんは慌てて首を振った。

「とんでもねぇ! これは土蔵です。

 壁が厚い土壁だで、夏は涼しく冬は暖かいのですわ」

「なるほど……」

 二人は理屈が解らなかったので上の空で返事をして頷くにとどめた。

「キャリナ、魔法とかあるのですか?」

 土蔵に関しては、日本でもまだ稀に見かけるので知識にはある。

 ゆえに今の会話でエルシィが気になったのはそこだった。

 キャリナは肩をすくめながらこれに答えた。

「ある……と、聞いたことはありますね。

 私は見たことないので半信半疑というところですけど」

 ちょっと目を輝かせたワクワク状態だったが、キャリナの回答が残念だったので途端にしょんぼりするエルシィだった。

「それで領主様、亜麦はどれくらい入用で?」

「おっとそうでしたそうでした。

 んー、とりあえず一袋あればいいですかね。

 足りなければ秋に新米を購入しますので」

「そしたら、このまま馬車まで運びますわ」

 エルシィの返事を聞いて、お兄さんは積まれた袋から一つを取ってひょいと担ぐ。

 そこそこ大きな袋なので、おそらく一袋で三〇キロくらいはあるだろう。

 だが特に重そうなそぶりをしないあたり、さすが肉体労働者である。

「おー、力持ち!」

 エルシィが賞賛してパチパチと手を叩くと、農家のお兄さんはちょっとテレテレと頭をかいた。

 今のエルシィでは当然押しつぶされるだろうが、もしここに丈二の身体があったとしても三〇キロのモノを軽々と担ぐのは無理だっただろう。

 同僚のラガーマン風の筋肉男ならたぶん問題なかっただろうが。

 などと、ちょっと職場の風景を回想してふふふと小さく笑うエルシィだった。


 さて、馬車に載せる前に、まずは農家の軒先で袋を開ける。

 別にエルシィが待ちきれなかった訳ではない。

 興味津々で皆が袋を覗き込めば、そこには市場で見たのと同じ籾状態の亜麦がぎっしり入っていた。

「籾摺りしてもらった方が良いにゃ?」

「そうですね。お願いできますか?」

「任せてください」

 カエデの指摘は当然エルシィも判っていたので、お兄さんに幾ばくかの硬貨を握らせてお願いする。

 お兄さんはニンマリと顔を緩めで頷くと、すぐ家の裏手に引かれている水路へと移動した。

 籾摺りとは籾殻を外して玄米の状態にする作業だ。

 裏手の水路にはその作業をする為に装置が備え付けられていた。

 装置、と言うと大げさだが、水路に据え付けられた水車、水車に連動する杵、そして米を受ける石臼というものである。

「精米は出来ますか?」

「……精米?」

「……ですよねー」

 ふと、エルシィは訊ねたが、お兄さんの不思議そうな顔を見て察した。

 ここでは亜麦として籾摺りした後はそのまますりつぶして製粉して使うのだ。

 精米してからすりつぶした方がきれいな粉になるが、市場(しじょう)的にそこまで求められていないのである。

 だからパンも白くない黒パンとなる。

 まぁ精米は自分でやろう、と心に決めてお兄さんの作業を眺めることにする。

「今全部籾摺りしちゃいます?

 結構時間がかかると思うけど」

「あ、そうですね。

 とりあえず一キロくらいでいいです。

 残りは後日取りに来ますのでそれまでで」

「あいよ」

 という会話を挟みつつ、籾摺り作業は水車によって自動で進んだ。

 とりあえずの量でもしばしの時間はかかるのだが、農村出身者でも無ければ珍しい作業なので、眺めているだけであっという間に時は進んだ。

 そしてエルシィの手に、玄米状態となった亜麦が渡される。

「……あれ? これ、お米はお米でももしかして……あれれ?」

 どうやらまたしても、エルシィの想定とは違ったらしい。

次は来週の火曜日に更新予定です

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