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じょじたん~商社マン、異世界で姫になる~  作者: K島あるふ
第二章 ハイラス鎮守府編
114/462

114ライネリオの城

「このような場所で反抗の牙を研いでいたとは、逃げたヴァイセルとは違い骨がありそうですね」

 フレヤがスラリと短剣を抜き、見ていた取り巻きたちがザワつき始める。

 野次馬たちに浮かぶのは、どちらかと言えば痛ましいものを見るような目と、そして反感を湛える目だ。

 そんなことには気を留めず、フレヤは今にもライネリオの首をはねにでも行きそうな剣幕だった。

「フレヤ!」

 慌てたエルシィが押しとどめるように声を上げる。

 つい「はうす!」と続けたくなるが、さすがにそれはとどまった。

 この声を聴いてフレヤもまた焦った。

 当然彼女は良かれと思って行動しているが、それが主の意に沿わないことがあることも知っている。

 ありていに言えば「やってしまった」という気持ちである。

 フレヤがシュンとして構えた剣を降ろすと、ハラハラとした気持ちだった観衆も少しホッとして息を吐いた。

 エルシィもまた大きなため息をついてからライネリオを見る。

 ライネリオはと言えば、この一幕にも動じずただ頭を垂れたままだった。

 大した肝っ玉である。

「ライネリオ殿、でしたか?

 先のハイラス伯のことはお悔やみ申し上げます。

 ヴァイセル殿のことについては……ちょっと何と言っていいか」

「これは、ご丁寧にありがとうございます。

 隣国の姫君からのお言葉に父も泉下にて喜んでいることでしょう。

 兄上については……私としても、何とお詫び申し上げて宜しいやら」

 常時人当たりの良さそうなニコニコ顔であるライネリオだが、兄、ヴァイセルのことを言う時だけは少しばかり気まずい風であった。

 これなら特に復讐とか反抗とか考えている様子はないかな、とエルシィは判断する。

 さて、どうしたものか。

 亡くなった先のハイラス伯の次男ということは、いうなれば王子様だったハズだ。

 「王」子ではないが、まぁそこは言葉のアヤということで流しておいて欲しい。

 ともかく、その王子様がなぜにスラムのボスなどやっているのか。

 これをどう聞き出そうかなぁ。言い辛いかなぁ。

 と、エルシィはしばし思案する。

 だが、そんな遠慮思案をものともしない者もいる。

 神孫の姉、バレッタだ。

「それでライネリオはなんでこんなところにいるの?

 あなた王子様でしょう?」

 言いたいこと全部言われた。

 エルシィのみでなく、側仕え衆までもが同じような思いに目を見開くのだった。

 このあまりにストレートな問いに、当のライネリオも流石にビックリした様で彼もまた目を見開く。

 そしてそれは次第に苦笑いへと変わった。

「それほど深い理由は無いのですが……

 まぁこのようなところで立ち話もなんですし、どうぞこちらへ」

 ライネリオは控えめにそっと立ち上がり、腰を低くしたまま「どうぞ」と案内するように歩き出す。

 また警戒するフレヤとアベルだが、ライネリオの意を汲んだ傷顔の男や子分たちは、黙って道を開け、野次馬に集まったスラムの者たちもそれに従った。

 なのでライネリオを先頭にするエルシィたちの列は、誰にも邪魔されることなく進むこととなった。


 しばらく進んで、あばら家の中では少しはマシな建屋が見えて来る。

 おそらく何十年前かなら、街場にある中でもまれにみる程度の、ちょっとしたお屋敷だったのだろう。

「姫君様をご招待するには不足ですが、これでもこの町ではよい方なのでご勘弁ください」

 振り向いてそう説明するライネリオにエルシィは無言で微笑み頷く。

 エルシィの中身となっている丈二は、戦争で荒らされた国にも仕事で何度も訪れている。

 そうした街並みを見知っているから、この光景も「まだ建ってるのだから全然おっけー」と軽く感じていた。

 一行ではキャリナだけが眉をしかめている状況だ。

 ただ、流石にここで文句を言わないくらいの分別はある。

 そんなキャリナだが、屋敷の中に案内されると少しだけ軟化して「ほう」と感心の吐息を漏らした。

 外のボロさとは裏腹に、内部は良く手入れされている。

 古さは感じるが、それでもそれなりの地位の者が出入りすることを想定したいくばくかの豪華さを感じた。

「この屋敷はこれまで貧民街を取り仕切っていた方々が住んでいたところです。

 今は私が使わせていただいております。

 さ、お茶を淹れますので、しばしお待ちください」

 食堂に案内されると、ライネリオはそう言って少し場を離れた。

 彼が消えて行った扉は、おそらく厨房に繋がっているのだろう。

「軽く言ってましたが、つまり彼は前のボスから地位を奪ったということでしょうか」

「平和的に禅譲されたのかもしれませんよ?」

 キャリナのつぶやきに、エルシィがまたつぶやきで応える。

 そんなはずないでしょう。という風にキャリナはため息を吐いたが、エルシィの笑顔を見て言い返す気にはならなかった。

「ともかく、のほほんとした見た目とは違って、相当なやり手であることは確かでしょうね」

 エルシィはライネリオの消えて行った扉を見つめながら、そう呟きをつづけた。

次は金曜更新予定です

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