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じょじたん~商社マン、異世界で姫になる~  作者: K島あるふ
第二章 ハイラス鎮守府編
118/462

118海賊を退けし者

 海賊とは文字通り海に現れる賊である。

 賊とは他人の財貨を奪うことを生業とする者たちであり大悪人だ。

 けしてヒーローなどではない。

 その海賊が出たと聞いて、エルシィたちは驚きに声を上げたわけだが……さて。

 見ればバレッタや報告に来たお役人はその反応にきょとんとしている。

「……あれ? もしかして海賊とか日常茶飯事?」

「? ご飯は美味しいわね?」

 と、これは慣用句が通じなくて会話が成立しなかった例。

 それはともかく、どうやら海賊とやらは頻繁に出没するらしい。

「昔から北航路の奥では出会うことがありましたが、最近は南下してきているようでして……」

「北航路、ですか」

 ふむ、とエルシィは脳裏に地図を思い浮かべる。

 ものすごく大雑把に言えばハイラス領は大陸の南西端に位置するので、陸沿いに船を走らせるなら航路は北と東である。

 その北側へ行くのが読んで字のごとく北航路。

「北航路と言うとセルテ侯国との交易船ですね?」

 フレヤが少し不満げな顔でそう呟く。

「どうしましたフレヤ? そんなぷくぷくして」

 エルシィはその態度が少し気になって首をかしげ、フレヤの頬をつついた。

「セルテ侯国と言えば仮想敵国ではありませんか。

 そんな国との交易船なら海賊にやられたとしてもざまあみろです」

 そう言ってぷんと顔をそらすフレヤだった。

 セルテ侯国と言えばジズ公国に攻め入る決断をした前ハイラス伯爵であるヴァイセルが逃げ込んだ国であり、現在彼はセルテ侯爵家の客員という形で滞在している。

 つまり、フレヤからすれば敵の味方は敵、ということで仮想敵国なのだ。

 こんな態度にエルシィやお役人は苦笑いである。

「確かに北航路と言えば隣のセルテ侯国にも寄港しますが、さらに向こうの国々まで行くのが目的ですよ」

「あら、それは……そうなんですね」

 と、若いお役人はフレヤをなだめるように言い、フレヤは少し恥ずかしそうにシュンとした。

「話が少しそれましたね。

 それで、海賊が出たって?」

 そんなやり取りにエルシィは少しだけ肩をすくめ、そしてバレッタに目を向ける。

 海賊などという秩序への反逆者が暴れまわっているなら、それはそれなりの大事件である。

 であるのに、こうしてお役人が落ち着いているのはバレッタがいるからだろう。

 陸で歩いているだけならただの元気少女にしか見えないバレッタだが、これで海に出れば船の一隻や二隻、敵ではないのだ。

 ……いや海に出たからと言って、見た目は少女のままではあるが。

「あたし今日は非番だから行かないわよ?」

 ところが、である。

 エルシィに目を向けられたバレッタは堂々とそう言い放った。

 まぁ、彼女の言い分はもっともである。

 非番に呼ばれてほいほい仕事するようでは休みの意味がない。

 とはいえ、偉い人間はその辺り区別できないほど忙しいわけではあるが。

 ともかく、今となっては労働者、雇用者、どっちの理屈もわかるだけに、エルシィは無言のままお役人さんとバレッタを交互に見た。

 もしこれでお役人側が慌てるようなら、この場の最上位者として何か指示を出す必要があるかもしれないからだ。

 だが、その必要はなかった。

 お役人はバレッタの拒否も特に気にした風もなくニコリと笑ったからだ。

「いえ、海賊自体はマーマン隊が撃退しましたので。

 それより今いらっしゃるなら被害報告などを直に受けられます。

 後で報告書を読むより手っ取り早いかなと」

 この言葉にはバレッタは少し声を詰まらせて迷ったようだ。

 つまり、休みだけど今ちょっと働いた方が、後々楽できるよ! というお誘いだったわけだ。

 これは確かに迷う。

 しかも現場が今すぐそこにあるのだ。

「マーマン隊と言うのが気になりますし、ちょっと見に行っていいです?」

「お姫ちゃんがそう言うなら仕方ないわ! これも観光の内よね!」

 結局、エルシィの好奇心によりそうなった。


 マーマン隊とはいったいどんな者たちだろう。

 海賊を撃退したというからには海防部隊なのは間違いなさそうだ。

 軍部の者たちだろうか?

 この国において軍に相当するのは騎士府、警士府、または将軍府に所属する者たちだが、将軍府はすでに解体されているし、警士の編成に目を通した時、海防番という割り振りはなかったはずだ。

 そうすると水司内に設置された特別部隊の可能性もある。

 日本でも平時における近海パトロールは自衛隊ではなくて海上保安庁の仕事だ。

 これはジズ公国ではなかった部署なので、エルシィはちょっと楽しみだった。


 はたして、場所を水司の事務所前に移した一行が見たものは、搬送されていくケガ人と、おそらく逮捕された海賊の下っ端が警士に引き渡されているところだった。

 遠くから見えていた騒ぎは、彼らが上陸したところを見ていた野次馬のモノだった。

「彼らがマーマン隊ですか?」

 エルシィが数人いる警士を見て、ちょっと肩透かしくらったような顔で訊ねた。

「いえ、彼らは見た通り警士府の方たちですね。

 マーマン隊はあちらです」

 一行を案内するようについてきたお役人さんが手の平を使ってエルシィたちの視線を誘導する。

 追ってみれば、その手が指し示すのは船の向こう、海原の先。

「?」

 不思議に首をかしげながら目を凝らすと、その波間に何かが跳ねて見えた。

「あ、人魚!」

 誰かが声を上げた。

 確かにそれは上半身が人間、下半身が魚。見紛うことなき男性の人魚たちであった。

「名前の通り人魚さんたちでしたか……」

「ほら、あの時、イルカさんたちが人魚を手伝いに行ったじゃない?

 その時の恩返しがしたいっていうから、水司で雇ってみたの」

 なるほどー、と相槌を打ちながら「あの時ってどの時」と記憶を掘り起こす。

「姫様、ハイラス伯国へ来るときの話では?」

 考え込んでいるエルシィを察してキャリナがこそっと耳元でささやく。

「おお」

 思い出したエルシィはポンと手を叩いた。

 そう、あれはエルシィたちがヨルディス陛下救出のために、随行するホーテン卿たちはハイラス伯国を制圧するために、船でハイラス伯国へ向かっている途中。

 人魚さんがバレッタのお友だちであるイルカさんたちにお手伝いをお願いした話である。

「でもあれ、恩を返すならイルカさんたちにするのが筋なんじゃないです?」

「ホワイティたちにはお魚たくさんもらったし、あの時みんな、お姫ちゃんの子分だったじゃない」

 そうでした。

 とエルシィは納得した。

 子分の手柄は親分の手柄。

 これはもう、朝飯前の当たり前なのであった。

次回は来週の火曜予定です

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